定年とは、従業員がある一定の年齢に達すると雇用契約が終了することをあらかじめ定める制度です。60歳未満の定年を設けることは高年齢者雇用安定法で禁止されており、多くの企業が60歳を定年としています。この定年を引き上げることを定年延長といいます。
高年齢者雇用安定法では、65歳まで雇用の機会を確保するための措置が企業に義務化されており、また、令和3年4月の改正によって、70歳まで就業機会を確保するための措置が企業の努力義務とされました。このような義務への対応には様々な選択肢がありますが、その選択肢のひとつが定年延長です。
しかし、定年の延長にはデメリットもあり、これを回避するためには十分な検討が必要です。定年延長により、人件費の高止まりや組織の高齢化といったデメリットを生じさせないためには、延長された期間の処遇に関する制度の整備、さらには年功序列型の賃金体系の廃止とセットで検討することが重要です。また、退職金制度の見直しも必要になります。
この記事では、定年延長のメリット・デメリット、再雇用制度との違い、企業がとるべき対策等について解説します。
▶参考情報:定年延長とは?全般的な説明については、以下の記事で詳細に解説していますのでご参照ください。
この記事でも解説しますが、定年延長は退職金制度の変更や延長後の処遇についての制度の整備、さらには年功序列型の賃金体系の変更とセットで検討することが重要です。特に賃金体系の変更は、賃金が減額される従業員が出るという点で、不利益変更になりますので、必ず弁護士に相談のうえ、変更方法を慎重に検討したうえで実施してください。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますので、ご利用ください。
咲くやこの花法律事務所における人事労務分野に関するサポート内容は、以下で詳しくご紹介していますので、ご参照ください。
▶参考情報:労働問題に強い弁護士への相談サービス
※咲くやこの花法律事務所の人事労務分野における解決実績を以下でご紹介していますので、ご参照ください。
▶参考情報:労働問題・労務の事件や裁判の解決事例
※参考情報:高齢者雇用安定法の法律について
・高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)はこちら
▼【関連動画】西川弁護士が「企業の定年延長!メリット・デメリットと進め方を弁護士が解説!」を詳しく解説中!
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,定年延長のデメリットは?
まず、企業が定年を延長することのデメリットから見ていきましょう。
定年延長のデメリットとしては、人件費の増加や組織の高齢化等が挙げられます。また、問題を抱えた従業員も継続して雇用することになる点や、従業員の能力や健康面に不安がある場合も雇用を終了することが難しくなる点、一度定年を延長すると元に戻すことが難しい点もデメリットといえるでしょう。以下で詳しく解説します。
(1)人件費が増加する
近年では成果主義型の賃金制度を採用している企業も増えていますが、それでも日本企業では年功序列型の賃金制度がいまだに根強く残っています。そのため、一般的には年齢が高くなるほど給与も高くなります。定年を延長すると、賃金が高い高年齢層の労働者を雇用し続けることになり、その分、人件費の負担が大きくなる可能性があります。定年延長を機に役職定年制などを採用した場合でも、高年齢層の労働者の賃金は若年層よりも高額になることが通常でしょう。
さらに、日本の多くの企業では、正社員としての勤続年数が長くなれば退職金が増える制度が採用されているため、定年が延長されることにより、退職金の額も増えることが通常です。
▶参考情報:定年延長と退職金の関係については以下の記事をご参照ください。
