こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
裁判所から会社に突然書類が届いたがどう対応すればよいかわからない、元従業員から訴えられてこれからどうなってしまうんだろうかと不安を抱えていませんか。
訴えを無視してそのまま放置してしまうと、従業員の主張が全面的に認められてしまい、会社に多大な損害を与える可能性があります。訴訟トラブルによる会社のダメージを最小限に抑えるためには、訴えられたときの正しい対応を理解し、適切に対処することが重要です。
この記事では、会社が元従業員から訴えられる理由や訴えられた場合の裁判手続きの流れ、会社がやるべきこと等について解説します。
労働問題に関する労働者の関心の高まり等を背景に、労働関係訴訟の件数は増加傾向にあり、今後も増えていくことが予想されます。近年では、労働者向けに、「未払残業代を請求しませんか」という内容の広告を打ち出している法律事務所も多数出現し、労働者の権利意識も高くなっています。
咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で従業員から訴えられた場合の対応について専門的なサポートを行い、多くの問題を解決してきました。咲くやこの花法律事務所へのご相談は以下をご参照ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,訴えられたらどうなる?裁判の流れ
まずは、元従業員から裁判を起こされた場合に、その後の手続きがどのように進んでいくのか全体的な流れをご説明します。
労働問題で従業員から裁判所へ申し立てられる手続きの大部分を占めるのが、「民事訴訟」と「労働審判」です。ここからは、それぞれの手続きに分けて、どのような流れで裁判が行われるのかを解説します。
(1)民事訴訟の場合
民事訴訟とは、人と人あるいは会社の間で発生した紛争について、最終的に裁判所の判断によって紛争の解決を目指す手続きのことです。訴えた側を原告、訴えられた側を被告と呼びます。
民事訴訟は以下の流れで行われます。
1,訴訟提起から終了までの流れ
① 裁判所から呼出状と訴状が届く
従業員(原告)が裁判所に訴状を提出すると、裁判所は訴状を受け付けた上で、初回の期日を決め、会社(被告)に「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」という書類を送付します。
この書類には、以下の内容が記載されています。
- 事件番号
- 事件名
- 原告(訴えた人)
- 被告(訴えられた人)
- 裁判が開かれる裁判所名や担当部、担当書記官名
- 期日の日程
- 法廷(裁判が開かれる裁判所の部屋)
- 答弁書の提出期限
この他に、原告から提出された訴状や証拠書類、答弁書の様式等の書類も一緒に送られてきます。
② 答弁書を提出する
裁判所から書類を受け取った被告(会社)は、答弁書を提出します。
答弁書とは、原告が提出した訴状に対して、被告(会社)の反論を記載した書面のことです。前述の「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」に答弁書の提出期限が記載されているので、定められた期限までに提出する必要があります。なお、民事訴訟では、答弁書を提出すれば、被告側は第1回の期日を欠席することが認められています。
③ 期日での審理
初回の期日が開かれた後は、だいたい月に1回のペースで期日が開かれ、双方が主張や反論、証拠の提出等を行うことになります。初回の期日は裁判所が決めますが、2回目以降の期日は、原告被告双方の都合を聞いた上で、どちらも出席できる日程が指定されます。
期日の前までにあらかじめ主張や反論を記載した書面(準備書面)を提出し、期日当日はその書面を陳述することになります。期日当日は、準備書面の内容や関連する事情等について、裁判官や相手方から質問等をされることがあります。弁護士に訴訟を委任した場合は、基本的には弁護士だけが期日に出席します(希望する場合は同席や傍聴が可能です)。
④ 尋問
尋問とは、裁判の当事者や関係者(証人)等が、裁判官の前で、直接、事実関係について供述や証言をする手続きのことです。証人は法廷に立って、自分の知っていることを証言したり、相手方や裁判官からの質問に答えたりします。誰を尋問するかは、双方の申出をもとに最終的に裁判官が決定しますが、会社の代表者や会社の担当者、従業員本人等が対象となることが多いです。
