こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
うつ病などの精神疾患を抱える従業員への対応について、企業からのご相談は年々増加しています。特に、欠勤や休職を繰り返している、業務遂行に支障が出ている、他の従業員への影響が大きい、復職の見通しが立たない、といった場面では、会社として退職勧奨を検討せざるを得ないケースもあります。
もっとも、うつ病の従業員に対する退職勧奨は、通常の退職勧奨以上に慎重な対応が求められます。精神的に不安定な状態にある従業員に対して強引な説得や執拗な面談を行った場合には、退職強要として違法と判断されるリスクがあるほか、病状が悪化して安全配慮義務違反や損害賠償請求に発展する可能性もあります。
最近の裁判例でも以下の例があります。
●事例1:
精神障害を発症している労働者に執拗に退職勧奨をして精神障害を悪化させたと判断され、休職期間満了による退職扱いが無効とされ、会社が約1000万円の支払いを命じられた事例(京都地方裁判所判決平成26年2月27日)
●事例2:
うつ病で服薬治療中の運転職に対する退職勧奨が違法とされ、会社が80万円の損害賠償を命じられた事例(大阪高裁令和6年1月19日判決)
うつ病の従業員に退職勧奨する場面でも、会社が適切な手順を踏んでいたかどうかで結論が変わってきます。適切な手順を踏まなければ会社が賠償を命じられる一方、適切な手順を踏んでいれば適法と評価されます。
さらに、令和8年4月からは、企業による「治療と就業の両立支援」が努力義務化されており、病気を抱える従業員について、これまで以上に適切な対応が求められています(労働施策総合推進法27条の3)。
そのため、会社としては、どのような場合に退職勧奨が可能なのか、どのような進め方であれば違法にならないのか、休職や復職支援との関係をどう考えるべきか、自己都合退職として扱う際にどのような注意が必要か、などについて正しく理解しておくことが重要です。
この記事では、うつ病の従業員に対する退職勧奨について、企業側が注意すべきポイントや適切な進め方を、最新の裁判例も踏まえながら弁護士がわかりやすく解説します。この記事を最後まで読んでいただくことで、うつ病の従業員に対する退職勧奨において注意すべき点や、休職・復職支援や自己都合退職との関係を含めて企業としてどのような対応が必要になるのかを理解していただくことができます。現在、うつ病の従業員への対応についてお困りの方は、適切な問題解決に向けて動き出すことができるようになります。
それでは見ていきましょう。
うつ病の従業員への対応は、多くの企業が悩む問題です。自社で適切に判断するのは難しく、従業員との間で深刻なトラブルに発展することも多いです。また、うつ病の従業員に退職勧奨をして退職に至った場合でも、後から訴訟トラブルに発展する例があります。
咲くやこの花法律事務所では、うつ病や適応障害、統合失調症など精神疾患のある従業員への対応、休職・復職対応、就業中のトラブル対応、退職勧奨に関する企業からのご相談を多数お受けしています。お困りの際は早めにご相談ください。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所のうつ病など精神疾患の従業員への退職勧奨などの対応に関するサポート内容はこちら
※咲くやこの花法律事務所では、企業または事業者からのご相談のみお受けしています。
また、咲くやこの花法律事務所の弁護士がうつ病の従業員の対応において退職勧奨をサポートした解決事例もご紹介していますのであわせてご覧ください。
▶参考情報:実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士がうつ病の従業員に対する退職勧奨をサポートした解決事例はこちらをご覧ください
▼うつ病など精神疾患の従業員の退職勧奨について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1.うつ病の従業員に対する退職勧奨とは?
- 2,うつ病や適応障害などの精神疾患の従業員に退職勧奨はできるのか?
- 3,うつ病の従業員に対する退職勧奨での注意点
- 4,休職中の従業員に退職勧奨できるのか?
- 5,うつ病の従業員へ退職勧奨を行う際の正しい手順は?
- 6,自己都合退職かそれとも会社都合退職か?
