こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
2017年の厚生労働省の調査によると、労働組合のある企業の94.7%で労働協約が締結されています。
労働協約は、組合員の労働条件を決めたり、組合員の人事異動や懲戒、解雇などの場面について制約を課す内容になることが多く、その内容は、企業の経営に大きな影響を及ぼします。
企業側の立場からは、労働協約の締結が将来の企業活動にもたらす影響をよく理解したうえで、労働協約を締結するかどうか、またその内容をどうするかを慎重に判断する必要があります。
今回は、労働協約に関する基本的なルールと、組合から労働協約の締結を求められた場合の企業側の立場からの重要な注意点について解説します。
労働協約とは、大まかにいえば、会社と組合の約束を書面化することであると言えます。後述しますが、労働組合とかわす覚書や確認書も労働協約の一種です。
労働協約をいったん締結すると企業側からの解約が事実上難しく、自由な経営に対する制約になる側面があります。
労働協約を締結するかどうか、締結するとしてその内容をどうすればよいか等については、弁護士に事前にご相談いただいてご判断いただくことをおすすめします。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,労働協約とは?
労働協約とは、企業が労働組合との間で、組合員の労働条件等についての合意を書面化したものをいいます。
書面に合意内容を記載して、企業と労働組合の双方が、署名または押印することによって効力が発生します。
英語では、「labor agreement」などと呼ばれます。
労働協約では、以下のような多種多様な項目を定めることが可能です。
1,組合活動や団体交渉、企業と労働組合との協議に関する項目
▶例:就業時間中の労働組合活動に関するルールや、労働組合による会社設備の利用、組合専従者の取扱い、団体交渉の日時・場所・交渉委員に関するルールなど
2,企業の人事制度に関する項目
▶例:解雇や懲戒の際に労働組合との事前協議を義務付ける内容など
3,労働時間や賃金、福利厚生など労働条件に関わる項目
▶例:昇給や賞与の決定基準、休日の振替や育児・介護休業に関するルールなど
以下の参考情報もあわせてご覧下さい。
▶参考情報:「労働協約の手引き」東京都TOKYOはたらくネット
▶参考情報:労働協約例(有斐閣)※PDF
(1)就業規則や労働契約との違いと優先関係について
労働協約は、労働組合が企業と締結するものである点において、就業規則や労働契約とは異なります。
●労働協約と就業規則や労働契約との違いを比較
誰と締結するか? | 合意が必要か? | |
労働協約 | 労働組合が企業と締結 | 労働組合の同意が必要 |
就業規則 | 企業が作成したうえで、労働組合の意見を聴く(労働者の過半数を組織する労働組合がない場合は、労働者の過半数代表者の意見を聴く。) | 反対意見でも作成でき、労働組合や 過半数代表との合意までは不要 |
労働契約 (雇用契約) |
従業員個人が企業と締結 | 従業員個人との合意が必要 |
そして、労働協約は、就業規則や労働契約よりも優先的に適用されることが法律で定められています。
例えば、労働組合との団体交渉の結果、就業規則や雇用契約書よりも、従業員に有利な労働条件を労働協約で取り決めた場合、その労働組合に加入する従業員の労働条件については、労働協約の基準が適用されます。
▶参考情報:労働基準法第92条1項
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
▶参考情報:労働組合法第16条
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となつた部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。
(2)労働協約と労使協定の違い
労働協約は前述の通り、労働条件全般を対象とする企業と労働組合の合意であり、多種多様な取り決めが可能です。
これに対し、労使協定は、法律で定められた特定の項目について締結される企業と労働組合(あるいは過半数代表)との合意である点で、労働協約とは異なります。
1,主な労使協定の例
●「時間外労働・休日労働に関する協定」(いわゆる「36協定」)
企業が従業員を残業させる場合に、労働基準法第36条1項により、締結することが義務付けられている労使協定です。
●フレックスタイム制に関する労使協定
フレックスタイム制(始業時刻や終業時刻を従業員に決定させる制度)を導入する場合に、労働基準法第32条の3により、締結することが義務付けられている労使協定です。
●計画年休に関する労使協定
計画年休制度(有給休暇のうち、一部の日数について、従業員が指定した日ではなく、あらかじめ労使で合意した日に取得させる制度)を導入する際に、労働基準法第39条6項により、締結することが義務付けられている労使協定です。
2,労働協約の効力は原則として組合員のみに及ぶ
労働協約は、原則として、その労働協約を結んだ組合及びその組合に加入している労働者との間でのみ効力があります。
1,労働協約で設定された組合活動や団体交渉、企業と組合との協議に関するルール
→その組合と企業の間でのみ効力がある。
2,労働協約で設定された労働時間や賃金、福利厚生など労働条件に関わるルール設定
→その組合に加入している従業員と企業の間でのみ効力があり、非組合員には効力が及ばないことが原則
(1)労働協約が非組合員にも拡張されるケースについて
上記の例外として、ある事業所の労働者の4分の3以上が加入する労働組合が、企業との間で労働協約を結んだときは、その事業所で就業する他の同種の労働者は非組合員であっても、その労働協約が適用されます(労働組合法第17条)。
これを労働協約の一般的拘束力といいます。
▶参考情報:労働組合法第17条:
一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。
(2)労働協約の効力発生要件
労働協約は以下の2点が効力発生要件です。
- 書面に合意内容を記載すること
- 企業と労働組合の双方が、署名または押印すること
書面化されていない場合や、双方の署名や押印がされていない場合は、労働協約としての効力はありません。
1,覚書や往復文書による労働協約の成立に注意!
