労災年金がどのような場合にもらえるかや、もらえる金額がわからずに調べていませんか?
労災保険の給付には、一回限りの一時的な給付と年金のような定期的な給付との2つの種類があり、後者のような年金として定期的に長期間給付されるものが労災年金と呼ばれます。
そして、労災年金の種類は3つあり、それぞれ以下のような場合に支給されます。
1.障害補償等年金、障害等年金、障害特別年金
業務災害または通勤災害による怪我や病気で重い障害が残った場合(障害等級の1~7級に該当する障害)
2.傷病補償等年金、傷病等年金、傷病特別年金
業務災害または通勤災害を原因とする怪我や病気について、治療開始から1年6か月を経過しても治療が終わらず、その程度が重い場合(傷病補償等級の1~3級に該当する場合)
3.遺族補償等年金、遺族等年金、遺族特別年金
業務災害または通勤災害が原因で死亡した労働者の遺族が以下の要件を全て満たす場合
- 労働者が死亡した当時、その労働者の収入により生計を維持していたこと
- その労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹であること
- 妻以外の遺族については、年齢要件を満たしているか、または一定の障害の状態にあること
労災年金の受給要件を満たすにもかかわらず、知らなかったために申請しないまま申請期限を超過するといったことがないよう、あらかじめ労災年金についてよく理解しておくことが大事です。
この記事では、労災年金の種類をはじめ、申請方法や給付内容、どのような場合にもらえるのかといったことについて詳しく解説します。
この記事を読めば、労災年金について詳しく知ることができるはずです。
それでは見ていきましょう。
最初に労災年金をはじめとする労災(労働災害)に関する全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,労災の年金とは?
まず、労災年金とは何か、どのような種類があるのかについてご説明します。
労災の年金とは、労災保険からの給付のうち、一回限りの支給ではなく、毎偶数月に定期的、継続的に支給される年金のことをいいます。重い障害が残った場合に支給される障害補償等年金、1年6か月経過しても治療が終わらず重い症状が継続する場合に支給される傷病補償等年金、労働者が死亡した場合に遺族に支給される遺族補償等年金がその主な例です。
労災保険の給付には一回に限り支給される一時金と定期的な給付の2種類があり、後者の年金として定期的に給付されるものが労災年金と呼ばれます。
具体的には以下の3つの種類があります。
(1)労災年金の3つの種類
1,障害補償等年金、障害特別年金
業務災害による怪我や病気についてひととおりの治療が終わった後も、障害等級の1~7級に該当する障害が残った場合に支給される年金です。
なお、残存した障害が障害等級8~14級に該当するものである場合は、年金ではなく障害補償一時金が支給されます。
2,傷病補償等年金、傷病特別年金
業務災害による怪我や病気について、治療を開始してから1年6か月を経過しても治療が終わらず、その程度が傷病補償等級の1~3級に該当する場合に受け取ることのできる年金のことです。
3,遺族補償等年金、遺族特別年金
遺族補償給付は、業務災害により労働者が死亡した場合に、その労働者の遺族に対して支給される給付のことです。
遺族補償給付のうち、年金として支給されるものとして、遺族補償等年金や遺族特別年金などがあります。
上記では、業務による怪我や病気、死亡の場合の給付について説明しています。
怪我や死亡が通勤中の事故による場合は、それぞれ、障害等年金、傷病等年金、遺族等年金の名称が使用されますが、補償の内容は上記と同内容です。
2,どんな場合にもらえるか?