- 7,判例紹介「うつ病や適応障害の従業員への退職勧奨等が問題となった事例」
- 8,うつ病の従業員対応や退職勧奨でお困りの企業は弁護士にご相談ください
- 9,うつ病の従業員へ退職勧奨を検討する場面で咲くやこの花法律事務所の弁護士に相談するのがおすすめな理由
- 10,実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士がうつ病の従業員に対する退職勧奨をサポートした解決事例
- 11,うつ病など精神疾患の従業員への退職勧奨に関して弁護士に相談したい方はこちら
- 12,まとめ
1.うつ病の従業員に対する退職勧奨とは?

退職勧奨とは、会社が従業員に対して退職を勧め、合意による退職を促すことをいいます。会社と従業員との間で合意が成立した場合には「合意退職」となり、会社が一方的に労働契約を終了させる「解雇」とは異なります。
会社が従業員に辞めてもらいたいという場合、一方的に雇用を終了させる解雇はトラブルに発展するリスクが高いため、退職勧奨により合意退職による解決を目指すことが適切であることが通常です。
▶参考情報:退職勧奨について詳しくは、以下の記事で全般的に解説しています。ご参照ください。
病気というのは本人にとってもつらい事情ですが、そうだとしても、欠勤が続いたり十分に就業できなかったりすることは解雇理由になり得ます。しかし、紛争防止の観点から、解雇や休職期間満了による退職ではなく、退職勧奨による合意退職を目指すべきです。
もっとも、うつ病や適応障害などの従業員に対する退職勧奨では、通常以上に慎重な対応が必要です。
精神的に不安定な状態にある従業員に対して、無理に退職を迫ったり、執拗に説得した場合、「退職勧奨」の範囲を超え、違法な「退職強要」と判断される可能性があります。
また、うつ病の従業員への対応では、安全配慮義務や、休職・復職支援との関係も問題になりやすいため、会社としては慎重に対応を進めなければなりません。また、うつ病の症状によっては、退職勧奨の場面で正常な判断能力や意思決定能力が低下している場合もあります。そのようなケースでは、仮に退職届の提出を受けることができたとしても、その退職の意思表示の有効性自体が問題になるリスクがあります。
退職勧奨を進めるべきかどうかの判断の段階から、必ず弁護士に相談したうえで、対応することが必要です。
▶参考情報:退職勧奨を検討する場面で弁護士に相談すべき理由については、以下の記事で詳しく解説しています。ご参照ください。
2,うつ病や適応障害などの精神疾患の従業員に退職勧奨はできるのか?

うつ病や適応障害などの精神疾患を抱える従業員に対しても、会社が退職勧奨を行うこと自体が直ちに違法になるものではありません。
会社としては、以下のような切実な事情もあるところです。
- 欠勤が多く、仕事をまかせることができない
- 退職するかどうかわからない状況では新しく人を入れることも決断しにくい
- 休職や復職が繰り返されて、周囲の従業員の負担が大きい
- 休職期間中の本人負担分の社会保険料が回収できない
また、自動車の運転や機械の操作が必要な仕事では、服薬している薬剤の影響で運転や操作に危険が生じないか不安になることもあるでしょう。
ですが、精神的に不安定な状態にある従業員に対して退職を強要したと判断されたり、安全配慮義務に違反していると判断されたりすることがないようにする必要があります。
▶参考情報:安全配慮義務違反については以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
また、令和8年4月から「治療と就業の両立支援」が努力義務化されていることにも留意が必要です。企業には、病気を抱える従業員が治療と仕事を両立できるよう相談体制を整備し、必要な支援を行う努力義務が課されています(労働施策総合推進法27条の3)。そのため、うつ病や適応障害で業務に支障が生じている従業員についても、以下のような就業を継続するための配慮や支援を行うことが適切です。
- 業務量の調整
- 配置転換や業務内容の変更
- 勤務時間の短縮
- 休職制度の利用
▶参考条文:労働施策総合推進法27条の3
第二十七条の三 事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について、就業によつて疾病又は負傷の症状が増悪すること等を防止し、その治療と就業との両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
退職勧奨の進め方だけでなく、会社として必要な配慮を尽くしたか、退職以外の選択肢を検討したか、という点も重要になります。