書面化され、双方の署名や押印がされていれば、「労働協約」という表題の書面に限らず、「覚書」や「確認書」などという表題の書面であっても、労働協約に該当するケースがあります。
▶参考情報:青森放送事件(青森地方裁判所平成5年3月16日判決)
定年の延長や定年後の賃金について企業と労働組合が取り決めた覚書が労働協約にあたるとされた事例
▶参考情報:東京地方裁判所平成29年12月13日判決
就業規則の改定について事前に労働組合と協議することなどを記載した「確認書」が労働協約にあたるとされた事例
また、会社側からの文書に対して、組合側も文書で回答したというように、1通の文書でなくても往復の文書であっても、労働協約が成立したと判断されるケースもあります。
▶参考情報:ノースウエスト航空事件(千葉地方裁判所佐倉支部昭和56年9月1日決定)
労働組合からの4.2ヶ月分の夏季賞与支給要求に対し、会社側が3.5ヶ月分と回答する書面を出し、その後の団体交渉では合意に至らなかったが、その後労働組合が会社回答通りに承諾すると書面で回答した場合に、労働協約が成立しており、会社は3.5ヶ月分の夏季賞与の支払義務を負うとされた事例
労働組合との交渉で書面を作成する場合は、常に、労働協約にあたらないか否かに注意することが必要です。
3,労働協約による労働条件の不利益変更は原則として可能
労働協約により、雇用契約書で定められた賃金を引き下げるなど、労働条件を不利益に変更することも可能であるとされています。
▶参考例:朝日火災海上保険事件平成9年3月27日最高裁判所判決
朝日火災海上保険事件平成9年3月27日最高裁判所判決は、定年年齢を引き下げ、退職金算定方法を不利益に変更する労働協約も有効であるとしています。
(1)既に発生した賃金の減額や特定の組合員を退職させるような労働協約はできない
労働協約により、組合員の将来の賃金を減額することは可能ですが、既に発生している賃金を減額することはできないとされています。
これらはいずれも個人の同意が必要です。
さらに、特定の組合員を退職させることを労働協約で定めることもできません。
▶参考例:北港タクシー事件(昭和55年12月19日大阪地方裁判所判決)
北港タクシー事件(昭和55年12月19日大阪地方裁判所判決)は、労働協約により新たな定年を定めてすでに定年を超えている従業員を退職させることはできないとしています。
▶参考例:北港タクシー事件(昭和55年12月19日大阪地方裁判所判決)
「従業員が退職するかどうかは、当該従業員の意思を尊重する必要があり、労働組合の多数決を基礎として合意した労使間の労働協約をもって従業員を拘束し得るものではない」
(2)労働協約の締結には労働組合の総会の承認が必要
労働協約の締結は、組合の執行委員長が単独で行うことができず、労働組合の総会での承認決議が必要であることが組合規約で定められていることが一般的です。
このような場合は、労働組合の総会での承認決議を経ない労働協約は無効とされています。
▶参考情報:大阪地方裁判所平成31年4月24日判決
労働組合の執行委員長が締結した労働協約について、組合の総会での承認決議がないことを理由に無効とされた事例
4,労働協約の有効期間
労働協約は「有効期間を定めて締結する場合」と、「有効期間を定めずに締結する場合」があり、扱いが異なります。
(1)労働協約を有効期間を定めて締結する場合
労働協約の有効期間の上限は法律上3年とされています(労働組合法第15条1項)。
労働協約に3年を超える期間が定められている場合は3年の期間を定めたものと扱われます(労働組合法第15条2項)。
(2)労働協約を有効期間を定めずに締結した場合
有効期間を定めずに締結した労働協約は、企業側、組合側のどちらか一方から90日前に予告したうえでいつでも解約することができます(労働組合法第15条3項、4項)。
ただし、企業側からの解約は、労働組合の弱体化などを狙って行う場合等は、不当労働行為とされたり、解約が無効であるとした判例があるため、注意が必要です。
企業側からの解約は、実際上は、解約することについて合理的な理由がある場合に限られ、かつ事前に十分に組合に説明したうえで行う必要があります。
不当労働行為については以下をご参照ください。
(3)労働協約に自動更新条項を入れた場合
労働協約に自動更新条項を入れることは可能です。
自動更新の結果、同じ内容の労働協約が3年を超えて継続された場合も、法律上特段の問題はありません。
5,労働組合から労働協約の締結を求められたら注意するべき4つの重要ポイント
最後に、企業側の立場から、労働組合に労働協約の締結を求められた場合の4つの重要な注意点を解説しておきたいと思います。
(1)労働協約の締結は義務ではない
まず、当然のことですが、企業側は労働組合から求められたからと言って、労働協約を締結する義務はありません。
団体交渉で、約束の書面化を要求されても「断るべきものは断る」という姿勢で臨むことが必要です。