次に、先程ご説明した3つの労災年金について、それぞれどのような場合にもらえるのかを見ていきましょう。
(1)障害補償等年金
障害補償等年金を受け取る要件としては、業務災害による怪我や病気が治ゆ(症状固定)の状態になった際に、障害等級の1~7級に該当する障害が残っていることが要件となります。
通勤災害の場合は、「障害等年金」の名称が使用されますが、要件は同じです。
障害等級の1~7級が、それぞれどのような内容の障害かについては、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
(2)傷病補償年金、傷病特別年金
業務災害による怪我や病気について、治療開始から1年6か月を経過した日、もしくはその日以降に、下記の2つの要件を満たす場合に受け取ることができます。
- 業務災害による怪我や病気の治療が終わっていないこと(症状固定していないこと)
- その怪我や病気の程度が傷病補償等級の1~3級に該当すること
傷病補償等級の1~3級の内容は以下の通りです。
▶参考:「傷病補償等級別の障害の内容」一覧表
傷病等級 | 障害の内容 |
1級 | ・神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に介護を要するもの ・胸腹部臓器の著しい障害を有し、常に介護を要するもの ・両目が失明しているもの ・そしゃく及び言語の機能を廃しているもの ・両上肢のひじ関節以上で失ったもの ・両下肢をひざ関節以上で失ったもの ・両上肢(下肢)の用を全廃しているもの など |
2級 | ・神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、随時介護を要するもの ・胸腹部臓器の著しい障害を有し、随時介護を要するもの ・両目の視力が0.02以下になっているもの ・両上肢を腕関節以上で失ったもの ・両下肢を足関節以上で失ったもの など |
3級 | ・神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの ・胸腹部臓器の著しい障害を有し、常に労務に服することができないもの ・一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になっているもの ・そしゃく又は言語の機能を廃しているもの ・両手の手指の全部を失ったもの など |
なお、通勤災害の場合は、「傷病等年金」の名称が使用されますが、要件は同じです。
(3)遺族補償等年金、遺族特別年金
遺族補償給付は、業務災害により死亡した労働者の遺族が受け取ることのできる給付です。
遺族補償給付のうち、年金として支給されるものが、遺族補償等年金、遺族特別年金です。
受け取るためには以下の要件を全て満たす必要があります。
- 労働者が死亡した当時、その労働者の収入により生計を維持していたこと
- その労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹であること
- 妻以外の遺族については、年齢要件(年少あるいは高齢)を満たしているか、もしくは一定の障害の状態(※1)にあること
(※1)ここでいう一定の障害とは、障害等級5級以上の障害のことを指します。具体的な年齢要件と優先順位は、以下の通りです。
この順番の中で、最上位の順位者だけが受け取ることができます。
- 1.妻、60歳以上又は一定の障害の状態にある夫
- 2.18歳までの間又は一定の障害の状態にある子
- 3.60歳以上又は一定の障害の状態にある父母
- 4.18歳までの間又は一定の障害の状態にある孫
- 5.60歳以上又は一定の障害の状態にある祖父母
- 6.60歳以上、18歳までの間又は一定の障害の状態にある兄弟姉妹
- 7.55歳以上60歳未満の夫
- 8.55歳以上60歳未満の父母
- 9.55歳以上60歳未満の祖父母
- 10.55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
なお、通勤災害の場合は、「遺族等年金」の名称が使用されますが、要件は同じです。
3,等級ごとの給付金額
次にそれぞれの労災年金について、等級ごとにいくら給付を受け取ることができるのか見ていきましょう。
(1)給付基礎日額と算定基礎日額について
労災における年金の計算には、給付基礎日額と算定基礎日額という用語が使用されます。
まずは、この用語の意味についてご説明したいと思います。
1,給付基礎日額
給付基礎日額とは、業務災害の発生日、もしくは医師の診断を受けた診断日からさかのぼって3カ月間の賃金、もしくは医師の診断を受けた診断日からさかのぼって3か月前の賃金(ボーナスなどの賞与は除く)をその期間の日数で割った額のことです。
2,算定基礎日額
次に、算定基礎日額とは、業務災害の発生日、もしくは医師の診断を受けた診断日以前の1年間に、労働者が事業主から受けた特別賞与(いわゆるボーナス)の総額を365日で割った額のことです。
おおまかにいうと、給付基礎日額というのは給与分、算定基礎日額というのは賞与分ということになります。
3,参考:給付基礎日額のスライド率について
労災保険では、前述の通り、原則として給付基礎日額を業務災害の発生日、もしくは医師の診断を受けた診断日からさかのぼって3か月間の賃金(ただし賞与等の臨時に支払われる賃金は除く)をその期間の日数で割った額として算定しています。
しかし、労災年金においては、給付基礎日額を賃金水準の変動に応じて改定する制度(スライド制)が取り入れられています。
年金は長期にわたり給付されるため、被災時の賃金による給付を続けるとその後の賃金水準の変動が反映されず、公平性を欠いてしまうためです。
スライド率の算定は、業務災害が起きた年度の平均給与額と、支給年度の前年度の平均給与額を比較して計算されます。
そのため、平均給与額が前年度より多ければ年金額も増加し、反対に少なければ年金額も減少します。このスライド制は令和4年8月以降の年金額算定に適用されるため、令和4年10月からスライド制によりされた年金額が支給されます。スライド率は毎年見直しが行われます。
スライド率については、厚生労働省のホームページを参考にご覧ください。