▶参考動画:うつ病など精神疾患の従業員の雇用継続が難しい場面での退職勧奨の正しいプロセスと注意点については、この記事の著者 弁護士 西川暢春が、「うつ病の社員に退職勧奨!その進め方、違法です!弁護士が詳しく解説」の動画でも詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
3,うつ病の従業員に対する退職勧奨での注意点

うつ病の従業員に対する退職勧奨では、通常の退職勧奨以上に慎重な対応が必要になります。
特に注意すべきポイントは以下の通りです。
- (1)本人の精神状態に十分配慮する
- (2)長時間・執拗な面談を行わない
それぞれについて順番に解説します。
(1)本人の精神状態に十分配慮する
うつ病の症状によっては、判断能力や意思決定能力が低下している場合があります。そのため、会社としては、本人が冷静に判断できる状態にあるかを慎重に見極めながら対応する必要があります。
うつ病の症状が強く出ている状況で退職勧奨を進めて退職届を提出させれば、後になって「正常な判断ができる状態ではなかった」「自由な意思に基づく退職ではない」として退職の有効性自体が争われ、無効と判断されるおそれがあります。
(2)長時間・執拗な面談を行わない
退職勧奨は従業員に大きな精神的負担を与えます。そのため、面談回数、説明方法、面談時の従業員の体調などに十分配慮する必要があります。
長時間の面談を行ったり、短期間に何度も面談を繰り返したり、威圧的な言動で退職を迫る対応をした場合には、違法な退職強要と判断されるリスクがあります。
また、退職勧奨は、あくまで従業員の自由意思による退職を促すものなので、「退職しないなら解雇する」、「辞めないなら職場に居場所はない」など、不当な心理的圧力をかける発言は決してすべきではありません。
特に、うつ病の従業員は精神的に追い込まれやすい状態にあるため、会社側としては通常以上に慎重な対応が必要です。面談は必要最小限にとどめ、本人が冷静に検討する時間や自由に拒否できる状況を確保することが必要です。
また、伝える内容としても、従業員を非難したり、業務への支障を強調するような言い方をしたりすることは避けるべきでしょう。「退職して治療に専念したほうが良いと考えている」「会社としても退職後も傷病手当金がもらえるように支援する」といった方向で話をすることが大切です。
4,休職中の従業員に退職勧奨できるのか?
私傷病休職制度を設けている会社は、従業員がうつ病で十分に就業できない場合でも、まず休職制度を利用させることが原則となります。休職制度があるのに、休職を認めずに退職勧奨を進めた場合には、退職強要が問題となる可能性があります。
(1)私傷病休職制度は解雇を猶予して治療の機会を与えるための制度
私傷病休職制度は、従業員が病気で働けない場合も、一定期間解雇を猶予するための制度です。つまり、私傷病休職制度がある会社では、従業員が病気で働けない場合も、すぐに雇用を終了するのではなく、「休職期間が残っている間は雇用を継続しつつ回復を待つ」ということを労使間でルールとして設定しています。
▶参考情報:私傷病休職制度については以下で解説していますので併せてご参照ください。
(2)休職期間中に退職勧奨を行う場合はまだ休職できることを伝える
上記のようなルールを設定しているとしても、「休職期間がまだ残っているけれども会社の事情で退職勧奨をする」ということが許されないわけではありません。ただし、その場合は、「休職期間がまだ残っており、休職期間満了日まで休職することは可能である」ということを明確に伝えたうえで、退職勧奨を行うことが適切です。
▶参考裁判例:栃木県事件(宇都宮地方裁判所判決令和5年3月29日)
参考になる裁判例として、栃木県事件(宇都宮地方裁判所判決令和5年3月29日)があります。
この事案は、栃木県が、双極性感情障害のために病気休暇中の県職員に退職勧奨を行い、退職願を提出させた事案です。その後、この県職員は退職の取消しを求め、裁判所は取消しを認めました。
裁判所が取消しを認めた理由はいくつかありますが、その1つとして、休暇延長や休職が制度上認められるのにそれを示さずに、 これまでずっと職場に甘えてきたのではないかなどと職員を責めるようなことを告げて退職を求めたという点が挙げられています。
制度上、まだ休職が可能なのにそのことを告げずに退職勧奨を行った場合、退職届の提出が得られたとしても、上記の裁判例のように、退職合意が取り消されたり、無効とされるリスクがあります。
(3)休職期間満了による自然退職と退職勧奨のどちらを選ぶべきか?
