こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
定年の延長について、定年延長は義務なのか、デメリットはないのか、退職金や給与はどうすべきなのかなど、わからなくて困っていませんか?
定年とは、従業員がある一定の年齢に達したときに雇用契約が終了することをあらかじめ定める制度のことです。従来、日本では大多数の企業が60歳を定年としていました。しかし、近年は、高年齢者雇用安定法の改正や人手不足の影響で、定年を延長する企業が増えています。公務員の定年も60歳から65歳に段階的に引き上げられることになりました。
このような背景もあり、咲くやこの花法律事務所でも、企業から定年延長についてご相談をお受けする機会が少なくありません。特に人手不足の背景がある場合は、定年延長に積極的に取り組むべきであるというのが私の考え方です。
ただし、定年延長を実際に進めるにあたってはリスク面も踏まえて慎重に検討したうえで決める必要があります。十分検討しないまま安易に定年を延長すると、人件費の高騰や組織の高齢化の原因となり、会社にとってマイナスになりかねません。このようなデメリットを生じさせないためには、定年延長は、退職金制度の変更や延長後の処遇についての制度の整備、さらには年功序列型の賃金体系の変更とセットで検討することが重要です。
この記事では「定年延長は義務なのか」や、定年延長のメリット・デメリット、定年延長に関する助成金、定年延長の導入にあたり企業が気を付けるべきこと等を解説します。
定年を一度延長すると、元の年齢に戻すことは簡単ではありません。定年の引き下げは、労働条件の不利益変更にあたるため、原則として個々の労働者との合意が必要になります。例外的に、労働者との合意がなくても、就業規則を変更することで労働条件の変更が認められる場合もありますが、そのためには、就業規則の変更に合理性が認められることが必要です(労働契約法10条)。この「合理性」は簡単には認められません。
そのため、定年延長にあたっては、弁護士に相談したうえで、後戻りが難しいことも踏まえて、その制度設計を慎重に検討することが必要です。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますので、ご利用ください。
咲くやこの花法律事務所における人事労務分野に関するサポート内容は、以下で詳しくご紹介していますので、ご参照ください。
▶参考情報:労働問題に強い弁護士への相談サービス
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▶参考情報:労働問題・労務の事件や裁判の解決事例
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,定年延長とは?
定年延長とは、就業規則において定められている定年を延長することをいいます。日本では多くの企業で60歳が定年とされていましたが、人手不足等の背景から定年を延長する企業が増えています。令和4年の調査では65歳以上を定年とする企業の割合は24.5%で、平成17年の調査以降、過去最高となりました。
▶参考:定年制・定年年齢・定年延長の意味
▶参考情報:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」
2,いつから定年延長が義務化される?
定年延長に関してよくある質問に、「65歳までの定年延長が義務化されるのか」「いつから義務化されるのか」というものがあります。
しかし、結論からいうと、現在の法律では定年は60歳以上であればよく、60歳を超える定年延長は義務ではありません。また、現時点で、60歳を超えて定年を延長することが義務化される予定もありません。
定年延長が義務であるかのような誤解が生じたのは、高年齢者雇用安定法で65歳までの雇用機会確保措置が義務付けられたことが大きく関係していると思われます。以下では高年齢者雇用安定法について解説します。
(1)高年齢者雇用安定法とは?
高年齢者雇用安定法の正式名称は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」で、働く意欲のある高年齢者がその能力を発揮し、活躍することができる環境を整備することを目的として定められた法律です。
この法律において、60歳未満を定年とすることが原則として禁止されています(高年齢者雇用安定法第8条)。逆に言えば、60歳以上であれば、何歳を定年とするかは企業が自由に決めることができます。
(2)65歳までの雇用確保措置とは?
