就業規則を作成した後は、従業員代表者からの意見聴取手続きを行ったうえで、労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
でも、実際にどうやって届け出ればよいか迷うことも多いのではないでしょうか?
就業規則を届け出ていないと労働基準法違反となり罰則の対象になります。また、万が一労務トラブルが発生した際に、その従業員から届け出ていない就業規則は無効であるなどと主張されて対応に苦慮することがあります。
就業規則は確実に届出ておくことが必要です。
この記事では就業規則の届出義務や必要書類など具体的な届出方法についてわかりやすく解説します。
なお、就業規則に関する作り方など全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。
就業規則を作っていても、実際に労務トラブルになった際に弁護士が確認すると、会社を守れるような内容になっていないことがよくあります。このような場合、残念ながら、就業規則の不備が原因で企業側に不利な状況になってしまうケースがしばしばあります。作成した就業規則は届出の前に必ず労務に強い弁護士のチェックを受け、新しい判例、法律に適合した内容にしておきましょう。
▼就業規則の届出に関して今スグ相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,就業規則の届出とは?
就業規則の届出とは、就業規則を作成し、または変更したときに、事業主が労働基準監督署長に届け出ることをいいます。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成したうえで労働基準監督署長に届け出ることが義務づけられています(労働基準法89条)。
就業規則について作成だけでなく届出まで義務付けられているのは、不備のある就業規則について労働基準監督署長による指導等の対象とすることを目的とするものです。実際にも就業規則の不備に対して、労働基準監督署による行政指導が行われています。
▶参考:労働基準法89条
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
・参照元:「労働基準法」の条文はこちら
2,就業規則の届出義務
就業規則の届出が義務づけられるのは以下の場合です。
- 常時10人以上の労働者を使用する事業場において就業規則を作成した場合
- 常時10人以上の労働者を使用する事業場において就業規則を変更した場合(※就業規則に条文を「追加」した場合も、就業規則を「変更 」した場合に該当します。)
このように10人以上かどうかは、事業場ごとに判断します。そのため、事業場が複数ある会社において会社全体では従業員数が10人を超える場合でも、事業場ごとにみれば従業員数10人未満の事業場のみである場合、法律上は就業規則の作成義務・届出義務はありません。
なお、従業員が10人未満の事業場しかない場合も、使用者が就業規則を作成することは可能です。その場合、会社が就業規則を周知すれば、就業規則としての効力は発生しますが、10人未満である以上、届出義務はないとされています。ただし、義務ではないものの、従業員が10人未満であっても、労働基準監督署長に就業規則を届け出ることは可能であり、就業規則を明確にするという観点からは届け出ることが望ましいです。
3,届出の必要書類
次に、届出の必要書類について確認しましょう。
必要書類は以下の通りです。
(1)届け出る就業規則
労働基準監督署に提出する就業規則は、すべて「2部」ずつ準備しましょう。
「1部」は提出用、もう「1部」は自社保管用です。自社保管用(自社の控え)については労働基準監督署の受付印をもらったうえで自社で保管しておくために準備します。
(2)従業員代表者の意見書
就業規則の届出の際は、従業員代表者の意見書を添付することが義務付けられています(労働基準法90条2項)。
届出の前に必ず、従業員代表者からの意見聴取手続きを行う必要があります(労働基準法90条1項)。ただし、従業員代表者と話し合っても、従業員代表者が意見書の提出に協力しないときは、その旨の報告書を作成して添付することにより、就業規則を労働基準監督署長に届けることができます。
なお、事業所の従業員の過半数が加入する労働組合がある場合は、その労働組合の意見書を提出することが必要です(労働基準法90条)。
また、意見書は事業所(事業場)ごとに取得する必要がありますので、10名以上の事業所(事業場)が複数ある場合はその数だけ意見書を取得することが必要になります。
▶参考:就業規則の意見書については以下の参考記事や参考動画で詳しく解説していますのでご参照ください。
・就業規則の意見書とは?記入例や意見聴取手続きの注意点を解説
・西川弁護士が「就業規則の意見書と過半数代表選出!使用者が候補者を指名しても良い?)」を詳しく解説中!
(3)届出書
届出書は以下のものをダウンロードしてご使用下さい。
4,付属規程等について届出が必要な範囲
契約社員就業規則やパート社員就業規則、育児介護休業規程、賃金規程など複数の規程がある場合は、どの規程まで届け出ればよいのでしょうか?