最近では多くの会社が、就業規則に、休職期間満了時に復職できない場合に自然退職や退職扱いとする規定を設けています。この場合も休職期間満了時の対応について慎重な判断が必要です。
特に、従業員から復職可能であると診断書が提出されている場合に、会社が復職を認めずに休職期間満了による退職扱いとする場合は、トラブルになりやすく慎重な対応が必要です。
会社として復職不可と判断した場合でも、休職期間満了により一方的に雇用を終了した結果、訴訟となり、裁判所では復職可能と判断されて敗訴するという例が多く見られます。そのような場合、会社は、多額の金銭を支払ったうえでその従業員を復職させなければなりません。
そのようなリスクを避けるためには、休職期間満了により一方的に雇用を終了するのではなく、休職期間満了が近づいた頃に退職勧奨を行い、合意退職による解決を図ることが大切です。
▶参考情報:休職期間満了による退職や解雇についての絶対におさえておくべき注意点については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
5,うつ病の従業員へ退職勧奨を行う際の正しい手順は?

うつ病などの精神疾患を抱える従業員に対する退職勧奨では、通常の退職勧奨以上に慎重な対応が必要です。病気を悪化させないためにも、負荷を最小限にすることに留意して実施しなければなりません。具体的な手順は以下の通り考えることができます。
- (1)従業員について休職が認められるか、いつまで認められるかを就業規則に基づき正確に確認する
- (2)従業員の体調が安定しているか、意思決定できるか状態かどうかを検討する
- (3)従業員にできるだけ負荷をかけない退職勧奨の方法、伝え方を検討する
- (4)退職合意書あるいは退職届の用紙を準備する
- (5)実際に退職勧奨を行う
それぞれについて順番に説明します。
(1)従業員について休職が認められるか、いつまで認められるかを就業規則に基づき正確に確認する
まず、会社の就業規則に基づき、休職制度が適用されるかどうか、また、休職期間がいつまで認められるかを正確に確認しましょう。休職制度がある場合は、退職勧奨は休職期間が満了するタイミングで行うことが原則です。
休職期間がまだ残っている場面で退職勧奨を行う場合は、従業員に対して、引き続き休職することもできることを明確にしたうえで、退職勧奨を行うことが適切です。
(2)従業員の体調が安定しているか、意思決定できる状態かどうかを検討する
うつ病の症状によっては、判断能力や意思決定能力が低下している場合があります。そのため、退職勧奨を行う前に、従業員が冷静に判断できる状態にあるかを慎重に確認しなければなりません。
判断能力や意思決定能力が低下している時期に退職勧奨を行うことは、後に退職の有効性自体が争われる原因になります。必要に応じて、体調が安定するまで退職勧奨を見合わせることも検討する必要があります。
(3)従業員にできるだけ負荷をかけない退職勧奨の方法、伝え方を検討する
病気を悪化させないためにも、負荷を最小限にすることに留意する必要があります。対面で行うことは避け、書面やメール、電話等で話し合うことを原則とすべきでしょう。
(4)退職合意書あるいは退職届の用紙を準備する
従業員が退職に同意した場合は、退職届を出してもらうか、退職合意書を作成することが必要です。あらかじめこれらの用紙を準備しておきましょう。退職合意書については弁護士に作成を依頼し、または弁護士のリーガルチェックを受けることが適切です。
(5)実際に退職勧奨を行う
退職勧奨の進め方についての一般的な解説、注意点は以下でも解説していますのであわせてご参照ください。
▶参考情報:また、退職勧奨の場面での言ってはいけない言葉にも注意する必要があります。この点については、この記事の著者 弁護士 西川暢春が、「退職勧奨の場面で言ってはいけない言葉5つを弁護士が解説」の動画でも詳しく解説しています。こちらもあわせてご参照ください。
6,自己都合退職かそれとも会社都合退職か?
