こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
従業員から、配置転換がパワハラだと主張されて、対応に困っていませんか?
会社には従業員の職務内容や勤務地を決定する人事権があります。雇用契約書や就業規則に根拠規程があれば、会社は、権利の濫用にならない範囲で、従業員の配置を変更することができます。
しかし、配置転換の内容によっては、従業員に配置転換が「パワハラ」であると受け取られ、トラブルに発展してしまうことも珍しくありません。配置転換を行うときは、従業員からその配置転換が違法である、パワハラにあたるなどの主張を受けないかどうかにも注意しなければなりません。
この記事では、どのような配置転換がパワハラに該当するかのほか、社内でパワハラが発生したときの配置転換についてもご説明します。この記事を最後まで読んでいたただくことで、配置転換を行うにあたってどのような点に注意すべきかを理解していただくことができます。
それでは見ていきましょう。
配置転換の内容が従業員が望まないものであった場合、従業員が配置転換は違法であるとか、パワハラであると主張して会社とトラブルになる例も少なくありません。このような場合に、対応を誤ると大きなトラブルに発展するリスクもありますので、できるだけ早めに弁護士に相談しましょう。筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所でも、企業の立場からのご相談をお受けしていますのでご相談ください。
この記事では、パワハラと配置転換の関係について取り上げますが、パワハラや配置転換のそれぞれについて基本的な解説は以下をご参照ください。
▶参考情報:パワハラとは?わかりやすい解説まとめ
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,そもそもパワハラって何?
配置転換とパワハラの関係についてご説明する前に、まず、パワハラとは何かという点を確認しておきましょう。
パワハラとは、以下の3つの要件をすべて満たす言動のことをいいます(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
- 労働者の職場環境が害されるような言動であること
厚生労働省の指針では、以下の6つの類型に該当する行為がパワハラにあたるとされています。
- (1)殴る、蹴る、物を投げるなどの「身体的な攻撃」
- (2)暴言や侮辱、他の従業員の前での叱責などの「精神的な攻撃」
- (3)仲間外れや仕事を教えないなどの「人間関係からの切り離し」
- (4)およそ達成できないほどのノルマを課すなどの「過大な要求」
- (5)業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えなかったりする「過小な要求」
- (6)プライベートに過剰に踏み入るなどの「個の侵害」
以下ではこれらを踏まえて、どのような配置転換がパワハラにあたるのかをみていきましょう。
2.配置転換がパワハラにあたるケースとは?
会社には人事権があるため、単に従業員が望んでいない配置転換であるというだけでは、配置転換が違法になったり、パワハラに該当したりすることはありません。
しかし、配置転換に至る経緯や目的、配置転換の内容やその後の経緯などが、「1,そもそもパワハラって何?」で説明した6つの類型に該当する場合、その配置転換はパワハラに該当する可能性があります。例えば以下のような場合です。
(1)「精神的な攻撃」にあたる配置転換
配置転換の理由として「ここでは使い物にならないから」とか「無能だから」などの人格否定的な内容を本人に伝えた場合や、「左遷してやる」などの暴言、あるいは「負け組」呼ばわりするなどの侮辱にあたる行為がある場合は、パワハラに該当する可能性があります。
(2)「人間関係からの切り離し」にあたる配置転換
従業員が自ら退職するように追い込むために、一人だけ別室で仕事をさせる、いわゆる「追い出し部屋」に配置転換した場合、パワハラに該当する可能性があります。
(3)「過大な要求」にあたる配置転換
従業員の自信を喪失させるためなどの目的で、その従業員の能力や適性に照らして明らかに相応しくない業務を取り扱う部署に配置転換した場合、パワハラに該当する可能性があります。
(4)「過小な要求」にあたる配置転換
専門職として採用した従業員を、その専門性を必要としない部署へ配置転換した場合や、コピー取りや電話番など従業員の能力や経験とかけ離れた単純作業しか扱わない部署、あるいはほとんど仕事がない部署へ嫌がらせ目的で配置転換した場合、パワハラに該当する可能性があります。
パワハラにあたるような配置転換は、訴訟トラブルになれば、裁判所で配置転換が無効と判断される恐れがあり、また、会社はその従業員に対して損害賠償を命じられる恐れがあります。配置転換命令を出すときは、その経緯や目的、内容などに問題が無いかどうかを検討することが必要です。また、配置転換を命じるにあたり、従業員に対して、必要な説明を行うことができているかについても留意する必要があります。