これについては、以下の点をおさえておきましょう。
まず、雇用形態を問わずすべての就業規則を届け出る義務があります。契約社員就業規則やパート社員就業規則、嘱託社員就業規則などはすべて届出の義務があります。
次に、賃金規程、育児介護休業規程、退職金規程、旅費規程等、就業規則の絶対的必要記載事項あるいは相対的必要記載事項を定めた規程はすべて届出する必要があります。
▶参考:就業規則の絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項は法律でその項目が決められています。詳しくは以下の参考記事で解説していますので参照してください。
一方、会社の規程であっても、就業規則の絶対的必要記載事項あるいは相対的必要記載事項を定めたものでないときは、届出の必要はありません。
社宅管理規程や個人情報取扱規程、営業秘密管理規程などは届出の必要はありません。また、内規については、従業員に提示されず雇用契約の内容となるものでもないため、就業規則には該当せず、従って届出の必要はありません。
5,事業所ごとに届け出ることが原則だが本社一括届出制度も利用可能
次に届出の方法について見ていきたいと思います。
就業規則は、会社の事業所(事業場)を管轄する労働基準監督署長に届け出ます。10名以上の事業所(支社、営業所、店舗など)が複数ある会社では、就業規則は事業所ごとに作成し、事業所ごとにその事業所を管轄する労働基準監督署長に届け出ることが原則です。
(1)本社一括届出について
前述の通り事業所ごとに届け出るのが原則ですが、本社の就業規則と本社以外の事業所の就業規則が同じ内容の場合は、「本社一括届出制度」という制度を利用することが可能です。
この制度を利用すれば、本社所在地を管轄する労働基準監督署長にまとめて届け出ることが可能になります。本社一括届出の場合も、意見書は各事業所ごとに必要です。
届出の流れは以下の通りです。
- 1.各事業所が意見書を取り付け、本社に送付する
- 2.本社から本社を所轄する労働基準監督署長に届出を行う。
・以下の書類が必要。
本社分の書類:就業規則届出書、意見書及び就業規則本体
本社以外の事業所分の書類:一括届出の対象事業場一覧表、対象事業所ごとの意見書、事業所を管轄する監督署ごとに就業規則本体1部ずつ - 3.届出後に本社を管轄する労働基準監督署から本社以外の事業所分の書類が返却されるので、それを本社を管轄する労働基準監督署の就業規則配送作業室宛に提出する
- 4.労働基準監督署の就業規則配送作業室から、各事業所を管轄する労働基準監督署に就業規則届等が配送される
以下の「本社一括届出の事務処理の流れのフロー図」もあわせてご参照ください。
▶参考:本社一括届出の事務処理の流れのフロー図
6,いつまでに届出が必要か?
就業規則を作成した場合にいつまでに届出が必要かについては、法律上の規定のほか、通達等もありません。遅滞なく届け出れば足りると考えるべきでしょう。
7,届出方法(電子申請もあり)
届出の方法は、必要書類を所轄の労働基準監督署に持参して提出するか、郵送して提出することになります。
就業規則本体は、紙媒体ではなく、CD‐R等の電子媒体で提出することも可能です。郵送する場合は、労働基準監督署から労働基準監督署の受付印を捺印した控えを郵送してもらうことになるため、返信用封筒を入れておきましょう。
また、電子申請による届出も可能です。電子申請による届出は以前は電子署名・電子証明書の添付が必須でしたが、令和3年4月以降これが不要になり、利用しやすくなっています。電子申請の場合も、受付印が付いた控えをダウンロードすることが可能です。
▶参考:電子申請はe-Govの申請画面から行います。電子申請についての詳細は以下を参照してください。
8,変更・改定・追加の場合の届出期限
就業規則の変更・改定・追加の場合も労働基準監督署長への届出が必要です。
届出の期限については、法律上の規定のほか、通達等もありません。遅滞なく届け出れば足りると考えるべきでしょう。
▶参考:就業規則変更届については、以下の記事で詳しく解説していますのでこちらもわせてご参照ください。
9,届出をしない場合の罰則
就業規則の届出は労働基準法上の義務です。10名以上の事業所(事業場)があるのに就業規則を届け出ていない場合は、30万円以下の罰金の対象となりますので注意しましょう。
▶参考:就業規則がない場合や届出をしない場合についての解説は、以下の記事で詳しく解説していますので参考記事にご覧ください。
10,届出を忘れた場合の対応
就業規則の届出を忘れている場合は、気づいた段階ですみやかに届け出るべきです。
なお、就業規則が効力をもつために最も重要な要件は、就業規則を社内で周知することです。就業規則を作成した際に、届出を忘れていても、就業規則を周知している以上は、就業規則の効力に直接影響するわけではありません。
労働契約法7条も、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」と定めており、届出をしたことは就業規則の効力発生要件とはされていません。
また、就業規則を変更した際に、その届出を忘れても、変更後の就業規則を周知している以上は、同様に、就業規則の変更の効力に直接影響するわけではありません。
ただし、従業員にとって不利益な変更については、変更後の就業規則が従業員を拘束する効力をもつためには、その変更に「合理性」があることが要件となります(労働契約法10条)。この点に関連して、変更後の就業規則を届出をしていないことは「合理性」の判断においてマイナス評価される要素となります。従って、従業員にとって不利益な変更については、就業規則を届け出ていないと、不利益な変更の効力が認められなくなる危険があります。
▶参照:労働契約法10条