退職勧奨による退職の場合は、会社都合退職として扱うことが原則ですが、うつ病で働けなくなったことから、本人が自発的に退職を申し出たという場合などは、自己都合退職となります。また、休職期間満了により退職するケースも、自己都合退職となります。
うつ病などの精神疾患で就業が難しくなった従業員に退職勧奨を行う場合、「自己都合退職」と「会社都合退職」のどちらとして扱うかが問題になることがあります。
特に、退職勧奨による退職では、形式上は従業員が退職届を提出していたとしても、実質的には会社側の働きかけによって退職に至っているため、離職票上の離職理由や失業給付への影響をめぐってトラブルになるケースがあります。そのため、会社としては、離職理由の取り扱いについても慎重に対応する必要があります。
(1)退職勧奨による退職は会社都合退職
一般に、従業員が自らの意思で退職を申し出る場合は自己都合退職になります。これに対して、従業員が退職届を提出していても、会社からの働きかけによって退職に至った場合には、「退職勧奨による退職」として、会社都合退職扱いとなります。
厚生労働省が示している「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」では、「事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者」は、特定受給資格者、つまり会社都合退職とされています。ただし、従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しません。
ハローワークにおける離職理由の判断では、以下のような事情が考慮されます。
- 会社側から退職を勧めたか
- 従業員が自由意思で退職を決めたか
- 実質的に退職以外の選択肢がなかったか
退職勧奨による退職の場合は、会社都合退職として扱うことが原則であり、会社が「自己都合退職」と考えて処理した場合でも、従業員側が異議を申し立てれば、ハローワークが事情を確認し、会社都合退職に変更されるケースがあります。
(2)自己都合退職になる場合
一方、うつ病で働けなくなったことから、本人が自発的に退職を申し出たという場合は、自己都合退職となります。また、休職期間満了により退職するケースも、自己都合退職となります。いずれも、「正当な理由のある自己都合により離職した者」という扱いになり 、雇用保険の基本手当の支給においては、会社都合退職と同等の扱いになります。
7,判例紹介「うつ病や適応障害の従業員への退職勧奨等が問題となった事例」
以下では、うつ病や適応障害などの精神疾患を抱える従業員への対応が問題となった裁判例を紹介します。
裁判例1:精神疾患が業務遂行に与える影響を検討せずに退職勧奨をしたことが違法であると判断された例(大阪高等裁判所判決令和6年1月19日)
運送会社が、運転手から精神障害3級の記載のある扶養控除等申告書の提出を受けたことをきっかけにうつ病での服薬治療を受けていることを知り、退職勧奨をしました。これに対して、運転手がこれを不当であるとして訴えを起こした事例です。
この運転手の勤務状況等に特段問題はありませんでしたが、会社は、精神疾患の内容や程度を確認したり主治医や産業医から意見を聞いたりして業務に与える影響を十分に調査することなく退職勧奨に及びました。
裁判所は、精神障害等級3級に認定されて服薬治療を受けていることだけを理由に退職勧奨をすることは、従業員に対して適切な配慮を欠いて人格的利益を損なうものであり、違法であると判断して、慰謝料80万円の支払を命じました。
この裁判例で重要なのは、「うつ病であること」そのものではなく、「うつ病によって実際に業務遂行にどの程度の支障が生じているのか」を十分に確認・検討することが求められている点です。
企業は、精神疾患の診断名や服薬治療の事実あるいは障害等級のみを理由として退職勧奨を行うのではなく、主治医や産業医の意見を踏まえながら、業務への影響や就労継続の可能性を具体的に検討しなければなりません。また、運転手については、服薬している薬剤の運転への影響についても確認することが必要です。このような手順を経ずに、うつ病であることのみを理由に退職勧奨をすると、違法な退職勧奨と判断されるおそれがあるため注意が必要です。
裁判例2:適応障害で休職していた運転手について休職期間満了による退職が認められた事例(大阪地裁令和7年9月25日判決)