高年齢者雇用安定法は、原則としてすべての企業に65歳までの雇用確保措置を義務付けています。その内容は、企業に、以下のいずれかの措置を講じることを義務付けるものです(高年齢者雇用安定法第9条1項)。
- ①65歳までの定年の引き上げ
- ②定年制の廃止
- ③希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度の導入
企業に義務付けられているのは、上記のいずれかの方法で、高年齢の従業員に65歳までの雇用の機会を提供することです。どの方法で実施するかは企業が自由に選ぶことができます。定年延長は雇用確保措置の選択肢の一つであり、定年延長が義務付けられるわけではありません。
▶参考情報:高年齢者雇用安定法9条
第九条 定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
さらに、定年を65歳以上70歳未満に定めている企業または継続雇用制度を導入している企業は、高年齢の従業員が70歳まで働く機会を確保するため、以下のいずれかの措置を行うことが努力義務とされています(高年齢者雇用安定法第10条の2)。
これは就業機会確保措置と呼ばれますが、これについても定年の延長以外に継続雇用制度の導入などの選択肢があるうえ、現時点では努力義務とされており、企業に定年延長を義務付けるものではありません。
▶参考情報:高年齢者雇用安定法10条の2
第十条の二 定年(六十五歳以上七十歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主又は継続雇用制度(高年齢者を七十歳以上まで引き続いて雇用する制度を除く。以下この項において同じ。)を導入している事業主は、その雇用する高年齢者(第九条第二項の契約に基づき、当該事業主と当該契約を締結した特殊関係事業主に現に雇用されている者を含み、厚生労働省令で定める者を除く。以下この条において同じ。)について、次に掲げる措置を講ずることにより、六十五歳から七十歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない。ただし、当該事業主が、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合の、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の同意を厚生労働省令で定めるところにより得た創業支援等措置を講ずることにより、その雇用する高年齢者について、定年後等(定年後又は継続雇用制度の対象となる年齢の上限に達した後をいう。以下この条において同じ。)又は第二号の六十五歳以上継続雇用制度の対象となる年齢の上限に達した後七十歳までの間の就業を確保する場合は、この限りでない。
一 当該定年の引上げ
二 六十五歳以上継続雇用制度(その雇用する高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後等も引き続いて雇用する制度をいう。以下この条及び第五十二条第一項において同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
3,定年延長と継続雇用制度の違い
ここまでご説明した通り、高年齢者雇用安定法で65歳までの雇用確保措置が義務付けられた結果、原則としてすべての企業は、定年を廃止しない限り、定年を65歳以降にまで延長するか、希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度を導入しなければなりません。
このうち、定年延長とは、文字通り、定年年齢を引き上げることをいいます。これに対して、継続雇用制度は、元の定年年齢を維持した上で、定年後の労働者を引き続き雇用する制度のことです。ここからは、定年延長と比較されることが多い、継続雇用制度について解説します。
(1)継続雇用制度
継続雇用制度は、定年に達した労働者を、本人の希望によって定年後も引き続いて雇用することです。継続雇用制度には、再雇用制度と勤務延長制度があります。
1,再雇用制度
再雇用制度は、定年に達した労働者を一旦退職させた上で、新たに雇用契約を結んで雇用する制度です。
それまでの雇用形態を維持する必要はなく、有期雇用契約社員や嘱託社員等として雇用することが可能です。定年退職を機に業務内容や勤務日数等の労働条件を変更したうえで再雇用することも可能です。
再雇用制度については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
2,勤務延長制度
勤務延長制度は、定年に達した労働者を退職させることなく、定年退職日以降も引き続き雇用する制度です。それまでの雇用形態を維持することが原則で、業務内容や勤務日数等の労働条件も定年前と大きく変わらないのが特徴です。
(2)定年延長している企業の割合
厚生労働省が令和5年6月に行った、高年齢者雇用確保措置の実施状況に関する調査では、対象企業のうち、継続雇用制度を導入した企業は69.2%、定年を延長した企業は26.9%、定年制を廃止した企業は3.9%という結果でした。
▶参考情報:厚生労働省『令和5年「高年齢者雇用状況等報告」』
定年を延長した場合、例えば勤務成績や勤務態度がよくない従業員や、健康状態や体力に不安がある従業員についても、延長後の定年に達するまでは雇用することが原則です。問題を抱えた従業員についても、解雇事由があるとまではいえない場合は、従業員が自分の意思で退職しない限りは、定年前に辞めてもらうことが難しくなります。
この点、継続雇用制度であれば、定年後の雇用を有期雇用契約にしたり、労働条件を定年前とは変更したりすることで、企業側である程度コントロールすることができます。
また、一度定年を延長すると、元の定年に戻したいと思っても、原則として、個々の労働者の同意が必要になり、簡単には元に戻せないのが現実です。そのため、多くの企業では、定年延長ではなく、継続雇用制度の導入によって高年齢者雇用安定法で義務付けられる雇用確保措置に対応しています。
4,なぜ定年を延長するのか?