ただし、この人件費増加のデメリットは、定年延長と同時に、賃金制度を改め、また、退職金制度を適切に設計することによって解決することが可能です。
(2)組織の高齢化
定年を延長することによって、新規採用を抑制しなければならなくなったり、人材の入れ替わりに停滞が生じ、組織の高齢化が進む原因になる可能性があります。また、高年齢層が上位の役職にとどまり続けることが、若年層の成長を阻害することもあります。さらに、組織内の年齢層が偏ると、組織の風通しが悪くなり、若手が根付かない要因になり得るので注意が必要です。定年延長を検討する場合は、このようなデメリットを回避するために、延長された期間における人材配置の仕組みを適切に設計しなおすことが大切です。
加えて、高年齢者は体力面や健康面に不安を抱えていることが少なくありません。以下のグラフが示すように高年齢層では労災発生率も高くなります。病気やケガのリスクが高くなるため、それらに配慮した職場環境や勤務体制の整備が必要になります。
▶参考:年齢別の労災発生率(千人率)※データ出所:労働者死傷病報告(令和4年)
・参照元:厚生労働省「令和4年 高年齢労働者の労働災害発生状況」(pdf)3ページ
(3)問題を抱えた従業員も引き続き雇用することになる
例えば、勤務成績・勤務態度が良くない従業員や、健康状態・体力に不安がある従業員等についても、延長された定年までは雇用することが原則になります。これらの問題をかかえた従業員についても、解雇事由があるとまでいえない場合は、従業員が自分の意思で退職しない限り、雇用を終了することが困難になります。
(4)定年を延長するともとに戻すことは簡単ではない
企業が、労働者との合意なく就業規則を変更して労働条件を不利益に変更することは原則として禁止されています(労働契約法9条)。いったん延長した定年をもとに戻すことも、この不利益変更にあたります。
例外的に、労働者との合意がなくても、就業規則を変更することで労働条件の変更が認められる場合もありますが、そのためには、就業規則の変更に合理性が認められ、かつ、変更後の就業規則を労働者に周知することが必要です(労働契約法10条)。一度定年を延長した後で元の定年に戻そうと思うと、特にこの「合理性」の点で相当高いハードルを越えなければなりません。そのため、定年の延長には慎重な判断が求められます。
▶参考情報:就業規則の不利益変更については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
参考までに、実際の裁判で、定年の引き下げが問題となった事例をご紹介すると、以下のようなものがあります。いったん定年を延長した後にこれを元に戻す場合も同様の問題が生じ得ます。
▶裁判例1:大阪地方裁判所判決平成25年2月15日(大阪経済法律学園事件)
大学が教員の定年を70歳から67歳に引き下げた上で、定年後再雇用されれば70歳まで雇用するとした事案です。裁判所は高年齢層に偏った教員の年齢構成を是正するために定年を引き下げる必要性はあるとしながらも、教員らの不利益が大きく、代償措置が不十分であるとして、定年の引き下げは無効と判断しました。
▶裁判例2:東京高等裁判所判決平成17年3月30日(芝浦工業大学事件)
大学が、教員の定年を72歳から65歳に引き下げたことについて、教員らが定年引き下げの無効の確認を求めた事案です。この事案で、大学は、定年を引き下げる代わりに退職金を1.7倍に増額する等の代償措置を実施していました。裁判所は、年齢の偏り解消や人件費削減の必要は高く、代償措置も不十分ではないとし、引き下げは有効と判断しました。この事案からもわかるように、定年の引き下げが認められるためには、十分な代償措置が必要となることが通常です。
2,定年延長のメリットは?