(2)労働協約をする場合は期間を区切る
日本では多くの労働協約が期間を定めずに締結されています。
そして、前述の通り、労働協約に期間を定めない場合は、企業側からも90日前に予告すれば解約が可能という建前になっています。
しかし、実際には、解約が不当労働行為とされたり、無効とされる恐れがり、解約は決して自由ではありません。
そのため、解約をしなくても済むように、労働協約には適切な有効期間を設定し、有効期間を明記して締結するべきです。
(3)事前協議事項を不用意に増やさない
例えば、従業員の人事異動や従業員に対する懲戒処分、従業員の解雇などについて、組合との事前協議を義務付ける労働協約の締結を要求されるケースがあります。
こういった事前協議事項を不用意に増やすと、実際に人事異動や懲戒処分、あるいは解雇を行う際の重大な支障になります。
協議事項を不用意に増やさないように注意することが必要です。
(4)労働協約違反がないように管理する
労働協約を締結した場合は、労働協約違反がないように十分注意することが必要です。
特に、就業規則の改定や賃金の決定、あるいは、従業員の解雇などについて、事前の協議を義務付ける労働協約を締結している場面では、事前協議を忘れてしまうと、不当労働行為とされたり、不当解雇と判断される原因になります。
▶参考情報:東京地方裁判所平成29年12月13日判決
就業規則の改定について事前に労働組合と協議することなどを合意した確認書に違反し、事前の協議を行わなかった点が、労働協約違反にあたるとされ、不当労働行為とされた事例
▶参考情報:福岡地方裁判所平成27年5月27日判決
全正社員を対象とする賃上げについて、賃金等の労働条件については事前に組合と協議したうえで決定するという労働協約に違反しているとして、不当労働行為とされた事例
▶参考情報:水戸地方裁判所下妻支部平成15年6月16日決定
従業員の解雇が、労働協約の事前協議条項に違反するとして、不当解雇とされた事例
6,咲くやこの花法律事務所なら「労働協約に関する交渉について、こんなサポートができます!」
ここまで労働協約に関する基本的なルールと、企業側の立場からの重要な注意点についてご説明してきました。
最後に咲くやこの花法律事務所で労働協約や組合との団体交渉について行うことができるサポートサービスの内容をご紹介します。
サポートの内容は以下の3つです。
(1)団体交渉に関する相談、解決への道筋の提示
(2)団体交渉への弁護士の同席
(3)労働協約についての文言調整、交渉のサポート
以下で順番にご説明したいと思います。
(1)団体交渉に関する相談、解決への道筋の提示
咲くやこの花法律事務所では、労働組合との交渉に関する企業側からのご相談を常時、承っております。団体交渉の経験豊富な弁護士が、団体交渉の背景や会社の実情を踏まえて、解決までの道筋を提示します。
団体交渉において、組合側の要求を断るのか、一定の譲歩をするのか、断る場合に組合側をどう説得するのかなどについては専門的な検討が必要です。
咲くやこの花法律事務所では、これまで多数の団体交渉、労働裁判を解決してきた実績があり、これらの経験をもとに、ベストな交渉戦略を立案します。
なお、団体交渉については以下の解説記事もご参照ください。
▶参考情報:団体交渉とは?わかりやすく徹底解説!
咲くやこの花法律事務所の労務分野に強い弁護士による弁護士費用例
●初回相談料:30分5000円+税
顧問契約ご利用の場合は相談料はかかりません。
(2)団体交渉への弁護士の同席
咲くやこの花法律事務所では、弁護士が団体交渉に同席するサポートも行っており、多数のご依頼をいただいております。事務所のこれまでの団体交渉に関する実績とノウハウを生かし、万全の体制で交渉に臨むことが可能になります。
咲くやこの花法律事務所の労務分野に強い弁護士による弁護士費用例
●初回相談料:30分5000円+税
顧問契約ご利用の場合は相談料はかかりません。
●同席費用:時間や距離により、10万円+税~
(3)労働協約についての文言調整、交渉のサポート
労働協約については、将来、事業に与える影響の程度を慎重に検討したうえで、締結するかどうかの判断をする必要があります。
また、締結する場合も、できるだけ、使用者側にとって制約のすくない内容になるように文言を調整し、不用意に協議事項を増やさず、また有効期間を設定するなどの工夫が重要になります。
咲くやこの花法律事務所では、労働協約についての文言調整や交渉に関するサポートを承っています。
咲くやこの花法律事務所の労務分野に強い弁護士による弁護士費用例
●初回相談料:30分5000円+税
顧問契約ご利用の場合は相談料はかかりません。
咲くやこの花法律事務所の顧問契約に関するご案内は以下のサービスページをご覧下さい。
▶【全国顧問先200社以上】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2020年05月15日