パワハラについての訴訟では、加害者とされる人と被害を訴えている従業員の双方が尋問されることがほとんどです。なお、すべての裁判で尋問が行われるわけではなく、尋問前に和解が成立した場合など、尋問が実施されないこともあります。
⑤ 和解
ほとんどの訴訟手続きで、尋問手続きの前あるいは後に、裁判所から和解の提案をされます。双方が和解することに合意した場合は、裁判は終了となります。
裁判というと判決のイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、労働関係訴訟に関していえば、和解で終わる事件が半数以上です。
令和5年に最高裁判所が公表した統計データによると、労働関係訴訟では、判決で終了した事件は27.2%、和解で終了した事件は52.8%となっています。(▶参考情報:裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」の127ページ)
⑥ 判決
和解が決裂した場合は、裁判所がこれまでの双方の主張や証拠、尋問の内容を踏まえた上で、判決を下すことになります。
判決の内容に不服がある場合は控訴をすることができます。控訴ができる期間は、判決書を受け取った日から2週間以内です。この期間内に裁判所に控訴状を提出する必要があります。原告側も被告側も期間内に控訴をしなかった場合は、判決が確定します。
2,訴訟に要する期間
民事訴訟はある程度時間をかけて審理を行うことが前提となっています。期日の回数にも制限がありません。事案の複雑さや双方の主張の内容にもよりますが、訴訟が提起されてから終了まで1~2年程度かかることが一般的です。
令和5年に最高裁判所が公表した統計データによると、令和4年の労働関係訴訟の平均審理期間は17.2月となっています。(▶参考情報:裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」の125ページ)
(2)労働審判の場合
労働審判とは、会社と労働者の間に発生した労働問題の解決に特化した労働審判委員会が主催する紛争解決制度です。手続きは裁判所で行われますが、通常の裁判よりも簡単な手続きで行われ、短期間で終了するのが特徴です。
労働審判の申立てをした人(通常は従業員または元従業員)を申立人、申立てをされた側(通常は会社側)を相手方と呼びます。
労働審判は以下のような流れで行われます。
1,労働審判の申立てから終了までの流れ
① 裁判所から呼出状と申立書が届く
従業員(申立人)が裁判所に労働審判手続申立書を提出すると、裁判所は申立書を受け付けた上で、初回の期日を決め、会社(相手方)に「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」という書類を送付します。
この書類には、以下の内容が記載されています。
- 事件番号
- 事件名
- 申立人(申し立てた人)
- 相手方(申し立てられた会社)
- 裁判所名や担当部、担当書記官名
- 期日の日程
- 出頭場所(期日の日に出頭する裁判所の場所)
- 答弁書の提出期限
この他に、申立人から提出された申立書や証拠書類、答弁書の様式等の書類も一緒に送られてきます。
② 答弁書を提出する
裁判所から書類を受け取った会社側は、答弁書を提出します。答弁書とは、従業員の請求や主張に対して、会社側の反論を記載した書面のことです。
「第1回労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」に答弁書の提出期限が記載されているので、定められた期限までに提出する必要があります。
③ 期日での審理(原則3回以内)
期日では、裁判官や労働審判員が、双方の言い分を聞いたり、事実関係を確認したりして、審理を行います。
労働審判の期日には、代理人弁護士だけでなく、事情をよく知っている会社関係者も出席するのが原則です。また、労働審判は、期日の場で双方が口頭で主張立証を行うため、労働審判委員会や相手方からの質問を想定し、具体的に回答できるように準備しておく必要があります。
労働審判の期日は、1回あたり1~3時間程度かかるのが一般的です。ほとんどのケースで、初回の期日から和解についての話し合いが行われるため、会社側も、第1回期日の前に、弁護士と十分に打ち合わせを行い、どのような解決を目指すかの方針を決めておく必要があります。
④ 調停成立
話し合いでお互いが合意した場合は、調停が成立し、労働審判の手続きは終了となります。
⑤ 労働審判
調停が成立しなかった場合は、労働審判員会が「審判」と呼ばれる判断を示します。