では、このように継続雇用制度の導入という選択肢もあるにもかかわらず、定年延長を行う企業が少しずつ増えているのはなぜでしょうか?
定年延長は継続雇用制度と比べて、労働者から見た場合に60歳を超えて働く際の賃金の額が維持されやすく、その結果、安定的に就業しやすいという傾向があります。以下のような理由から定年延長を選択する企業が少しづつ増えています。
(1)年金支給開始年齢の引き上げ
1つの理由は、年金支給開始年齢の引き上げです。平成12年に法律が改正され、老齢厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳に段階的に引き上げられました。60歳を定年とすると、年金支給開始年齢に達するまでの期間に収入の空白期間が生じることになります。この空白期間に、従業員が安定的に収入を得る手段を確保するという観点から、定年を65歳まで延長する例が増えています。
(2)労働人口の減少
もう1つの理由が人手不足です。少子高齢化が進み、労働人口はどんどん減少しています。特に中小企業では人手不足が原因でやむを得ず事業を廃止することになるのも珍しい話ではありません。
このような状況の中で、働く意欲のある高齢者が安心して働くことができる環境を整備することは、労働力を確保する上で非常に重要になっています。
(3)就労意欲の高い高齢者の増加
厚生労働省の調査によると、2019年の健康寿命は男性が72.68歳、女性が75.38歳となっており、2001年から3歳前後長くなっています。健康寿命が延びたことで、もっと長く働きたいと考える高齢者が増えたことも、定年を延長する企業が増えた要因のひとつです。
▶参考情報:厚生労働省e-ヘルスネット「平均寿命と健康寿命」
5,定年延長のメリット・デメリット
定年延長には、労働人口が減少する現代において働き手を確保するための有効な手段であることや、人材の採用・育成のコストを削減できること、定年延長に対する公的な支援として助成金を受給することができる等のメリットがあります。
一方で、賃金が高い高年齢層の労働者を雇用し続けることによって人件費の負担が大きくなったり、若手採用の機会が減って組織の高齢化につながったり、問題を抱えた従業員も延長された定年までは原則として辞めさせることができない等のデメリットもあります。
定年延長のメリット・デメリットについては、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
6,定年延長についての反対意見
「5,定年延長のメリット・デメリット」で述べたとおり、定年延長には、人件費の増加や組織の高齢化につながる等のデメリットがあります。これらのデメリットは企業の経営悪化につながりかねないため、定年延長に反対する意見も少なくありません。
しかし、日本社会の少子高齢化の状況や年金財政の悪化、労働人口の減少を踏まえると、高齢者雇用促進の動きが今後も拡大していくことは確実です。そして、今は65歳までの定年延長は義務ではありませんが、将来的に義務化されることも十分あり得る状況です。そのため、筆者の経験上、定年延長によるデメリットを生じさせないための対策に力を入れつつ、定年延長に取り組むことが合理的な経営判断であることも多いです。 定年延長による人件費の増加や組織の高齢化といったデメリットを生じさせないため対策には、年功序列型の賃金体系の廃止や職務給・ジョブ型雇用の導入、退職金制度の見直し、役職定年制の導入や手当の支給対象の見直し等があります。
7,高年齢者雇用で活用できる助成金
厚生労働省は、高年齢者雇用に取り組む企業を支援する助成金をいくつか用意して、高年齢者雇用の取り組みを支援してきました。例えば以下のようなものです。
(1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
高年齢者、障がい者、母子家庭の母などを、ハローワークや民間の職業紹介事業者などの紹介によって、正規雇用、無期雇用、有期雇用として採用し、継続的に雇用した場合に助成を受けることができます。
支給額は1人あたり、中小企業の場合は60万円、中小企業以外は50万円です。短時間労働者として雇い入れた場合、中小企業は40万円、中小企業以外は30万円です。
支給要件、支給額等についての詳細は、以下の厚生労働省のウェブページをご参照ください。
(2)65歳超雇用推進助成金
65歳以上への定年の引き上げや定年の廃止、継続雇用制度の導入、高年齢者向けの雇用管理制度の整備の実施、有期雇用契約から無期雇用契約への転換等をした場合等に支給される助成金で、次の3つのコースに分かれています。