それでは、ここまでの説明を踏まえて、各年金の支給額についてご説明したいと思います。
(2)障害補償等年金
業務災害による残存障害が障害等級の1~7級に該当する場合に受け取ることのできる障害補償給付の年金は、障害補償等年金と障害特別年金の2つがあります。
障害等級ごとの給付金額については以下の表の通りです。通勤災害の場合は給付の名称が変わりますが、金額は同じです。
▶参考:障害補償等年金の等級別の給付金額一覧
等級 | 障害補償等年金 | 障害特別年金 |
1級 | 給付基礎日額の313日分 | 算定基礎日額の313日分 |
2級 | 給付基礎日額の277日分 | 算定基礎日額の277日分 |
3級 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
4級 | 給付基礎日額の213日分 | 算定基礎日額の213日分 |
5級 | 給付基礎日額の184日分 | 算定基礎日額の184日分 |
6級 | 給付基礎日額の156日分 | 算定基礎日額の156日分 |
7級 | 給付基礎日額の131日分 | 算定基礎日額の131日分 |
労災における後遺障害に対する給付内容について、詳しくは以下をご覧ください。
(2)傷病補償等年金
傷病補償等級の1~3級に該当する場合、傷病補償等年金と傷病特別年金の2つの年金を受
け取ることができます。
等級ごとの給付内容は以下の表の通りです。通勤災害の場合は給付の名称が変わりますが、金額は同じです。
▶参考:傷病補償等年金の等級別の給付金額一覧
傷病等級 | 傷病補償等年金 | 傷病特別年金 |
1級 | 給付基礎日額の313日分 | 算定基礎日額の313日分 |
2級 | 給付基礎日額の277日分 | 算定基礎日額の277日分 |
3級 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
(3)遺族補償等年金
遺族補償給付では、受給権者は遺族補償等年金と遺族特別等年金を受け取ることができます。
これらの年金は遺族の数に応じて支給額が異なります。
具体的な支給内容は以下の表の通りです。通勤災害の場合は給付の名称が変わりますが、金額は同じです。
▶参考:遺族補償等年金の給付金額一覧
遺族数 | 遺族補償等年金 | 遺族特別年金 |
1人 | 給付基礎日額の153日分 (ただし、その遺族が55歳以上の妻又は一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分) |
算定基礎日額の153日分 (ただし、その遺族が55歳以上の妻又は一定の障害状態にある妻の場合は算定基礎日額の175日分) |
2人 | 給付基礎日額の201日分 | 算定基礎日額の201日分 |
3人 | 給付基礎日額の223日分 | 算定基礎日額の223日分 |
4人 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
4,労災年金の請求手続
次に、労災年金のそれぞれの請求手続についてご説明します。
▶参考情報:労災の申請の手続き全般や必要書類については以下のページをご参照ください。
(1)障害補償等年金、障害等年金
障害補償等年金・障害特別年金の申請は、主治医の作成した後遺障害の診断書と「障害補償給付・複数事業労働者障害給付支給請求書」(様式第10号)を労働基準監督署長に提出し、後遺障害の認定手続きを行います。
調査の結果、7級以上の後遺障害等級が決定すれば障害補償等年金・障害特別年金が支給されます。
通勤災害の場合は、主治医の作成した後遺障害の診断書と「障害給付支給請求書」(様式第16号の7)を労働基準監督署長に提出し、後遺障害の認定手続きを行います。
調査の結果、7級以上の後遺障害等級が決定すれば障害等年金が支給されます。
障害補償等年金、障害等年金の申請については以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
(2)傷病補償等年金、傷病等年金
傷病補償等年金・傷病特別年金の支給・不支給の決定は、治療開始から1年6か月がたっても治療が終わらない場合に、所轄の労働基準監督署長の職権によって行われます。
そのため、請求手続はありません。
しかし、治療開始から1年6か月が経過しても治療が終わらない場合は、1か月以内に「傷病の状態等に関する届」(様式第16号の2)を所轄の労働基準監督署長に提出する必要があります。
通勤災害については傷病等年金という名称が使用されますが、扱いは同じです。
傷病補償等年金、傷病等年金については以下もご参照ください。
(3)遺族補償等年金、遺族等年金
遺族補償等年金の申請は、所轄の労働基準監督署長に「遺族補償年金・複数事業労働者遺族年金支給請求書」(様式第12号)を提出します。
また、上記の申請書の提出の際は、以下の添付書類も併せて提出する必要があります。
- 死亡診断書、死体検案書、検視調書またはそれらの記載事項証明書など、被災労働者の死亡の事実及び死亡の年月日を証明することができる書類
- 戸籍の謄本、抄本など、請求人および他の受給資格者と被災労働者との身分関係を証明することができる書類
- 請求人および他の受給資格者が被災労働者の収入によって生計を維持していたことを証明することができる書類
通勤災害の場合は、「遺族補償年金・複数事業労働者遺族年金支給請求書」(様式第12号)ではなく、「遺族年金支給請求書」(様式第16号の8)を提出します。
これら、「障害補償等年金、障害等年金」「傷病補償等年金、傷病等年金」「遺族補償等年金、遺族等年金」の請求手続に必要となる請求書は以下からダウンロードすることができます。
5,労災年金の支給月・支給日
次に、労災年金の支給月・支給日についてみていきましょう。
障害補償等年金、傷病補償等年金、遺族補償等年金ともに「毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月」に2か月分がまとめて支給されます。
支給要件を満たした月の翌月分から支給されます。
支払日は原則として15日ですが、15日が休日にあたるときはその直前の日に支給されます。
6,労災年金はいつまでもらえる?