審判の内容に不服がある場合は従業員側も会社側も異議申立を行うことができ、どちらかが異議申立をすると、審判は無効になり、通常訴訟に移行します。異議申し立てができる期間は、審判書が届いた日または口頭で審判の告知を受けた日から2週間以内で、この期間内に、裁判所に異議申立書を提出する必要があります。
期間内に従業員側も会社側も異議申立をしなかった場合は、審判の内容が確定します。
(2)労働審判に要する期間
労働審判は、原則として3回以内の期日で終了するという縛りが設けられているため、民事訴訟手続きと比べて申立から解決までの期間が短いという特徴があります。
令和5年に最高裁判所が公表した統計データによると、労働審判の平均審理期間は90.3日となっています。(▶参考情報:裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」)
▶参考情報:労働審判の制度や会社側の対応については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
2,会社が訴えられた場合にとるべき対応
裁判所から書類が届いてから初回の期日までの期間は、通常1ヶ月程度です。そのため、書類が届いたら一刻も早く対応にとりかかる必要があります。
ここからは、裁判所から書類を受け取ったときの会社の対応について解説します。
(1)弁護士に相談する
裁判に対応するにあたって弁護士は必須の存在ではありません。弁護士に依頼せず、自分で裁判手続きを行うことも理屈上は可能です(「本人訴訟」といいます)。
しかし、裁判では、関連する法律を踏まえて適切な主張・立証をすることが重要です。本人訴訟の失敗で多いのは、感情的な主張や不明確な主張を繰り返し、法的な争点に関する適切な主張や反論、立証ができていないというものです。
実際には、会社としては、本人訴訟ではなく、弁護士に対応を依頼すべきですし、そのためには、裁判所から書類を受け取ったら、すぐに弁護士に相談するべきです。
(2)裁判の日時と答弁書の提出期限を確認する
弁護士への相談の予約をすることと並行して、まずやるべきことは第1回期日の日時と答弁書の提出期限の確認です。
従業員や元従業員の言い分が事実無根であったとしても、答弁書を提出せず、期日にも出頭しなかった場合は、従業員側の主張が全面的に認められてしまう可能性があります。
会社側として一番やってはいけないのは、何の対応もせずに放置することです。まずは、期日の日時と答弁書の提出期限を確認し、そこからスケジュールを逆算して対応していく必要があります。
労働審判の場合、労働審判を起こされた会社には期日への出頭義務があるので注意が必要です。呼出状を無視して、正当な理由なく期日を欠席すると、従業員の主張が全面的に認められてしまうリスクに加えて、5万円以下の過料が科せられる可能性があります(労働審判法31条)。
遠方で裁判所への出頭が難しい等の事情がある場合は、ウェブ会議等のオンラインの方法で手続きに参加できることもあるので、裁判所に相談しましょう。
(3)従業員の主張を把握し事実関係を調査する
従業員や元従業員が提出した訴状や申立書、証拠を読み込んで、従業員側の請求内容や主張を正確に把握しましょう。その上で、関連書類の精査や関係者へのヒアリング等を行い、事実関係を調査します。また、証拠書類の確保も重要です。時間経過とともに消去されてしまうデータ等もあるので、提出するかしないかは追々検討するとして、関連する資料はこの時点ですべて収集しておくべきです。これらの対応は弁護士に相談したうえで行いましょう。
(4)会社側の対応方針を決定する
事実関係が把握できたら、弁護士が会社として認める部分、反論すべき部分をまとめて、会社の主張を整理します。そのうえで、会社としてどのように主張していくか、どのような解決を目指すのか等の対応方針を決めます。
(5)答弁書を作成する
会社の主張がまとまったら、弁護士に依頼して答弁書を作成し、提出期限までに提出します。
答弁書に記載する項目には以下のようなものがあります。
- 事件番号、事件名、当事者名
- 裁判所からの書類を受け取る場所(送達場所)
- 会社としてどのような判断を求めるか
- 相手が主張する事実に対する認否
- 相手の主張に対する反論
- 会社側の主張
そして、会社の主張を裏付ける証拠資料があればあわせて提出します。
特に、労働審判は、原則として3回以内の期日で終了するという縛りがあり、第1回期日で和解のおおよその方針を決め、2回目以降の期日では和解についての話し合いが行われることが多いです。