1,65歳超継続雇用促進コース
以下のいずれかを実施した場合に助成を受けることができます。
- 65歳以上に定年を延長したとき
- 定年を廃止したとき
- 希望者全員を対象としする66歳以上の継続雇用制度を導入したとき
- 他社による継続雇用制度を導入したとき
措置内容や60歳以上の雇用保険の被保険者数によって、10~160万円が支給されます。
2,高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る以下の措置を実施した場合に受けることができます。
- 高年齢者の職業能力を評価する仕組みと賃金・人事処遇制度の導入または改善
- 高年齢者の希望に応じた短時間勤務制度や隔日勤務制度などの導入または改善
- 高年齢者の負担を軽減するための在宅勤務制度の導入または改善
- 高年齢者が意欲と能力を発揮して働けるために必要な知識を付与するための研修制度の導入又は改善
- 専門職制度など、高年齢者に適切な役割を付与する制度の導入または改善
- 法定外の健康管理制度(胃がん検診等や生活習慣病予防検診)の導入 等
雇用管理制度の導入や措置の実施に要した経費のうち、中小企業の場合は60%、中小企業以外は45%が支給されます。
3,高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上かつ定年未満の有期契約労働者を無期雇用に転換させたときに助成を受けることができます。
支給額は、対象労働者1人につき、中小企業の場合30万円、中小企業以外は23万円です。
65歳超雇用推進助成金の支給要件や支給額についての詳細は、以下の厚生労働省のウェブページをご参照ください。
▶参考情報:厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」
(3)高年齢労働者処遇改善促進助成金
60歳から64歳までの高年齢の労働者の処遇改善のために、高年齢の労働者に適用される賃金規定等の増額改定に取り組んだ場合に助成を受けることができます。
高年齢労働者処遇改善促進助成金の支給要件や支給額についての詳細は、以下の厚生労働省のウェブページをご参照ください。
▶参考情報:厚生労働省「高年齢者労働者処遇改善促進助成金」
8,定年延長すると退職金が減るのか?
退職金の支給の有無や、支給額・計算方法は企業によって様々です。そもそも退職金制度がない企業もありますが、退職職金制度がある多くの企業では、通常は、勤務年数が長いほど支給額が高くなる仕組みになっています。
定年を延長すると、企業は、延長された期間分、従業員に対して給与を多く支払うことになるので、この点を踏まえて、退職金を減額したいと考える場合もあるかもしれません。
しかし、退職金の減額は労働条件の不利益変更にあたるため、原則として従業員の個別の同意が必要で、企業が一方的に減額することはできません。一方で、定年延長後も、延長に伴う退職金の増額を回避し、延長期間中に退職金が増えない仕組みを導入することは、就業規則等を正しく整備することにより可能です。
そのほかにも、定年延長と退職金の関係について、以下の点を事前に検討し、対応しておくべきでしょう。
(1)退職金の支払時期の問題
退職金の支払時期は、延長後の定年退職時とする方法や、60歳の時点で一度支給する方法等があります。ただし、60歳の時点で支給する場合、在職中に支払われた退職金は、原則として退職金としての税金の控除を受けられないため注意が必要です。
(2)延長後の定年の前にやめた場合の退職金の計算の問題
従業員から延長後の定年に達する前に退職の申出があった場合、自己都合退職扱いとするかどうかという問題もあります。多くの企業では、定年退職か自己都合退職かで退職金の計算方法が異なり、自己都合退職は定年退職よりも退職金が少なくなるのが一般的です。
しかし、従業員からすれば、60歳で定年退職することを前提に人生設計をしていたのに、定年延長によって退職金の支給時期が後ろ倒しになり、支給額が減額されることになるため、不満を感じてトラブルに発展することもあり得ます。従業員とのトラブルを避けるという観点からは、60歳以降は自己都合退職であっても、定年退職と同様の退職金を支給する制度設計にすることも検討に値します。
▶参考情報:定年延長と退職金の関係については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
9,定年延長による給与への影響!給与の減額は可能か?