一方、定年を延長するメリットには、安定して働き手を確保することができる点があげられます。また、業務経験が豊富な従業員が継続して働くことになるため、人材の採用や育成にかかるコストを削減することができます。最近では、人手不足の背景もあり、中小企業を中心に従来の定年を延長する例が増えています。
以下で詳しく解説します。
(1)働き手を確保することができる
少子高齢化が進む現代では、働き手の確保が企業にとって大きな課題になっています。求人しても人が集まらず、人手不足に陥る企業は少なくありません。定年の延長により労働力を確保することができる点は企業にとって大きなメリットといえます。
この点は、日本社会全体から見ても重要であり、経済協力開発機構(OECD)は、令和6年1月に公表した対日経済審査の報告書の中で、人口が減る日本で働き手を確保するための改革案として、定年の廃止や定年の引き上げが必要であるとしています。
ОECDは「企業が定年を設定する権利を廃止すれば、雇用が増加し、賃金設定における年功序列の役割が弱まり、女性や若年労働者にも利益をもたらす可能性がある。平均余命の上昇に合わせて年金支給開始年齢を65歳の目標を超えて引き上げることもまた、就労インセンティブを強化することになるだろう。これらの改革には、生涯学習への参加率が比較的低い高齢労働者のリ・スキリング施策を伴うべきである。」としています。
(2)採用・育成のコストを削減できる
新たに人材を採用する場合、時間と費用と労力をかけて採用を行い、人材を育成していかなければなりません。定年を延長する場合は、業務経験が豊富な従業員が継続して働くことになるため、人材の採用や育成にかかるコストを削減することができます。高年齢層に、若手従業員の指導役や育成役としての役割を期待することができる点もメリットといえるでしょう。
(3)助成金を受給できる
定年延長のメリットというよりは、定年延長に対する公的な支援という方が正確ですが、企業が高齢者雇用や高齢者の就労環境の整備に取り組んだ場合に、受給できる助成金が複数あります。
例えば以下のようなものです。
1,特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
60歳以上の高年齢者等を継続的に雇用した場合に支給される助成金:最大60万円
2,65歳超雇用推進助成金
65歳以上への定年の引き上げや定年の廃止、継続雇用制度の導入、高年齢者向けの雇用管理制度の整備の実施、有期雇用契約から無期雇用契約への転換等をした場合等に支給される助成金:最大160万円
3,定年延長する事業者が増えている背景
従来は60歳を定年としている企業がほとんどでしたが、近年では、定年を延長したり、定年制を廃止したりする企業が増えています。
厚生労働省が令和4年6月に行った、従業員21人以上の企業を対象とする調査では25.5%の企業が定年を65歳以上とし、1.9%の企業が70歳以上としています。また、3.9%の企業が定年を廃止しています。
これは、高年齢者雇用安定法の改正により、企業に65歳までの雇用確保措置が義務付けられ、また、70歳までの就業機会確保措置が努力義務化されたことも影響しています。以下でその概要を紹介します。
(1)65歳までの雇用確保措置とは?
定年を60歳未満とすることは高年齢者雇用安定法で禁止されています(高年齢者雇用安定法8条)。また、定年を65歳未満としている事業者は、65歳までの雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を講じることが義務づけられています(高年齢者雇用安定法9条1項)。
- ①65歳までの定年の引き上げ
- ②定年制の廃止
- ③65歳までの継続雇用制度の導入
▶参考情報:高年齢者雇用安定法9条
第九条 定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
(2)70歳までの就業機会確保措置とは?
令和3年4月1日の法改正により、65歳までの雇用確保措置に加えて、新たに65歳から70歳までの就業機会を確保するため、以下のいずれかの措置を講じることが事業者の努力義務とされました(高年齢者雇用安定法10条の2)。
- ①70歳までの定年の引き上げ
- ②定年制の廃止
- ③70歳までの継続雇用制度の導入
- ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- ⑤70歳まで継続的に、事業主が実施する社会貢献事業または事業主が委託・資金提供等をする団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入
▶参考情報:高年齢者雇用安定法10条の2