そのため、会社側が反論したり主張したりする機会は、実質、答弁書と第1回期日しかありません。そこで、答弁書には会社側の主張を余すことなく、かつ、具体的に記載することが特に重要です。
労働審判の答弁書の書き方については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
3,従業員や元従業員から訴えられる理由と事例
ここからは会社がどのような理由で従業員から訴えられることが多いのか、よくあるトラブルと事例をご紹介します。
(1)パワハラやセクハラ等のハラスメント
会社には、労働者が安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をする義務(職場環境配慮義務、労働契約法第5条)があります。また、職場でのパワハラやセクハラを防止するための対策をする義務があります(労働施策総合推進法第30条の2、男女雇用機会均等法第11条)。
これらの義務に違反し、ハラスメントを防止するための措置をとっていなかったり、労働者からハラスメントの訴えがあった際に適切な対応を怠った結果、労働者が精神疾患を発症したり、何らかの損害を被った場合、会社は、労働者に対する安全配慮義務違反を理由に損害賠償責任を負う可能性があります。
また、労働者同士のトラブルであっても、使用者責任を問われる可能性もあります。使用者責任とは、従業員が他人に損害を発生させた場合に、会社も一定の要件のもとで、その従業員と連帯して被害者に対する損害賠償を行う責任のことをいいます(民法715条)。
実際に、パワハラに関して会社が被害者への損害賠償を命じられた裁判例は多数にのぼります。一例として以下のようなものがあります。
▶参考情報:福井地方裁判所判決 平成26年11月28日
上司からパワハラを受けた新入社員が自死したことについて、会社と上司に約7300万円の損害賠償が命じられた事案
会社がパワハラやセクハラ等のハラスメントで訴えられた場合は、ハラスメントの事実があったかどうかの調査や、被害者からハラスメントの訴えがあったかどうか、それに対して会社としてどのように対応したか、会社として法律で定められた防止措置をとれていたか等の確認が必要です。
▶参考情報:パワハラやセクハラ、安全配慮義務違反については以下の記事もご参照ください。
・パワハラ防止の対策とは?義務付けられた10項目を弁護士が解説
(2)解雇や退職勧奨、雇止め
労働トラブルの中で、特に問題が深刻化しやすいのが、解雇や退職勧奨、雇止め等のトラブルです。
これらのトラブルが大きな問題に発展しがちなのは、生活の糧を得るための手段である職を失うことになるため労働者にとって深刻度が高いこと等が理由です。
不当解雇の事案では、解雇が無効と判断されると、会社は解雇の時点にさかのぼって賃金を支払わなければならないことが通常です。これを「バックペイ」といいます。敗訴すると、支払金額が高額になる傾向があり、会社は大きなダメージを受けることになります。
実際に、裁判で解雇が無効と判断された事例は多数に上ります。一例として以下のようなものがあります。
▶参考情報:三井記念病院事件(東京地方裁判所 平成22年2月9日判決)
経営者の事業方針、業務命令に従わないなどの理由で従業員を解雇したことが不当解雇と判断され、約1700万円の支払いを命じられた事案
会社が不当解雇や退職勧奨、雇止めのトラブルで訴えられた場合は、法律上のルールや就業規則に従って適切な方法・手順で手続きをしたか、解雇の理由に正当性があるか等の確認が必要です。
▶参考情報:解雇や退職勧奨、雇止めについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(3)未払残業代請求
未払残業代(未払賃金)とは、会社が、法律上支払義務があるのに支払いをしていない残業代のことをいいます。
仮に、裁判で従業員の主張が認められた場合は、未払残業代相当額に加えて、「付加金」や「遅延損害金」等が上乗せされ、本来の残業代の額の倍額以上の支払いを命じられるリスクがあります。
実際に、会社が従業員への未払残業代の支払いを命じられた裁判例は多数に上ります。一例として、以下のようなものがあります。
▶参考情報:康正産業事件(平成22年2月16日鹿児島地方裁判所判決)
飲食店の店舗責任者であった従業員に対して未払残業代732万円の支払いを命じられた事案
未払残業代で訴えられた場合は、従業員の主張する労働時間に誤りがないか、残業を禁止していたか、管理監督者にあたるかどうか等の確認が必要です。