定年延長による人件費の増加は企業にとっては大きな負担となり得ます。
人件費の高騰を抑えるための方法としては、延長後の期間について家族手当や住宅手当等を不支給とする方法や、役職定年制を導入する方法等もあります。また、延長された雇用期間については基本給を例えば7割相当額とするなど、基本給を減額する規定を設けることも可能です。
ただし、このような制度設計は定年延長と同時に行うことが重要です。定年を延長した後で延長期間中の給与を従業員に不利益に変更することは、労働条件の不利益変更にあたり、その効力が法的に認められないリスクを伴います。
定年延長にともなう給与の減額等は必ず弁護士に相談したうえで実施してください。
10,定年延長について企業がとるべき対応
次に、定年延長にともない、企業がとるべき対策について解説します。
(1)就業規則や雇用契約書の整備
就業規則や雇用契約書の定年に関する定めを変更する必要があります。
退職に関する事項は就業規則に必ず記載しなければならない項目です。そのため、定年を延長する場合は、就業規則を変更した上で、労働基準監督署長に届け出なければなりません。また、変更後の就業規則を従業員に周知することが必要です。
▶参考情報:就業規則や雇用契約書の変更については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(2)賃金制度・退職金制度の見直し
日本企業に多い年功序列型の賃金制度では、年齢が高くなればなるほど賃金が高くなることが一般的です。そのため、定年の延長により、給与が高い高年齢層の従業員の割合が高くなり、人件費が企業の大きな負担になってしまう可能性があります。
そのため、定年延長は、手当の支給対象の見直しや役職定年の導入等、年功序列型の賃金制度の見直しとセットで行うことが重要です。また、延長前の定年を前提に設計された退職金制度の見直しも必要になります。
(3)職場環境の整備
厚生労働省が令和5年5月に公表した労働災害発生状況によると、労災による死傷者数の中で60歳以上の高齢者の占める割合は28.7%と高い割合を示しています。また、60歳以上の労働災害発生率を30代と比較すると、男性は約2倍、女性は約4倍となっており、高齢者の労災リスクが高いことが分かります。
高年齢者は体力の衰えによる労災リスクや健康面での不安を抱えていることが少なくありません。これらの点を踏まえて、職場配置や業務内容、労働時間等を高年齢者の就業に合う形で調整したり、高年齢者の労働者の負担を減らすための設備の導入等の検討をすることが必要です。また、高年齢者が自身の体力について正しく把握し、体力維持に向けた取り組みができるように、定期的な体力チェックの機会を設けることが労災リスクの防止につながります。
▶参考:労災による死傷者数(全年齢に占める60歳以上の占める割合)
・出典:厚生労働省「令和4年高年齢労働者の労働災害発生状況」(pdf)
▶参考情報:厚生労働省「令和4年の労働災害発生状況を公表」
11,公務員の定年延長とは?