第十条の二 定年(六十五歳以上七十歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主又は継続雇用制度(高年齢者を七十歳以上まで引き続いて雇用する制度を除く。以下この項において同じ。)を導入している事業主は、その雇用する高年齢者(第九条第二項の契約に基づき、当該事業主と当該契約を締結した特殊関係事業主に現に雇用されている者を含み、厚生労働省令で定める者を除く。以下この条において同じ。)について、次に掲げる措置を講ずることにより、六十五歳から七十歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない。ただし、当該事業主が、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合の、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を厚生労働省令で定めるところにより得た創業支援等措置を講ずることにより、その雇用する高年齢者について、定年後等(定年後又は継続雇用制度の対象となる年齢の上限に達した後をいう。以下この条において同じ。)又は第二号の六十五歳以上継続雇用制度の対象となる年齢の上限に達した後七十歳までの間の就業を確保する場合は、この限りでない。
一 当該定年の引上げ
二 六十五歳以上継続雇用制度(その雇用する高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後等も引き続いて雇用する制度をいう。以下この条及び第五十二条第一項において同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
高年齢者雇用安定法の改正については、以下の厚生労働省のウェブページもご参照ください。
高年齢者雇用安定法で、これらの措置が企業の義務あるいは努力義務とされた背景には、年金支給開始年齢の引き上げにともない定年と年金支給開始年齢の間の収入の空白期間の埋め合わせをする必要が生じたことや、少子高齢化が進み労働人口が減少していること、健康寿命が延びたことでもっと長く働きたいと考える高齢者が増加したことなどがあります。いずれも定年の引き上げを義務付けるものではありませんが、これらの義務を果たす方法の1つとして定年の延長を検討する企業が増えています。
4,定年延長と再雇用制度を比べた場合のメリット・デメリット
正社員として勤務していた従業員を高年齢になっても雇用し続ける仕組みとしては、定年の延長のほかに、再雇用制度(継続雇用制度)があります。
定年延長は、定年を引き上げて、60歳以上の従業員を若年層と同じ雇用形態のまま、雇用を継続する仕組みです。これに対し、再雇用制度(継続雇用制度)は、定年自体は60歳のままとしたうえで、60歳で正社員としての雇用をいったん終了し、改めて嘱託社員等として再雇用する制度です。
ここからは定年延長と再雇用制度(継続雇用制度)のそれぞれのメリット・デメリットについて解説します。
(1)定年延長のメリット
退職を挟まないので、業務への影響が少なく、また、無期雇用を継続することになるため、再雇用制度に比べて雇用管理に手間がかかりません。正社員として雇用し続けることになるので、従業員のモチベーションを維持しやすい点もメリットといえます。
(2)定年延長のデメリット
年功序列型が多い日本企業の賃金制度では、勤続年数が長くなるほど人件費が高くなるため、人件費が増加する恐れがあります。また、若年層と同じ雇用形態のまま雇用を継続することになるため、再雇用制度に比べて、賃金を大幅に引き下げたり、労働時間を減らすといった、労働条件の大幅な変更が難しい点もデメリットです。そして、全員一律での延長となりやすく、能力や勤務態度に問題を抱えた従業員についても延長後の定年まで雇用を終了させることが難しくなることもデメリットと言えるでしょう。
(3)再雇用制度(継続雇用制度)のメリット
定年により一旦雇用関係を終了することになるため、定年前と同じ労働条件で雇用する必要がなく、従業員の能力や健康状態、企業側のニーズ等にあわせて、雇用形態や業務内容、労働時間、賃金等を変更できる点が再雇用制度のメリットです。勤務日数や勤務時間を減らしたり、賃金を見直したりすることで、人件費を抑えることも可能です。また、65歳までは、原則として希望者全員を再雇用の対象とする義務がありますが、65歳以降についての雇用は努力義務であるため、一定の基準で再雇用者を選別することが認められています。65歳以降については、このような選別が可能になる点もメリットといえるでしょう。
(4)再雇用制度(継続雇用制度)のデメリット
定年をきっかけとする労働条件の大幅な変更が従業員との紛争の原因となることがあります。また、再雇用制度では例えば1年契約を更新しながら雇用する制度など、有期雇用が採用されることが多いです。有期雇用では、更新のたびに、労働条件通知書や雇用契約書で従業員に対して労働条件を明示することが義務付けられています(労働基準法15条1項)。そのため、雇用期間の期限の管理や、更新時の労働条件明示に手間がかかることも、再雇用制度のデメリットです。さらに、正社員とは異なる雇用形態となり、労働者のモチベーションが下がってしまう可能性があることもデメリットと言えるでしょう。