▶参考情報:残業代についての法律上のルールや、残業代を請求されたときの反論方法等については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(4)労災(労働災害)の損害賠償請求
労災とは、労働者が、業務が原因で負傷したり、病気になったり、亡くなったりすることをいいます。
企業には、労働者が安全と健康を確保しつつ就業するために必要な配慮をする義務(安全配慮義務)があります(労働契約法第5条)。企業の安全配慮義務違反によって労災事故が発生した場合、従業員や遺族から損害賠償を請求される可能性があります。
実際に、労災について企業が損害賠償を命じられた裁判例は多数に上ります。一例として、以下のようなものがあります。
▶参考情報:令和3年6月25日判決 札幌地方裁判所
過重労働が原因で従業員が精神疾患を発症し、自殺したことについて、企業に対し約5500万円の支払いが命じられた事案
従業員から労災で訴えられた場合は、会社に安全配慮義務違反があったかどうか、従業員に落ち度はなかったか等の確認が必要です。
▶参考情報:労災や労災認定された場合の影響、損害賠償の額等については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
(5)理不尽な理由で訴えられることもある
会社が従業員から訴えられる事案の中には、従業員の言いがかりと感じるような理不尽な理由のものがあることも事実です。
しかし、理不尽な理由や身に覚えがない内容だからといって放置すると、従業員の主張が全面的に認められてしまう可能性があります。従業員の主張が間違っているのであれば、裁判の手続きの中で、そのことを主張していく必要があります。
納得ができない気持ちになることもあると思いますが、どのような理由であれ無視は禁物です。
4,会社が被るリスクやその後の影響とは?
訴えられたからといって、ただちに何か不利益が生じるわけではありませんが、一定のリスクがあることは事実です。ここからは、会社が訴えられた場合に生じるリスクや影響についてご説明します。
(1)会社が金銭の支払いを命じられる可能性
敗訴した場合、会社は、損害賠償や未払賃金の支払い等の民事上の責任を負うことになります。どの程度の金銭の支払いを命じられるかは事案によって様々ですが、例えばハラスメントが原因で従業員が自死してしまった事案や、不当解雇をめぐる訴訟で解雇が無効と判断された事案等では、支払額が高額になる可能性があります。
訴訟において和解をする場合も、会社側が解決金として一定の金銭を支払うケースが多くなっています。
厚生労働省が公表している統計データによると、解雇等の事件における和解については、労働審判の解決金額の平均値は「2,852,637円」、労働関係訴訟のうち和解で解決した事案の解決金の平均値は「6,134,219円」となっています(令和4年)。
(2)社会的な信用の低下
近年では、企業内のハラスメントやトラブルが外部の報道機関によって報道され、全国的に広く知られるケースも増えています。
もし、社内のトラブルが世間に広まってしまった場合、人材が集まらず採用活動に支障が生じたり、顧客離れにつながったり、取引先からの信用を失い関係が悪化する等の悪影響が生じる可能性があります。
(3)他の従業員への影響
労働問題でトラブルになっていることが他の従業員に知られた場合、従業員から会社に対する信頼の低下や士気の低下につながる可能性があります。
また、特に未払残業代の支払いを求める裁判で多いのですが、裁判の結果、会社から従業員に対する未払賃金の支払いが命じられると、それが他の従業員も波及して、同様の訴えを起こす従業員が出てくる例があります。
裁判トラブルが発生した場合は、これらのリスクや影響を考慮した上で、慎重に対応していく必要があります。
5,弁護士に依頼するメリット・費用
労働関係訴訟においては、9割弱の事件で双方に訴訟代理人(弁護士)が選任されており、ほとんどの事件に弁護士が関与しているのが実情です。特に会社側が弁護士に依頼しないで訴訟に対応するケースはほとんどありません。
それでも弁護士に依頼した方がいいのか迷っている方、また、弁護士費用がネックで依頼するかどうか迷っている方に向けて、訴訟や労働審判手続きを弁護士に依頼するメリットと、弁護士に依頼した場合の費用について解説します。
(1)弁護士に依頼するメリット
会社側の代理人となった弁護士は、会社の対応の正当性を主張することが主な役割です。そのために会社側の弁護士が行うこととしては、以下のようなものがあります。
- 事実関係の確認、関係者からの聞き取り
