「待ち時間に対するクレームや苦情」や「治療内容の説明に納得ができないというクレームや苦情」、「接遇に関するクレームや苦情」など、医療現場でのクレームや苦情に悩んでいませんか?
これらクレーム対応の方法を誤ると、クレームや苦情はさらにエスカレートし、本来業務に重大な支障を生じさせ、さらにスタッフを疲弊させてしまいます。
その結果、スタッフの離職が相次ぎ、また、ほかの患者さんも離れてしまうという事態にもなりかねません。
今回は、弁護士が「病院やクリニックのクレームや苦情の対応について基本的なトラブル対処法」をご説明します。
なお、クレーム対応の基礎知識については、以下の記事でわかりやすく解説していますのでご参照ください。
▼【関連情報】病院・クリニックのクレーム対応でお困りの方は、こちらの関連情報も合わせて確認してください。
・モンスターペイシェントとは?対策の基本5つを弁護士が解説!
・自社に非がない場合のクレーム対応の重要ポイントと対応例文について
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,病院やクリニックのクレームや苦情の対応の原則を弁護士が解説
病院やクリニックへのクレームや苦情については、各病院で「クレーム対応マニュアル」が作成されていることが多いと思いますが、まず、基本原則として以下の8点をおさえておきましょう。
原則1:
複数人で対応する。
クレームや苦情には複数人で対応することが原則です。
複数で対応することにより患者を落ち着かせることができますし、スタッフの負担を減らすことができます。
スタッフが一人でクレームや苦情を受けたときは、いったん中に下がって一緒に対処してくれるスタッフを呼ぶなど、複数名で対応するためのルールを設けておきましょう。
原則2:
別室に案内する。
クレームや苦情が簡単におさまらないときは別室に案内することが原則です。
別室に案内することにより患者を落ち着かせ、また他の患者への迷惑を避けることができます。
原則3:
否定せずに患者の話を聴き、丁寧な説明を繰り返す。
患者の話は否定せずに聴き、患者の気持ちを落ち着かせたうえで、病院のスタッフが丁寧な説明を行いましょう。
原則4:
正確なメモをとる。
クレームや苦情が正確に伝わっていないと患者が感じるとき、さらにクレームがエスカレートします。
クレームや苦情の内容やそれに対するスタッフからの回答内容については正確なメモを残すことが必要です。
正確なメモは、外部弁護士にクレーム対応を依頼する際や、万が一クレームが裁判に発展した場合の裁判対応においても非常に有益です。
原則5:
クレームや苦情の内容は病院内で共有する。
クレームや苦情の内容やそれに対するスタッフの対応内容はスタッフ間で共有することが必要です。
特に、複数の診療科や部署がある病院では、一部署でのクレームや苦情の内容を全体に共有することに気を配る必要があります。
電子カルテ等どこの部署のスタッフもすぐにアクセスできる媒体にクレームや苦情の内容や対処内容を記載して共有することを徹底しましょう。
また、個人のミスが原因でクレームや苦情になっているときは、本人がミスを隠そうとしてしまいクレームや苦情が共有されにくいケースがあります。自分のミスであっても必ず共有することをルール化することが必要です。
原則6:
できない約束や特別扱いはしない。
できない約束をしたり、特別扱いをすることは、絶対にしてはなりません。
例えば、待ち時間が長いといってわめきたてる患者に対して、特別に診療の順番を早めることは、次回以降も、同じ対応を求められることにつながります。
原則7:
困難な事案は文書による対応や弁護士への依頼に切り替える。
困難な事案は文書による対応や弁護士への依頼に切り替えることが必要です。
現場で解決することにこだわり、スタッフが疲弊したり、無理な要求をのむということにならないように、困難なクレームや苦情は上にあげて病院の組織として対応するか、クレーム対応に強い弁護士や顧問弁護士に相談や依頼することができる仕組みが必要です。
▶参考情報1:「クレーム対応に強い弁護士への相談サービス」について詳しくはこちらをご覧下さい。
▶参考情報2:クレーム対応に強い「咲くやこの花法律事務所」の顧問弁護士サービスについては以下をご覧下さい。