▶参考情報:労働条件の明示義務については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
ここまでご説明した定年延長と再雇用制度のメリット・デメリットをまとめると以下のとおりです。
▶参考:定年延長と再雇用制度のメリット・デメリットの比較表
メリット | デメリット | |
定年延長 | ・退職を挟まないので業務への影響が少ない ・雇用管理に手間がかからない ・労働者のモチベーションを維持しやすい |
・人件費が増加する可能性がある ・労働条件の大幅な変更が難しい ・能力や勤務態度に問題を抱えた従業員についても延長後の定年まで雇用を終了させることが難しくなる |
再雇用制度 | ・定年を機に労働条件を変更できる ・人件費を抑制しやすい ・65歳以降については成績等の基準で継続雇用者を選別することが可能 |
・労働条件の変更により待遇面でトラブルになる可能性がある ・雇用管理に手間がかかる ・正社員とは異なる雇用形態となり、労働者のモチベーションが下がってしまう可能性がある |
厚生労働省が令和4年6月に行った、従業員21人以上の企業を対象とする高年齢者雇用確保措置の実施状況についての調査では、対象企業のうち、定年を廃止した企業が3.9%、定年を延長した企業が25.5%、再雇用制度などを導入した企業が70.6%という結果でした。(▶参考情報:厚生労働省 – 令和4年「高年齢者雇用状況等報告」)
定年延長にはメリットもありますが、一度延長すると元に戻すことは難しく、労働条件の大幅な変更も難しいという問題もあります。そのため、多くの企業では、定年延長ではなく再雇用制度の導入を選択しているのが実情です。
5,企業がとるべき対策
次に、ここまでご説明した定年延長のメリットやデメリットを踏まえた上で、企業がとるべき対策として、「就業規則や退職金規程の改訂」や「人件費の高騰を防ぐ対策」、「年功序列型賃金の見直し」について解説したいと思います。
(1)就業規則や退職金規程の改訂
定年を延長する場合は、就業規則の定年の規定を変更する必要があります。また、延長前の定年を前提に設計された退職金制度の見直しも必要です。
(2)人件費の高騰を防ぐ対策
人件費の高騰を防ぐために、延長された雇用期間について家族手当や住宅手当を不支給とすることや、役職定年制を導入することも検討が必要です。また、延長された雇用期間については基本給を例えば7割相当額とするなど、基本給を減額する規定を設けることも可能です。ただし、そのような不利益変更は、必ず、定年延長という従業員にメリットのある施策と同時に行う必要があることに注意してください。定年を延長した後に、上記のような不利益変更を行うと、単なる不利益な変更となってしまい、不利益変更の効力が認められないリスクを負うことになります。
(3)年功序列型賃金の見直し
そもそも定年制というのは、年功序列の賃金体系となることが多い日本企業において、賃金が高額化した高年齢層の従業員を一定の年齢で退職させることにより、人件費負担が過大になることを防ぐ制度としての意味があります。つまり、年功序列の賃金体系と定年制は切っても切り離せない関係にありました。定年を廃止したり、定年を延長する場合は、年功序列の賃金体系から成果主義型の賃金体系に改めることが整合的です。ただし、このような賃金体系の変更は、賃金が減額される従業員が出るという点で、不利益変更になりますので、弁護士に相談のうえ、変更方法を慎重に検討したうえで実施することが必要です。
6,公務員の定年延長のメリット・デメリット
定年延長の動きは公務員にも広まっています。令和5年4月に法律が改正され、公務員の定年が段階的に引き上げられることになりました。
令和4年度から令和13年度までの約10年間で、2年ごとに1歳ずつ定年が引き上げられ、最終的に65歳まで延長されます。
公務員の立場からすると、定年が延長されることにより、年金の支給開始までの無収入期間がなくなり、経済的な不安を解消されるメリットがあります。また、行政側も、安定した人材確保ができることや採用や育成のコストを削減できる等のメリットがあります。
一方で、公務員の場合、60歳以降の給与は60歳の時の7割相当の給与水準になるため、給与が減額されるというデメリットがあります。行政側も、若い人材の雇用機会が減ったり、人件費が増加したりする等のデメリットがあります。
▶参考情報:公務員の定年延長については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
7,定年延長に関して咲くやこの花法律事務所の弁護士に相談したい方はこちら
咲くやこの花法律事務所では、事業者側の立場で、定年延長等の高齢者雇用に関する制度整備や、トラブル時の対応についてご相談をお受けしています。以下で咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。
(1)定年の延長に関するご相談
高年齢者雇用安定法の雇用確保措置や就業機会確保措置にどのように対応するかは多くの事業者が悩むところだと思います。