次に、労災年金がそれぞれいつまでもらえるかについてみていきましょう。
(1)障害補償等年金はいつまでもらえる?
障害補償等年金について特に受給期限はないため、業務災害に遭った労働者が存命である限り、受給し続けることが可能です。
(2)傷病補償等年金はいつまでもらえる?
傷病補償等年金については、先程ご説明した以下の2つの要件を満たす限り受給することができます。
- 業務災害による病気や怪我の治療が終わらないこと(症状固定していないこと)
- その病気や怪我の程度が傷病補償等級の1~3級に該当すること
なお、病気や怪我の治療がひととおり終了し、「症状固定(治ゆ)」の状態となった場合は上記の要件を満たさなくなるため、障害補償等年金に切り替えられます。
(3)遺族補償年金はいつまでもらえる?
遺族補償等年金の受給期限については、受給者の身分によりそれぞれ以下のように異なります。
- 配偶者:死亡または再婚するまで
- 子や孫、または年少(18歳以下)の兄弟姉妹:18歳に達する日以後の最初の3月31日が終了したときまで
- 妻以外の一定障害の状態にある受給資格者:障害等級5級以上に該当しなくなったときまで
7,労災年金の受給には労基署長への定期報告が必要
労災年金を受給している場合には、原則として年に1回、労働基準監督署長への定期報告が必要です。
例えば、労災年金の支給と同じ事由により障害厚生年金や遺族厚生年金が支給される場合などは、その内容を報告する必要があります。
ただし、マイナンバーで確認できる場合や、所轄の労働基準監督署長が報告の必要がないと認めた場合には報告は不要です。
報告すべき内容の詳細については、労働者災害補償保険法施行規則第21条に定められています。
労働者災害補償保険法施行規則の条文については以下をご参照ください。
8,労災年金の支給が停止される場合
次に、どのような場合に労災年金の支給が停止されるのかをそれぞれ見ていきましょう。
(1)障害補償等年金
障害補償年金は、業務災害により残った障害の程度が障害等級の1~7級に該当する場合に支給されます。
そのため、もし症状の程度が軽減され、障害等級の1〜7級に該当しなくなった場合、障害補償年金の支給は打ち切られます。
(2)傷病補償等年金
傷病補償年金については上記「(2)傷病補償等年金はいつまでもらえる?」でも述べたとおり、業務災害による怪我や病気が「症状固定(治ゆ)」の状態となった場合に支給停止となります。
症状固定の時点で一定の障害が残った場合は、障害補償給付に切り替えられます。
(3)遺族補償年金
遺族補償年金については、受給資格のある遺族がいなくなると給付が停止されます。
9,労働者が死亡した場合に遺族が受給できる労災年金について
次に、労働者が死亡した場合に遺族が受給できる労災年金について、詳しくみていきましょう。
以下では業務災害による死亡の場合に遺族が受給できる遺族補償等年金についてご説明しますが、通勤災害による死亡の場合の遺族等年金についても内容は同じです。
(1)遺族補償等年金の受給要件と順位
まず、遺族補償等年金の受給要件についてご説明します。
遺族補償等年金の受給資格を得るためには、次の要件を満たすことが必要です。
- 労働者が死亡した当時、その労働者の収入により生計を維持していたこと
- 死亡した労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹であること
- (妻以外の遺族についてのみ)年齢要件を満たしていること
上記の受給資格を持つ遺族が複数いる場合、その全員が遺族補償等年金を受給することはできません。
身分や年齢により優先順位が定められており、その中で最も順位の高い遺族のみが支給を受け取ることができます。
順位は以下の通りです。
1,遺族補償年金の受給権者とその順位
- 1.妻、60歳以上又は一定の障害の状態にある夫
- 2.18歳までの間又は一定の障害の状態にある子
- 3.60歳以上又は一定の障害の状態にある父母
- 4.18歳までの間又は一定の障害の状態にある孫
- 5.60歳以上又は一定の障害の状態にある祖父母
- 6.60歳以上、18歳までの間又は一定の障害の状態にある兄弟姉妹
- 7.55歳以上60歳未満の夫
- 8.55歳以上60歳未満の父母
- 9.55歳以上60歳未満の祖父母