運送会社の運転手が適応障害を発症して1年以上休職していましたが、休職期間満了直前に主治医の復職可能との診断書を提出して復職を求めました。これに対し、会社は産業医の意見を踏まえ、復職を認めず休職期間満了による自然退職として取り扱いました。従業員がこれを不当であるとして訴訟を提起した事例です。
裁判所は、本件では従業員の職種が運転業務に限定されていたことから、復職可能かどうかは運転業務を安全に行える状態に回復しているかを基準に判断すべきであるとしました。
そして、従業員は休職期間満了時において、自動車運転に注意が必要とされる複数の薬剤を継続して服用しており、産業医も運転業務への復帰は困難であるとの意見を述べていました。裁判所は、運送会社には安全な運行を確保する義務があることも踏まえ、休職期間満了時点で運転業務への復帰が可能であったとは認められないとして、会社による雇用契約終了の判断を有効と認めました。
この裁判例は、うつ病や適応障害の従業員についても、主治医の診断書のみで判断するのではなく、実際の業務内容や産業医の意見、安全配慮上の要請などを踏まえて復職可能性を検討することが重要であることを示しています。
休職期間満了時点で復職可能性を十分に検討した結果、なお従前業務への復帰が困難であると判断された場合には、休職期間満了による雇用契約終了が認められることを示した事例です。
この事例では、会社が従業員の服薬状況や薬剤の副作用について調査し、産業医の意見も聴取したうえで復職の可否を判断していたことが重視されました。裁判所は、単に「服薬が続いているから復職できない」と判断したのではなく、業務内容との関係で安全上の支障があるかを具体的に検討した会社の対応を適切なものと評価しています。
このように「裁判例1」と「裁判例2」は、どちらも精神疾患のある運転手の雇用終了に関する事案ですが、会社が適切なプロセスを踏んでいるかどうかという点の違いから、訴訟での勝敗が分かれました。
適切なプロセスを経ずに退職勧奨した「裁判例1」の事案では会社は賠償を命じられる一方、適切なプロセスを経た「裁判例2」の事案では会社の主張が認められました。
このように、「辞めてもらう」という解決をする場合でも、適切なプロセスを経ているかどうかで法的リスクが大きく変わってきますので、必ず弁護士に相談して対応することが必要です。
8,うつ病の従業員対応や退職勧奨でお困りの企業は弁護士にご相談ください
うつ病などの精神疾患を抱える従業員への対応は、企業にとって非常に難しい問題です。
以下のような会社は、間違った対応をして問題を悪化させないためにも、すぐに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
- □ 従業員がうつ病で欠勤状態となり、どう対応してよいかわからない。
- □ 私傷病休職制度が整備されておらず、どう対応すべきかわからない。
- □ うつ病の従業員について退職勧奨を検討している。
- □ 従業員の休職を認めるべきかどうかわからない。
- □ うつ病で休職中の従業員について休職期間満了日が近づいている。
- □ 休職中の従業員とトラブルになり、関係が悪化している。
- □ うつ病で服薬中の従業員に機械の操作や車の運転をさせることに不安がある。
従業員の欠勤や休業が続いていて会社側が困っているからといって、安易に退職勧奨を進めてしまうと、退職強要にあたってしまったり、安全配慮義務違反と評価されてしまったりして、訴訟などの重大な労務トラブルに発展するリスクがあります。
しかし、慎重に判断するべきだとはわかっていても、実際には以下のように自社で適切に判断するのが難しい問題が多々あります。
- 復職可能性の判断が難しい
- 復職させる場面で、どこまで配慮すべきかわからない
- 退職勧奨をしてよいのか、どのタイミングで行えば良いのかわからない
- 退職勧奨の面談でどのような説明をすべきかわからない
また、うつ病や適応障害で治療中の従業員への対応では、初期対応を誤ると、その後の解決が難しくなるケースも少なくありません。そのため、問題が深刻化する前の早い段階で、労務問題に詳しい弁護士に相談することが重要です。弁護士に相談することで、以下のような点について企業の状況に応じた具体的なアドバイスを受けることができます。
- 退職勧奨を進めてもよい状況か
- 休職や復職支援をどこまで行うべきか
- 面談時にどのような点に注意すべきか
- 離職票や退職条件をどうすべきか
特に、退職勧奨を実施する前に相談しておくことは、トラブルに発展するリスクを大きく下げることにつながります。うつ病などの精神疾患を抱える従業員の対応や退職勧奨でお困りの企業は、人事労務問題について企業側で扱う弁護士に早めにご相談ください。