原則8:
違法行為に注意
病院側が違法行為をしてしまうと、クレームや苦情に対応するうえで病院側の弱みになってしまいます。
そして、弱みがあると、本来断るべき無理な要求ものまざるを得なくなってしまうことがあります。
例えば以下のような違法行為に該当しないように日ごろから気を配ることが必要です。
病院で問題となりやすい違法行為の例
●正当な理由のない診察拒否(医師法19条1項違反)
●正当な理由のない診断書作成拒否(医師法19条2項違反)
●看護師やスタッフによるレントゲン撮影(診療放射線技師法24条違反)
病院、クリニックのクレームや苦情の対処方法では、まず上記の8つの原則をおさえておきましょう。
2,大声でわめく患者への診療義務、説明義務を否定した判例
「大声で不満を述べて執拗に診療や説明を要求し、長時間の相談室に居座るなどした患者について、病院側が裁判を起こして診療義務、説明義務等がないことの確認を求めた裁判事例」として、平成26年5月12日東京地方裁判所判決があります。
以下でこの判例についてご紹介したいと思います。
(1)平成26年5月12日東京地方裁判所判決
クレームの内容
病院の院長が4年前に行った手術について、患者からカルテや手術の録画記録の開示を求められて、これに応じました。
ところが、患者から「開示された手術の録画記録が本当に自分の手術のものなのかわからない」などと主張されたため、院長が「説明が信じられないのであればしかるべきところに訴えるしかない。質問事項があれば書面で出してください。」などと伝え、クレームになった事案です。
患者は、その後、何度も来院して大きな声で問答を繰り返し、また執拗に院長による説明や診察を求めました。
病院側の対応
(1)院長は当初は質問事項があれば書面で受け付けるという対応をしていましたが、その後、弁護士同席の上で患者に対面での説明を行いました。
(2)対面での説明にも患者は納得せず、その後も10回以上来院して院長による説明や診察を求めました。
(3)患者が来院したときは、病院のスタッフが1時間ないし2時間程度対応しなければならないことが多く、また、患者は病院スタッフから帰るように促されても帰らないなどの態度をとりました。
(4)このような経緯から、病院は、もはやこの患者に対応できないと考え、この患者に対する診療や説明、損害賠償などの義務がないことなどを確認することを求めて、患者に対する訴訟を起こしました。
裁判所の判断
裁判所はこの事例で、病院側の診療義務、問診義務、損害賠償義務を否定しました。
その理由は以下の通りです。
(1)損害賠償義務についての判断
患者は、手術に問題があったかのような態度をとっているが、具体的に手術のどの点が不適切だったという主張をしておらず、病院に損害賠償義務はないと判断しました。
(2)説明義務についての判断
患者は、病院からの説明は理解できるものではなく説明義務が尽くされていないということを主張しましたが、裁判所は、すでに説明は行われており、その後も文書での質問等を病院に行うことまでは拒否していないから、病院に説明義務はないと判断しました。
(3)診療義務についての判断
患者は病院に診療義務があると主張しました。
しかし、裁判所は、患者が病院の説明に対して信用できないと発言し、院長に謝罪を求めるなどしていた経緯から、適切な医療行為のために必要な患者との信頼関係が破壊されていると判断し、病院には診療義務はないと結論づけています。
このように裁判所は、本件で、病院が患者に対する損害賠償義務を負わないことはもちろん、説明義務、診療義務もないと判断しました。
3,医師法の応召義務と「正当な理由」とは?
診療を拒否しなければならないような困難なモンスターペイシェントの対応において、注意しなければならいことの1つとして、「医師法19条1項の応召義務」があります。
医師法19条1項には、以下の通り、「正当な事由がなければ医師は診療を拒めない」ことが定められています。
▶参考:医師法19条1項
診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。
では、どのような場合に、診療拒否についての正当な理由が認められるのでしょうか?