3,配置転換がパワハラにあたるかどうかが問題になった裁判例
裁判で配置転換がパワハラにあたるかどうかが問題とされた事例をご紹介します。
(1)配置転換が職場からの排除を目的とした違法なパワハラであると主張された事案
裁判例:
アボットジャパン合同会社事件(東京地方裁判所判決 令和3年9月29日)
事案の概要
在籍していたポジションが廃止され、その後別のポジションへの配置転換を命じられた従業員が、会社に対して、この配置転換が、職場からの排除を目的とした違法なパワハラであるなどと主張して慰謝料の支払を求めた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、会社が当該ポジションを廃止したことや、この従業員に対する配置転換命令には、業務上の必要性があり、不当な動機または目的によるものではないから、違法とはいえず、パワハラにはあたらないと判断しました。
(2)子会社から本社への配置転換がパワハラにあたると主張された事案
裁判例:
東京地方裁判所判決 平成28年7月14日
事案の概要
会社と紛争状態にあった従業員が、子会社の総務経理課長から本社品質保証部検査課長に配置転換されたことについて、わざと適さない職場へ異動させたものであり、パワハラにあたると訴えた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、品質保証部検査課は顧客に納品する製品の最終調整をする部署であり、製品のすべてを理解できる部署であるとの会社の説明を踏まえ、会社と紛争状態にあったという背景を踏まえても、パワーハラスメントにはあたらないと判断しました。
これらの裁判例からもわかるように、配置転換についてパワハラであるとして紛争化する事例の多くは、配置転換が嫌がらせ目的であるという主張がされるケースです。事業者としては、配置転換について対象の従業員が望まないものであることが予想される場合は、事前に配置転換後の職務内容や配置転換の必要性について丁寧に説明することで、従業員から嫌がらせ目的であるなどの誤解をもたれないように留意する必要があります。
4,配置転換がパワハラにあたるかどうかの判断基準
就業規則において会社の配置転換命令権が定められている場合、従業員は原則として配置転換命令に従う義務がありますが、「業務上の必要性がないのに配置転換を命じた場合」、「配置転換命令が不当な動機・目的をもってなされた場合」、「配置転換により労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合」等、特段の事情が存在する場合は、配置転換命令は違法になるとされています。
前述の裁判例を踏まえると、配置転換命令がパワハラであると主張される事案においても、パワハラにあたるかどうかは、上記の配置転換命令の違法性の判断基準と同様の基準で判断されていると考えることができます。
つまり、就業規則において会社の配置転換命令権が定められている場合、従業員の意に沿わない配置転換であっても、原則としてパワハラになりません。
パワハラになるケースは、「業務上の必要性がないのに配置転換を命じた場合」、「配置転換命令が不当な動機・目的をもってなされた場合」、「配置転換により労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合」等に限られると考えるべきでしょう。
▶参考:配置転換が違法になる場合については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
5,パワハラ加害者である従業員の配置転換
ここからは、社内でパワハラが発生した場合の措置としての配置転換について解説します。
(1)社内でパワハラが発生した場合の加害者の配置転換
厚生労働省のパワハラ防止指針は、パワハラの事実が認められた場合に、加害者(行為者)に対する適切な措置の例の1つとして、以下のように「被害者と行為者を引き離すための配置転換」をあげています。
「行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者 と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための 配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること。」
・参照元:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】 」より(PDF)
実際にパワハラがあった場合、同じ問題を再度繰り返さないために、また、被害者と行為者を切り離すために、行為者を配置転換すべき場面は多いです。
ただし、パワハラが原因である場合も、どんな配置転換でも認められるわけではありません。