9,うつ病の従業員へ退職勧奨を検討する場面で咲くやこの花法律事務所の弁護士に相談するのがおすすめな理由
うつ病の従業員への退職勧奨は、進め方を誤ると、退職強要、安全配慮義務違反、退職意思表示の無効などが問題となり、労働審判や訴訟に発展するおそれがあります。実際にも、精神疾患のある従業員への退職勧奨が違法と判断され、会社に損害賠償が命じられた裁判例があります。
咲くやこの花法律事務所は、創業以来16年以上にわたり、一貫して企業側の立場にたって、企業の労務問題の相談・紛争解決に取り組んできました。うつ病や適応障害など精神疾患のある従業員への対応についても、多数のご相談・ご依頼をお受けしてきました。
そのような経験も活かして、休職制度の運用、退職勧奨を行ってよいかどうかの判断、退職勧奨を行うべきタイミングや面談での説明方法、退職合意書の作成まで、企業側の立場から一貫してサポートしています。
退職勧奨を検討する場面では、実施前の対応が結果を大きく左右するため、検討段階から早めに咲くやこの花法律事務所の弁護士にご相談ください。
10,実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士がうつ病の従業員に対する退職勧奨をサポートした解決事例
咲くやこの花法律事務所では、うつ病などの精神疾患で雇用の継続が難しい従業員に関する相談や依頼を事業者からお受けし、事業者側の立場で解決してきました。
ここでは、咲くやこの花法律事務所が実際に対応した解決事例をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
(1)入社後すぐに抑うつ症状で休職していた従業員が「復職可能」の診断書を提出。無理な復職希望を断って退職による円満解決をした事例
製造業の会社で、新卒入社した従業員が入社直後に抑うつ状態となり休職していた事案です。
会社は就業規則に基づき休職期間満了を案内しましたが、従業員からは、それまで「自宅療養が必要」とされていた診断内容と異なり、突然「復職可能」とする主治医の診断書が提出されました。
会社としては診断内容に疑問を抱いたものの、主治医が復職可能と診断している以上、一方的に復職を拒否して休職期間満了による退職扱いとすることには大きな法的リスクがありました。
そこで、咲くやこの花法律事務所では、まず休職期間を延長したうえで復職審査を実施し、本人との面談、生活記録表の提出指示、主治医への医療照会などを進めました。
その結果、従業員から提出される生活記録表には不眠や体調不良などの症状が継続していることが記載されており、主治医からも十分な回復には至っていない旨の回答が得られました。これらの資料を踏まえて会社の判断を丁寧に説明したところ、従業員も納得し、最終的には会社都合退職として退職届を提出し、円満に解決することができました。
この事例では、主治医の診断書のみで判断するのではなく、復職面談やオリジナル書式による生活状況の確認、主治医に対する医療照会などを通じて実際の復職可能性を慎重に検討したことが、紛争を回避しながら円満解決につながったポイントでした。
▶参考情報:この事例については下記の記事で詳しくご紹介していますのでご参照ください。
・入社後すぐに抑うつ症状で休職していた従業員が「復職可能」の診断書を提出。無理な復職希望を断って退職による円満解決をした事例
また、この解決実績について詳しく解説した動画も公開中です。「休職者がまだ不調なのに復職診断書提出!断って円満退職で解決した事例を弁護士が解説」もあわせてご覧ください。
上記の他にも、退職勧奨に関する咲くやこの花法律事務所の弁護士による解決事例を以下でご紹介しています。こちらもぜひご参考にしてください。
11,うつ病など精神疾患の従業員への退職勧奨に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務所では、うつ病や適応障害などの精神疾患がある従業員に対する退職勧奨等の対応について、企業側の立場からのご相談をお受けしています。以下では、咲くやこの花法律事務所の企業向けサポート内容をご紹介いたします。
(1)うつ病などの精神疾患の従業員への対応方針についてのご相談
咲くやこの花法律事務所では、うつ病や適応障害などで就業に支障が生じている従業員への対応に関する様々なご相談を承っています。特に、休職制度の運用や復職についての判断が重要になります。次のような問題について企業側の立場から具体的にアドバイスしています。
- 休職を認めるべきか、休職制度の運用について