- 10.55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
なお、同順位の受給権者が2人以上いる場合は、そのうちの一人が年金の請求や受け取りについての代表者となります。
世帯が異なり別々に住んでいるなど、やむを得ない事情がある場合を除き、原則として同順位の受給権者が年金を等分して受け取ることは出来ません。
(2)遺族補償等年金の支給が停止される場合
次に、どのような場合に遺族補償等年金の支給が停止されるのかご説明します。
以下の事由があった場合、遺族補償等年金の支給が停止されます。受給資格を失った場合は、次順位の遺族が支給を受けることになります。
- 死亡したとき
- 婚姻をしたとき(届出はしていないが事実上婚姻関係に至った場合も含む)
- 直系血族または直系姻族以外の者の養子となったとき(届出はしていないが事実上養子縁組関係となった場合も含む)
- 離縁によって、死亡した労働者との親族関係が終了したとき
- 子、孫または兄弟姉妹について、18歳に達する日以後の最初の3月31日は終了したとき(労働者死亡の時から引き続き一定の障害の状態にある場合を除く)
- 一定の障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母または兄弟姉妹について、その障害の程度が障害等級5級以上に該当しなくなったとき
(3)前払一時金
次に、遺族補償等年金の支給について、まとまった額を前払いで受け取ることのできる制度をご説明します。
遺族補償等年金を受給することになった遺族は、まとまったお金が必要な場合、1回のみ遺族補償等年金の前払いを受けることができます。
前払一時金の支給金額については、給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1,000日分から希望する額を選ぶことができます。
前払一時金が支給されると、遺族補償年金は各月分(1年経ってからの分は法定利率で割り引いた額)の合計額が、前払一時金の額に達するまでの間支給が停止されます。
前払一時金の請求期限は、労働者が亡くなった日の翌日から2年です。
10,税金は非課税になる?
労災年金である障害補償遺族補償等年金・傷病補償等年金・遺族補償等年金にかかる税金については、どれも非課税です。
11,障害年金と労災年金の併給調整
次に、障害年金と労災年金の併給調整についてご説明します。
障害年金とは仕事・生活が制限されるような病気や怪我を負った場合に受給できる年金のことです。
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2つの種類があり、病気や怪我について初めて医師の診察を受けたときに、国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」を、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」を請求することができます。
▶参考情報:障害年金の制度については、以下の記事で詳しく解説していますので参考似ご覧ください。
この障害年金と労災年金について、両方とも受給資格の認定を受けた場合、障害年金は満額受け取ることができますが、労災年金については、遺族補償等年金と障害補償等年金が一定の割合を乗じる形で減額されます。
この調整は併給調整と呼ばれます。
調整率については以下の表の通りです。
▶参考:併給調整率の一覧表
労災年金 | 障害補償年金 | 遺族補償年金 | |
社会保険の種類 | 併給される年金給付 | 障害年金 | 遺族年金 |
厚生年金及び 国民年金 |
障害厚生年金及び障害基礎年金 | 0.73 | - |
遺族厚生年金及び遺族基礎年金 | - | 0.80 | |
厚生年金 | 障害厚生年金 | 0.83 | - |
遺族厚生年金 | - | 0.84 | |
国民年金 | 障害基礎年金 | 0.88 | - |
遺族基礎年金 | - | 0.88 |
なお、障害特別年金や遺族特別年金など、被災前のボーナス分を反映させたものについては、併給調整は行われません。
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記事作成日:2023年5月30日
記事作成者:弁護士西川暢春