この点について、裁判所は、「医師と患者との信頼関係が適切な医療行為を期待できないほど破壊されている場合」は、医師法19条1項の「正当な事由」にあたるとしています。
そのうえで、前述の平成26年5月12日東京地方裁判所判決の事案では、医師の診察拒否については正当な理由があると判断しました。
このような判例を踏まえると、クレームや苦情が原因で患者との信頼関係を築くことが困難となり、診療を拒む場合は、以下の4点について注意することが必要です。
クレームや苦情が原因で患者との信頼関係を築くことが困難となり診療を拒む場合の注意点
(1)医師により説明をしなければならない項目については十分な説明を行う(弁護士立ち合いの上で説明することがベスト)。
(2)診療を拒否しなければならなくなった経緯(患者の暴言や暴力など)について詳細な説明ができるように、「いつどのようなことがあってどのような対応をしたか」について詳細なメモを残す。
(3)同じ内容のクレームや苦情が繰り返され対応に長時間を要する場合は、「これ以上説明することがないので帰るように」と明確に伝えて、それでも帰らない場合はその点について記録を残す。
(4)「必要な説明は文書で行います」という内容の文書を患者に送り記録を残しておく。
このように十分な説明を行ったうえで、患者の問題行動の内容や病院側の対応の内容についてしっかり記録を残しておくことが必要になります。
診療を拒否しなければならなくなった経緯について十分な記録が残っておらず、単に「モンスターペイシェントだ」というだけで具体的な経緯を後日説明することができない場合は、診療拒否は違法とされてしまいますので、注意してください。
また、医師により説明すべき項目について説明を行っていないケースでも、診療拒否は違法と判断されます。
そして、診療拒否が違法と判断されると、患者との裁判の際に、患者に対する損害賠償を命じられることもありますので、注意してください。
▶参考情報:「応召義務」については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧下さい。
・応召義務とは?クレーマーを拒否できる具体的基準を判例付きで解説
4,よくあるクレーム事例については「マニュアル作成」が必要
病院やクリニックからよくご相談をいただくクレーム事例としては以下のようなものがあります。
これらのクレーム事例についてはあらかじめ「対応マニュアル」を作成しておくことが必要です。
病院やクリニックでよくあるクレーム事例
(1)スタッフの接遇態度や対応が悪いと言われるクレーム
- 看護師に対するクレーム
- 事務スタッフに対するクレーム
- ソーシャルワーカーに対するクレーム
(2)診察や治療に関するクレーム
- 誤診だといわれるケース
- 検査について
- 手術の内容、結果について
(3)病院のサービスや対応についてのクレーム
- 入院患者の食事について
- 待ち時間について
- 予約について
- 時間外の対応について
- クレームに対する回答が遅いことについて
- 患者の家族からのクレームや苦情
- 病院に謝罪文や文書での回答を求めるケース
(4)治療費についてのクレーム
- 会計についてのクレーム
- 生活保護受給者の患者が薬剤費の支払いを拒むケース
- 返金を求めるケース
マニュアルがないと職員がクレームについて個別に判断して対応することになり、職員により対応に差が出てしまいますし、職員個人の負担も大きくなってしまいます。
上記でとりあげたよくあるクレーム事例については、病院としてのルールを整備し、マニュアル化していきましょう。
マニュアル化を進めることで、全職員が同じ判断をすることができるようになります。また、マニュアルをもとにクレームを対処した時に問題がおきたときは、さらにマニュアルを改善していくことで、病院やクリニックをクレームの対処に強い組織にしていくことが可能です。
5,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます!」
最後に、咲くやこの花法律事務所において提供している病院のクレーム対応についてのサポートメニューのご紹介をしたいと思います。
- (1)病院のクレームに関するご相談
- (2)弁護士による患者への説明の立ち合い
- (3)弁護士によるクレーム対応
以下で順番に見ていきましょう。
(1)病院のクレームに関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、クレームにお困りの病院、クリニックから、クレームの解決方法に関するご相談を承っております。
顧問契約を締結していただくと、日々、スタッフからクレームについての対処方法を顧問弁護士に電話で直接ご相談いただくことが可能です。
顧問弁護士への相談によりクレーム対処にあたるスタッフの精神的な負担を大きく軽減することが可能になり、スタッフの定着、離職の防止につながります。
(2)弁護士による患者への説明の立ち合い
病院やクリニックにおけるクレーム対処では、患者に対して十分な説明を行うことも必要です。
咲くやこの花法律事務所では、クレームでお困りの病院やクリニックからのご依頼で、医師による説明の場への弁護士の同席のサービスも行っております。
(3)弁護士によるクレーム対応の代行
咲くやこの花法律事務所では、現場での解決が困難なクレームについて、病院やクリニックに代わり弁護士によるクレーム対応を代行するサービスも行っています。
咲くやこの花法律事務所の弁護士は患者への内容証明郵便や文書送付によるクレーム解決経験も豊富です。
クレーム対応に精通した弁護士が直接患者に対応することにより病院やクリニックの負担を軽減し、迅速な解決を実現します。
クレームにお悩みの病院・クリニックの経営者、管理者の方はぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
6,「咲くやこの花法律事務所」へのお問い合わせ方法
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8,病院やクリニック経営のトラブルに関連するお役立ち情報
今回の記事では、「病院・クリニックのクレームや苦情の対応」について弁護士がご説明しました。
病院・クリニックにおけるクレームや苦情に関しては、正しい対応方法を行わないと「重大なトラブル」につながります。万が一、患者さんとのトラブルが発生した際は、多額の支払いが発生することも多いです。
また、病院・クリニック経営で発生するトラブルに関しては、今回のテーマに関連して他にも知っておくべきお役立ち情報があります。以下でまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2020年06月23日