- 裁判所へ提出する書面の作成
- 証拠の選定、提出
- 裁判例の調査
- 期日への出席
- 和解条件の交渉
等
このような役割を弁護士に依頼するメリットとしては、以下の点があげられます。
1,法的なポイントをおさえた主張
裁判で最も重要なことは、法的なポイントをおさえて適切な主張・立証を行うことです。
裁判所は、これまでの会社と労働者のやり取りを見てきたわけではないので、当事者が主張する内容からでしか事実関係を把握することはできません。極端にいえば、事実関係だけをみれば会社側の主張の方が正しいといえるのに、それを裁判所に上手く伝えることができなかったために、会社側に不利な結果になってしまうということもあり得ます。
弁護士はこの点をよく理解しているので、法律の知識や経験に基づいて、適切で効果的な主張立証活動を行います。裁判は専門性が高い手続きですので、より早くより有利に解決したいと考えるのであれば、専門家である弁護士へ依頼することをおすすめします。
2,会社の損害を抑えるための判断
従業員や元従業員の主張が認められる見込みが高い場合は、ある程度譲歩し、早期に解決した方が会社にとって金銭的な損害が少なくなる場合もあります。一方、会社側として徹底的に反論して、会社の主張を裁判所の判決で認めてもらうことを目指すべき事案も多いです。このような判断は、法律の専門家であり、裁判例や法律上のルールを熟知した弁護士だからこそできることです。
また、労働審判や訴訟の多くが和解によって終了していることから、双方の主張や証拠の提出がひととおり済んだ段階で、和解交渉をうまく進めることも弁護士の重要な役割の1つになります。
3,労力面・精神面の負担軽減
裁判手続きにおいて会社が対応するべきことは、証拠書類の収集や書面の作成、月に1回のペースで開かれる期日への出席等多岐にわたり、大変な労力が必要となります。
特に法務の専門部署がない会社では、代表者が忙しい業務の傍らで対応しなければならなかったり、他の部署の従業員が通常業務と並行して対応しなければならなくなる等、労力的に大きな負担を負うことになります。
その点、弁護士に依頼した場合は、書面の作成や期日への出席、裁判所とのやり取り等はすべて弁護士が行うことになるため、訴訟対応にかかる負担を大幅に軽減することができます。
また、企業の経営者にとって訴訟トラブルは思っている以上に大きなストレスになります。そんな時に会社側の立場で会社と一緒になって戦う弁護士の存在は、精神的な負担の軽減にもつながるはずです。
(2)弁護士費用の目安
裁判手続きを弁護士に依頼する場合に支払う費用とその目安は以下のとおりです。
費用 | 内容 | 目安 |
相談料 | 法律相談の対価として支払う費用 | 30分あたり 5,000円~10,000円 |
着手金 | 弁護士へ事件を依頼した段階で支払う費用
※事件の結果に関係なく返還されません |
相手から請求された額に応じて
・300万円以下の場合 ・300万円を超え3000万円以下の場合 ・3000万円を超え3億円以下の場合 ・3億円を超える場合 |
報酬金 | 事件の解決時に、その結果の成功の程度に応じて支払う費用 | 相手方の請求を減額した額に応じて
・300万円以下の場合 ・300万円を超え3000万円以下の場合 ・3000万円を超え3億円以下の場合 ・3億円を超える場合 |
日当 | 弁護士が移動や出張をする際の時間的拘束に対して支払う費用 | 1日あたり5万円~10万円 |
実費 | 裁判所に納める印紙や切手代、通信費、交通費、コピー代等の費用 | – |
ただし、上記はあくまで目安にすぎません。弁護士費用は一律に決まっているわけではなく、個々の弁護士あるいは法律事務所ごとに価格が設定されており、相手の請求内容や事案の複雑さ等にも左右されます。
弁護士に依頼する場合は、どのような費用が発生するのか、総額でどの程度の費用が必要になるのか、よく確認した上で依頼しましょう。
6,咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容
咲くやこの花法律事務所では、会社が訴えられた場合の対応について、企業側の立場でご相談をお受けし、多数の事件を解決してきた実績があります。これまでの事務所の経験を生かした専門的な対応を行います。
咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。
(1)会社側代理人としての対応
従業員から訴えられた場合は、一刻も早く弁護士に相談していただくことが重要です。