前述の通り、業務上の必要性がある場合でも、不当な動機・目的でなされた配置転換や、従業員が甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる配置転換は権利の濫用として、違法または無効とされています。加害者を懲罰目的でほとんど仕事のない部署へ配置転換したりすると、権利濫用にあたるとして無効と判断されたり、パワハラにあたるとして損害賠償を命じられたりするおそれがあります。
パワハラ加害者を配置転換をする際には、配置転換先を慎重に検討したうえで、配置転換の理由について本人に必要な説明を行わなければなりません。
パワハラ加害者に対する配置転換の効力が争われた裁判例として以下のものがあります。
参考裁判例:
パワハラ加害者に対する配置転換が違法とは言えないとされた事案
東京地方裁判所 令和2年1月24日判決
新幹線の車掌が、業務中に他の車掌の足を複数回蹴ったことを理由に、車両清掃業務を行う会社への3年間の出向を命じられ、これが原因で適応障害等を発症して就労できなくなったとして、会社に損害賠償を求めた事案です。
裁判所は、この車掌に周囲と協力しながら謙虚に業務を行う環境を用意する必要があると考えたとする会社の主張を踏まえ、労働時間や賃金面での不利益にも配慮されているとして、出向命令は権利の濫用には当たらず、違法とは認められないと判断しています。
(2)パワハラ被害の訴えがあったがパワハラにあたらないと判断した場合
従業員からパワハラの被害の訴えがあった場合、会社として調査をしてパワハラにはあたらないと判断した場合でも、職場内のトラブルが続かないように対策を講じることが必要なケースも存在します。配置転換を行ったり、業務のチームを分けるなどして、できるだけ両者が業務上接触することを少なくするような措置を講じることが適切です。
この点について、参考になる裁判例として以下の裁判例があります。
参考裁判例:
パワハラ加害者として訴えられた従業員から配置転換を求められたが応じなかったことが会社の義務違反とされた事案
アンシス・ジャパン事件(東京地方裁判所判決 平成27年3月27日)
2人で作業を行う体制の部署で、リーダーを務める従業員についてもう1人の従業員がパワハラがあったと訴えました。会社が調査した結果パワハラは無いとの判断に至りましたが、リーダーの従業員が、人間関係の悪化などによって業務の遂行が困難であるとして、会社に対して配置転換などの体制変更を求めました。しかし、会社がこれに応じなかったことが問題になった事案です。
裁判所は、2人体制で業務を担当する他方の同僚からパワハラで訴えられるというトラブルは、同僚との間での対立が非常に大きく、深刻であり、客観的にみても相当強い心理的負荷であると指摘しました。そのうえで、本件では、リーダーを務める従業員が、自分をパワハラで訴えた従業員と一緒に仕事をするのは精神的にも非常に苦痛であり不可能である旨を繰り返し上司に訴えていたことを踏まえると、配置転換により2人を業務上完全に分離するか、少なくとも2人の業務上の関わりを極力少なくする必要があったとしました。そして、そのような措置を取らなかった会社に義務違反があったとして、会社に慰謝料50万円の支払いを命じています。
6,パワハラ被害者である従業員の配置転換
続いて、社内でパワハラが発生した場合の被害者の配置転換についても解説します。
(1)被害者に対する配置転換は「不利益な取扱い」にあたることがある
労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)では、パワハラについて会社に相談したこと等を理由として、被害を相談した従業員に対して不利益な取扱いをすることを禁止しています(労働施策総合推進法第30条の2第2項)。
パワハラの被害を訴えたことを契機として、その従業員が望まない部署に配置転換することは「不利益な取扱い」に含まれますので、被害者を受けた側の従業員に対する配置転換を検討する際は注意を要します。
▶参考:労働施策総合推進法第30条の2第2項
第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
・参照元:「労働施策総合推進法」の条文
(2)被害者に対する配置転換が必要となるケース
しかし、一方で、前述のパワハラ防止指針は、パワハラ被害を受けた被害者に対する配慮の措置の適切な例として、以下のように、行為者と切り離すための配置転換を挙げています。
「事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、 被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条 件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被 害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること。」