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
・参照元:「労働契約法」の条文はこちら
▶参考情報:就業規則の効力については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
11,まとめ
今回は、就業規則の届出の必要書類と具体的な届出方法についてご説明しました。
就業規則を作成したら、従業員代表の意見を聴いたうえで、正しく届出をしておきましょう。また、届出を終えたら、作成した就業規則を周知することも非常に重要です。周知がされていない就業規則は法的に無効とされています。
12,就業規則の届出に関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に、「咲くやこの花法律事務所」における就業規則に関するサポート内容をご説明しておきたいと思います。
咲くやこの花法律事務所では、就業規則について以下のサポートを行っています。
- (1)就業規則の作成
- (2)就業規則のリーガルチェック
順番に見ていきましょう。
(1)就業規則の作成
「咲くやこの花法律事務所」では、これまで多くの就業規則の作成依頼を承ってきました。
正社員用就業規則、契約社員用就業規則、パート社員用就業規則、給与規程、育児介護休業規程などのオーソドックスなものはもちろんですが、そのほかにも嘱託社員向け就業規則や「在宅勤務・在宅ワークに関する就業規則」の作成依頼、あるいは「無期転換ルールに対応した就業規則」などや特殊なものも承っています。
「咲くやこの花法律事務所」の弁護士は、多くの労働問題や労務トラブル、労働裁判を解決してきた実績があり、そのときの経験を生かして、就業規則の内容を実際の労働問題や労務トラブル、労働裁判においても活用できる内容にすることについて、常に改善、研究を行っています。
このようなことは実際に裁判を担当して解決にあたる弁護士でなければできません。
「咲くやこの花法律事務所」に就業規則の作成をご依頼いただくことで、自社の就業規則を自社の現実にあったものとし、また、万が一の労務トラブルや労務裁判においても活用することができる内容に整備することができます。
咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士への相談料
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●就業規則の作成費用:20万円+税~
(2)就業規則のリーガルチェック
「咲くやこの花法律事務所」では、既に就業規則を作成済みの会社のために、弁護士による就業規則の「リーガルチェックサービス」も行っています。
前述のとおり、残念ながら、労働問題トラブルの際に本当の意味で機能する就業規則を作成されている会社は「ほとんどみかけないのが実情」です。
「咲くやこの花法律事務所」のリーガルチェックを受けていただくことで、自社の就業規則を実際の労働問題や労務トラブルの現場でも機能する内容に仕上げていくことが可能です。
就業規則を届け出る前に必ず弁護士のチェックを受けておきましょう。
咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士への相談料
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●就業規則のリーガルチェック費用:8万円+税~
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせする方法
就業規則に関する相談は、下記から気軽にお問い合わせください。咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士によるサポート内容については「労働問題に強い弁護士への相談サービス」のページをご覧下さい。
また、今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
13,【関連情報】就業規則の届出に関するその他のお役立ち記事一覧
就業規則については、自社に応じた正しい内容で記載事項など設計しないと、様々な労務トラブルの場面で不利益な結果につながります。
そのため、今回ご紹介してきた「就業規則の届出」と合わせて、就業規則の記載事項や正しい作り方、変更方法など、就業規則に関連するその他のお役立ち情報もあわせて確認しておきましょう。
・就業規則と労働基準法の関係とは?違反する場合などを詳しく解説
・就業規則の閲覧を求められたら?会社は応じる義務がある?対処法を解説
・就業規則の変更方法は?手続きと不利益変更・同意書取得などの注意点を解説
・パート・アルバイトの就業規則の重要ポイントと注意点【雛形あり】
・在宅勤務やテレワーク・在宅ワークの就業規則の重要ポイント7つ
・派遣社員の就業規則の重要ポイント!厚生労働省のひな形も参考に解説
業種別の就業規則に関するお役立ち情報をまとめ
実際に従業員を雇用されている会社では、自社にあった最適な就業規則を作成しておく必要があります。そのため、就業規則を整備しておくことはもちろん、万が一「労務トラブル」などが発生した際は、スピード相談が早期解決の重要なポイントです。
就業規則の作成や変更については、「労働問題に強い弁護士」に相談するのはもちろん、普段から自社の労務環境の整備を行っておくために「労働問題に強い顧問弁護士」にすぐに相談できる体制にもしておきましょう。労働問題に強い「咲くやこの花法律事務所」の顧問弁護士サービスについては、以下を参考にしてください。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年1月23日
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