咲くやこの花法律事務所では、会社側の代理人としてこれまで数多くの訴訟に対応してきました。企業法務に特化した弁護士の知識と豊富な経験をもとに、会社側の主張が十分に反映された解決を実現します。
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士への相談費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(2)トラブルを発生させない予防法務への取り組み
咲くやこの花法律事務所にご相談いただくトラブルの中には、こうしていればトラブルを防げたのに、もっと早く相談してもらえれば問題が大きくなる前に解決できたのに、と感じる事案が数多くあります。
筆者の経験上、従業員がいきなり裁判という手段をとるケースはほとんどありません。多くのケースでは、裁判の前に、弁護士を通して交渉を持ち掛けてきたり、労働組合に加入して団体交渉を申し入れたり、何らかのアクションを起こした上で、それでも解決に至らなかった場合に、最終手段として裁判を起こすことが一般的です。
問題が大きくなればなるほど会社が負うダメージも大きくなることが多いです。そのため、トラブルの初期段階で解決すること、なによりトラブルを発生させないことが重要です。
咲くやこの花法律事務所では、多数の企業に顧問弁護士サービスを提供し、トラブルの予防やトラブルが発生した時の損失の拡大を防ぐ予防法務にも力を入れています。咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で数多くの事案に対応してきた経験豊富な弁護士が、トラブルの予防、そしてトラブルが発生してしまった場合の早期解決に尽力します。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスの費用例
●スタンダードプラン 月額5万円+税
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
弁護士の相談を予約したい方は以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
7,咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、訴訟や労働審判トラブルについてのご相談を数多くお受けし、会社側の代理人としてサポートを行ってきました。
咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
・パワハラ被害を受けたとして従業員から会社に対し300万円の慰謝料が請求されたが、6分の1の慰謝料額で解決した成功事例
・解雇した従業員から不当解雇であるとして労働審判を起こされ、1か月分の給与相当額の金銭支払いで解決をした事例
・従業員に対する退職勧奨のトラブルで労働審判を起こされたが、会社側の支払いなしで解決した事例
・労災事故の後遺障害の認定結果を覆し、請求約1930万円を1/7以下に減額した解決事例
8,まとめ
会社が従業員から訴えられる理由には、ハラスメントや解雇や退職勧奨、雇止め等のトラブル、未払残業代請求や労災の損害賠償請求等があります。
従業員から訴えられた場合、民事訴訟は以下の流れで手続きがすすみます。
- 1.裁判所から呼出状と訴状等が届く
- 2.答弁書や証拠書類の提出
- 3.期日での審理
- 4.尋問
- 5.和解
- 6.判決
裁判所から書類が届いたら、ただちに行動を始めることが重要です。まず最初に弁護士に相談してください。そして、従業員が提出した訴状や申立書、証拠を読み込んで、相手の請求内容や主張を正確に把握します。その上で、事実関係の調査と証拠の確保をして、会社の主張を整理し、提出期限までに答弁書を提出します。
答弁書を提出せず、期日に出頭しなかった場合は、従業員の主張が全面的に認められてしまう可能性があるため、無視は厳禁です。
咲くやこの花法律事務所では、会社が訴えられた場合の対応について、専門的なサポートを提供してきた実績があります。訴えられて困っている方、訴えられないか不安な方、トラブルに備えたい方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所へご相談ください。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2024年11月6日
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