- 主治医への対応や産業医との連携
- 復職可能性をどう判断するか
- 配置転換や業務軽減をどこまで検討すべきか
- リハビリ勤務や段階的復職の進め方
- 会社が退職勧奨を希望する場合に適法に行うための手順や具体的な話し方
- 休職期間満了時の対応
また、休職制度や復職判定に関する就業規則の整備についても対応可能です。
初期対応を誤ると、後に大きな労務トラブルに発展するリスクがありますので、できるだけ早い段階でご相談いただくことをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所の弁護士への相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
- 相談方法:来所相談のほかオンライン相談、電話相談が可能
(2)退職勧奨の進め方、訴訟対応等についてのご相談
うつ病や適応障害で就業が困難になった従業員への退職勧奨はトラブルに発展しやすい場面の1つです。
咲くやこの花法律事務所にご相談いただくことで、適切に退職勧奨を進めるための以下のようなサポートができます。
- 退職勧奨面談の方法や説明内容のアドバイス
- 退職条件の整理
- 退職合意書の作成
また、必要に応じて、弁護士が会社側代理人として退職勧奨の面談に出席し、従業員への対応を行うことも可能です。
退職勧奨に失敗したり、一旦は合意退職に至ったものの、後からトラブルに発展したりすることも考えられます。従業員から、退職強要や不当解雇、安全配慮義務違反などを理由として訴えられ、労働審判や訴訟へ発展するケースもあります。
その場合も、咲くやこの花法律事務所にご相談いただければ、企業側代理人として労働審判・訴訟への対応をサポートすることができます。
咲くやこの花法律事務所の弁護士へのご相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
- 相談方法:来所相談のほかオンライン相談、電話相談が可能
(3)顧問弁護士サービス
咲くやこの花法律事務所では、事業者向けに会社の体制や労務管理全般をサポートする顧問弁護士サービスを提供しています。顧問弁護士サービスをご利用いただき、日頃から継続的にご相談いただくことで、従業員との間で労務トラブルが発生しづらいように、またトラブルが起きてしまったときに適切に対応できるように、社内の体制を整えることができます。
顧問契約をご検討中の方は、無料で弁護士との面談(オンラインや電話も可)を実施しておりますので、気軽にお問い合わせください。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスの費用例
- 月額3万円+税~15万円+税
- 申し込み方法:来所面談のほかオンライン面談、電話でのご案内が可能
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスの内容は以下をご参照ください。
12,まとめ
うつ病などの精神疾患を抱える従業員に対して、精神疾患を理由に安易に退職勧奨をして退職を求めたり、精神的に不安定な状態の従業員に対して強い圧力をかけたりした場合には、退職強要や安全配慮義務違反として違法と判断されるリスクがあります。
まずは就業継続や復職可能性について必要な配慮を尽くして十分に検討することが重要です。そのうえで、就業継続が困難である場合には、適切なプロセスで退職勧奨による合意退職を検討することになります。
うつ病の従業員への対応は、休職制度の運用、復職判定、退職勧奨、離職理由の整理など、専門的な判断が必要となる場面が少なくありません。対応を誤ると、労働審判や訴訟などの大きな労務トラブルに発展する可能性があります。お困りの場合は、企業側の労務問題に詳しい弁護士に早めに相談しながら進めることをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所でも、うつ病や適応障害など精神疾患で就業が困難になった従業員の休職や復職の検討や退職勧奨などについて、企業側の立場に立ったサポートを行っています。うつ病や適応障害など精神疾患の従業員への対応でお困りの企業はぜひご相談ください。
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記事作成日:2026年7月2日
記事作成弁護士:西川 暢春
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