・参照元:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】 」より(PDF)
また、裁判例においても、パワハラ被害者に対する配置転換の必要性に言及したものがみられます。
例えば、さいたま市(環境局職員)事件(さいたま地方裁判所判決 平成27年11月18日)は、うつ病の既往症がある職員がパワハラ被害を訴えた場合に市がとるべき対応について、既往症のある職員が相談を持ちかけたことを重視して、行為者または被害者を配置転換したり、行為者を被害者の教育係から外すなどを講じ、被害者が行為者の言動によって心理的負荷等を過度に蓄積させ、うつ病を増悪させることがないよう配慮すべき義務があったと判示しています。
そして、結論として、この被害職員がうつ病自殺したことについて、市の安全配慮義務違反を認め、損害賠償を命じています。この裁判例において、裁判所は、パワハラの存在が認められる場合はもとより、仮にその存在が直ちには認められない場合であっても、市として上記の義務を負うとしています。
これらの点を踏まえると、加害者を配置転換して加害者と被害者を切り離すことが難しい場合は、加害者に対しては懲戒処分等の措置をとったうえで、被害者側を配置転換して両者を切り離すことも考えられるでしょう。
7,配置転換に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)
最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による、配置転換に関する企業向けサポート内容についてご説明したいと思います。
(1)配置転換についてのご相談
咲くやこの花法律事務所では、従業員の配置転換についてのご相談を、企業経営者や人事担当者から常時お受けしています。
配置転換がパワハラに該当するものでないかの判断や、従業員が配置転換を拒否している場合の対応などを、労務トラブル対応に精通した弁護士にご相談いただけます。
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士による対応費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(2)配置転換トラブルについての交渉、裁判対応
咲くやこの花法律事務所では、配置転換命令によって発生した従業員とのトラブルに関する交渉による解決や仮処分、訴訟等への対応のご依頼も承っています。
従業員が配置転換をパワハラであると訴えたり、配置転換の拒否を理由とする解雇の効力をめぐって従業員とトラブルになったりした場合、弁護士が従業員との交渉を会社に代わって行います。また、裁判においても会社側の立場に立った解決に導きます。咲くやこの花法律事務所には、配置転換などの人事労務トラブルの対応について、経験豊富な弁護士が多く在籍しています。お困りの方は、早めに咲くやこの花法律事務所までご相談下さい。
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(3)顧問弁護士契約
咲くやこの花法律事務所では、人事労務のトラブル等を日ごろから弁護士に相談するための、顧問弁護士サービスを事業者向けに提供しています。
顧問弁護士サービスを利用することで、問題が小さいうちから気軽に相談することができ、問題の適切かつ迅速な解決につながります。また、予防法務の観点から、就業規則や雇用契約書、その他労務管理の整備を進め、トラブルに強い会社を作ることができます。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスは以下をご参照ください。
8,まとめ
この記事では配置転換命令がパワハラにあたる場合についてご説明しました。
パワハラとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される言動を言います。
具体的には、以下の6つの類型が代表例として挙げられます。
- ① 身体的な攻撃
- ② 精神的な攻撃
- ③ 人間関係からの切り離し
- ④ 過大な要求
- ⑤ 過小な要求
- ⑥ 個の侵害
配置転換に至る経緯や目的、配置転換の内容やその後の経緯などから、この6つの類型に該当する場合、その配置転換はパワハラに該当する可能性があります。配置転換でトラブルになりそうな場合は、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。
9,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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記事作成日:2023年8月22日
記事作成弁護士:西川暢春
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