それぞれの制度の特徴やメリット・デメリットを理解しないまま安易な対応をすると、後々大きなトラブルを招く原因になることもあり得ます。
咲くやこの花法律事務所では、人事労務分野に精通した弁護士が、制度導入についてのアドバイスや、就業規則や雇用契約書、雇用管理の整備、退職金制度の変更などのサポートを行っています。この記事でも解説した通り、定年延長は賃金体系の変更とセットで実施することが重要です。そして、賃金体系の変更は、賃金が減額される従業員が出るという点で、不利益変更になりますので、弁護士に相談のうえ、変更方法を慎重に検討したうえで実施することが必要です。
もし何かトラブルが発生してしまったときも、弁護士にご相談いただき、弁護士の助言を受けながら対応していただくことで、トラブルによる損害をより小さく抑えることができます。初期段階でご相談いただくことがより良い解決の鍵になることが多いため、早めのご相談をおすすめします。
咲くやこの花法律事務所の人事労務分野に精通した弁護士への相談費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(2)顧問弁護士サービスのご案内
咲くやこの花法律事務所では、定年の延長に関するご相談やそれに伴うトラブル予防・トラブル解決はもちろん、事業者の労務管理全般をサポートするための顧問弁護士サービスを提供しています。
顧問弁護士サービスの一番のメリットは予防法務に取り組むことができる点です。一度トラブルが発生してしまうと、その対応のために労力面や金銭面での負担が発生し、事業者は少なからずダメージを受けることになります。法務トラブルによる損害を最小限に抑えるためには、なによりもトラブルを発生させないことが重要です。日ごろからこまめに弁護士に相談し、就業規則や雇用管理体制を整備していくことで、トラブルに強い企業を作ることができます。
咲くやこの花法律事務所では、事業者側の立場で数多くの事案に対応してきた経験豊富な弁護士が、トラブルの予防、そしてトラブルが発生してしまった場合の早期解決に尽力します。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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8,まとめ
この記事では、定年延長のメリット・デメリットや、定年延長と再雇用制度(継続雇用制度)を比較したときのそれぞれメリット・デメリット、定年を延長するときに企業が取り組むべき対策について解説しました。
定年延長のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット |
・働き手を確保することができる ・採用・育成のコストを削減できる ・助成金を受け取れることがある |
・人件費が増加する可能性がある ・組織の高齢化 ・問題を抱えた従業員も引き続き雇用することになる ・一度定年を延長すると元に戻すのは難しい |
定年延長と再雇用制度を比較すると、定年延長は安定して働き手を確保することが可能で雇用管理も複雑にならないというメリットがある反面、人件費の増加や組織の高齢化につながる可能性があります。ただし、このようなデメリットは、賃金体系や組織における昇進の仕組みを定年延長を機に適切に見直すことによって回避可能です。
一方、再雇用制度は、定年を機に、従業員の能力や体調、事業者側のニーズにあわせて配置や勤務時間・日数等の労働条件を変えることができるというメリットがある一方、労働条件をめぐって従業員とトラブルになりやすいという側面があります。
高年齢者雇用安定法で義務付けられた雇用機会確保措置としていずれの方法を選択するかは企業の自由ですが、筆者としては、日本社会の高齢化の状況を踏まえると定年を65歳以上に延長する流れは今後加速していくだろうと考えます。年金財政の悪化や労働人口の減少を踏まえると、高齢者雇用促進の動きが今後も拡大していくことは確実です。定年延長に伴う制度設計や、高年齢者雇用安定法への対応にお困りの方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所へご相談ください。
9,【関連】定年延長に関するその他のお役立ち記事
この記事では、「定年延長のメリット・デメリットとは?わかりやすい解説まとめ」について、わかりやすく解説しました。定年には、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
以下ではこの記事に関連する定年のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・定年した従業員の再雇用を拒否することは可能?重要な注意点を解説
・【再雇用契約書ひな形付き】定年後再雇用や嘱託社員の労働条件の注意点
記事更新日:2024年7月23日
記事作成弁護士:西川 暢春
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