ここまで企業の定年延長についてご説明しましたが、公務員については、企業に先行して定年延長が進められています。令和3年に法律が改正され、公務員の定年は従来の60歳から、段階的に65歳まで延長されることになりました。
具体的には、令和5年4月から令和13年4月までの約10年間で、2年毎に1歳ずつ定年を引き上げて、最終的に65歳まで延長します。一方で、国家公務員については、定年延長により、60歳以降から定年までは、給与を60歳の時の7割の水準に減額する考え方が基本となっています。また、退職金については、定年前に退職をする公務員が不利にならないよう、60歳以降定年前に退職する場合であっても、定年退職と同じように算定されます。
地方公務員に適用される制度は、各自治体の条例で定めることになりますが、国家公務員に適用される制度に準じたものになると考えられます。
公務員の定年の段階的引上げの早見表をはじめ、定年延長後の給与や退職金など、公務員の定年延長について詳しくは以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
12,咲くやこの法律事務所の弁護士に相談したい方はこちら
咲くやこの花法律事務所では、事業者側の立場で、定年延長等の高齢者雇用に関する制度整備や、トラブル発生時の対応についてご相談をお受けしています。以下で咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。
(1)定年延長の導入に関するご相談
定年延長は、安定した働き手や優秀な人材の確保ができる等の良い面もありますが、一方で、人件費の増加や組織の高齢化等の問題をともないます。十分に検討や対策をしないまま安易に導入すると、後々トラブルの元になったり、会社に損害を与える結果になりかねません。
咲くやこの花法律事務所では、人事労務分野に精通した弁護士が、制度導入についてのアドバイスや、就業規則や雇用契約書、雇用管理の整備、退職金制度の変更などのサポートを行っています。この記事でも解説した通り、定年延長は賃金体系の変更とセットで実施することが重要です。そして、賃金体系の変更は、賃金が減額される従業員が出るという点で、不利益変更になりますので、弁護士に相談のうえ、変更方法を慎重に検討したうえで実施することが必要です。
もし何かトラブルが発生してしまったときも、弁護士にご相談いただき、弁護士の助言を受けながら対応していただくことで、トラブルによる損害をより小さく抑えることができます。初期段階でご相談いただくことがより良い解決の鍵になることが多いため、早めのご相談をおすすめします。
咲くやこの花法律事務所の人事労務分野に精通した弁護士への相談費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(2)顧問弁護士サービスのご案内
咲くやこの花法律事務所では、定年の延長に関するご相談やそれに伴うトラブル予防・トラブル解決はもちろん、事業者の労務管理全般をサポートするための顧問弁護士サービスを提供しています。
顧問弁護士サービスの一番のメリットは予防法務に取り組むことができる点です。一度トラブルが発生してしまうと、その対応のために労力面や金銭面での負担が発生し、事業者は少なからずダメージを受けることになります。法務トラブルによる損害を最小限に抑えるためには、なによりもトラブルを発生させないことが重要です。日ごろからこまめに弁護士に相談し、就業規則や雇用管理体制を整備していくことで、トラブルに強い企業を作ることができます。
咲くやこの花法律事務所では、事業者側の立場で数多くの事案に対応してきた経験豊富な弁護士が、トラブルの予防、そしてトラブルが発生してしまった場合の早期解決に尽力します。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのご相談はこちら
今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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13,まとめ
この記事では、「定年延長は義務なのか」といったよくある疑問や、定年延長のメリット・デメリット、高齢者雇用で活用できる助成金、定年延長による退職金や賃金への影響等を解説しました。
まず、企業に義務付けられているのは、定年の延長または廃止、継続雇用制度のいずれかの方法で、65歳までの雇用の機会を確保することであり、65歳までの定年延長が法律上義務化されるわけではありません。
定年延長には、安定した働き手の確保や採用・育成コストの削減等のメリットがある一方、人件費の増加や組織の高齢化等のデメリットもあります。導入にあたっては、メリット・デメリットを踏まえて、十分に検討したうえで制度設計することが重要です。
高年齢者雇用で活用できる助成金には、特定求職者雇用開発助成金や、65歳超雇用推進助成金等があります。
勤務年数が長くなる分、一般的には定年を延長した方が退職金は多くなります。定年延長による人件費の高騰を防ぐために、合理的な範囲で給与を減額したり、手当を不支給とすることも可能ですが、賃金の減額はトラブルに発展しやすいため、弁護士に相談した上で慎重に検討するべきです。
年金財政の悪化や労働人口の減少を踏まえると、高齢者雇用促進の動きが今後も拡大していくことは確実です。定年延長に伴う制度設計や、高年齢者雇用安定法への対応にお困りの方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所へご相談ください。人事労務に精通した弁護士がご相談をお受けします。
14,【関連】定年延長に関するその他のお役立ち記事
この記事では、「定年延長とは?義務化や給与への影響、助成金、企業の対応について解説」について、わかりやすく解説しました。定年延長については、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
以下ではこの記事に関連する労働基準法のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・定年した従業員の再雇用を拒否することは可能?重要な注意点を解説
・【再雇用契約書ひな形付き】定年後再雇用や嘱託社員の労働条件の注意点
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年10月1日
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