従業員に対し戒告処分、譴責処分あるいは減給処分、出勤停止処分などの懲戒処分をする場合、具体的な書類の書き方や通知方法はどうすればよいのでしょうか?
懲戒処分については後日裁判になるケースや、処分を受けた従業員が外部の労働組合に加入して撤回を求めてくるケースが増えています。
そのため、処分を受けた従業員から裁判を起こされたり、あるいは撤回を求められたりした場合でも、耐えられるように、企業は、細心の注意を払い、判例上のルールを守って、懲戒処分を進める必要があります。
そして、懲戒処分に関する書類の書き方や通知方法にも重要なポイントがあります。
この記事では、懲戒処分通知書の正しい書き方や通知の仕方、注意点などをご説明します。
この記事を最後まで読んでいただくことで、懲戒処分通知書について、正しい書き方、通知の仕方を理解していただき、後日、懲戒処分の手続について不備が指摘されることがないようにするための注意点を理解していただくことができます。
それでは見ていきましょう。
懲戒処分について法律や判例で厳格なルールが定められています。懲戒処分通知書もルールに基づいて記載することが重要です。ルールから逸脱した懲戒処分については、従業員が外部の労働組合に加入して処分の撤回を求めたり、あるいは、裁判で損害賠償を請求されるなどのトラブルが起きています。
問題社員に対する懲戒処分を検討する際は、必ず事前に弁護士にご相談ください。
▶参考:問題社員対応に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績は、こちらをご覧ください。
▼【関連動画】西川弁護士が「懲戒処分通知書」作成の重要な注意点を弁護士が解説【前編】」と「問題社員に渡す懲戒処分通知書はどう作る?注意点をひな形をもとに解説【後編】」を詳しく解説中!
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,懲戒処分通知書とは?
懲戒処分とは、従業員の就業規則違反や規律違反行為に対して、会社が正式に制裁を科すことをいいます。
そして、懲戒処分通知書とは、懲戒処分を受けた従業員に、処分の内容や処分の理由を通知する文書のことを言います。就業規則で懲戒処分について文書で通知することが定められている場合は、懲戒処分通知書の作成は必須になります。
一方、就業規則にそのような定めがない場合は、法律上は、必ずしも、懲戒処分の内容を文書で通知しなければならないわけではありません。
しかし、問題社員に懲戒処分を重いものとして受け止めさせ、行動を改善させるためには、就業規則での定めの有無にかかわらず、懲戒処分は文書で通知するべきです。
文書によらずにメールなどで懲戒処分を通知することは、会社の懲戒処分が軽くみられる原因になり、適切ではありません。
2,書く前の確認事項
懲戒処分は就業規則のルールにのっとって行う必要があります。そのため、懲戒処分通知書を書く前にまずは自社の就業規則の懲戒に関する項目を確認することが必須です。
以下で、就業規則の確認のポイントについてご説明します。
(1)懲戒処分の理由に該当するかを確認する
まず、懲戒処分の対象となる従業員が起こした問題が、就業規則において懲戒処分の理由としてあげられているかどうかを確認することが必要です。
例えば、遅刻を繰り返しているという問題で従業員に戒告処分を行う場合は、「頻繁な遅刻」が就業規則で戒告処分の理由としてあげられているかどうかを確認する必要があります。
また、例えば、社内で暴力を振るった社員の対応として出勤停止処分を行う場合は、「社内での暴力」が就業規則で出勤停止処分の理由としてあげられているかどうかを確認する必要があります。
就業規則に懲戒処分の理由として記載されていない項目については、懲戒処分はできないことが判例上のルールです(最高裁判所平成15年10月10日判決)。
1,具体的な確認方法
例えば、厚生労働省のモデル就業規則では、譴責処分、減給処分、出勤停止処分の理由について以下のとおり定められています。
▶参考情報:厚生労働省のモデル就業規則の条文例
(懲戒の事由)
第64条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
① 正当な理由なく無断欠勤が●日以上に及ぶとき。
② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
③ 過失により会社に損害を与えたとき。
④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
⑤ 第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。
⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
懲戒処分は、上記のような就業規則の該当部分を確認したうえで行う必要があります。
そして、例えば、就業規則に譴責の理由として記載されていない項目については、譴責処分はできず、仮に処分をしたとしてもその処分は法的には無効と判断されてしまいます。
ただし、上記のモデル就業規則の条文では、「①」から「⑤」までのところで具体的な懲戒事由を列挙したうえで、「⑥」として、「⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。」と定めています。
このように、具体的な懲戒事由を列挙した後に、それと同等の行為も懲戒事由に該当することを定める条項を「バスケット条項」といいます。
「① ~ ⑤」の項目にあてはまらなくても、このバスケット条項にあてはまるとして、譴責処分の理由に該当すると判断できるケースも多いでしょう。
自社の就業規則をよく読んだうえで、判断していくことが必要です。
就業規則にバスケット条項がなく、列挙された懲戒事由のどれにもあてはまらない場合は、懲戒処分はできません。このような場合は、懲戒処分ではなく、厳重注意などとして文書で指導することにとどめることが適切です。
そして、今後に備えて就業規則に適切な懲戒事由を定める就業規則変更を行っておきましょう。
就業規則の変更手続きについては以下で解説していますのでご参照ください。
(2)処分の内容を確認する
次に、就業規則で懲戒処分の内容がどう定められているかを確認しましょう。
確認のポイントは以下の通りです。
1,戒告処分や譴責処分を検討している場合
戒告処分や譴責処分の際に重要になるのは、就業規則で、処分を受けた従業員に始末書の提出を義務付けているかどうかを確認することです。
例えば、厚生労働省のモデル就業規則では、以下のように、譴責処分の場合は、始末書を提出させることになっています。
▶参考:厚生労働省「モデル就業規則」
(懲戒の種類)
第63条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
①けん責 始末書を提出させて将来を戒める。
(以下略)
このように始末書の提出が就業規則で記載されている場合、懲戒処分通知書を記載する際には、「あなたを〇〇の理由で譴責処分とするから●月●日までに始末書を提出して下さい。」という内容にするべきです。
※始末書の提出を拒否する場合の対応については以下をご参照下さい。
▶参考情報:始末書を拒否して出さない従業員への対応
一方、譴責処分の際の始末書の提出義務が就業規則に記載されていない場合は、「あなたを〇〇の理由で譴責処分とするから、今後十分注意して職務にあたってください。」という内容にするべきです。
さらに加えて、「●月●日までに今回のような問題を繰り返さないことを誓約する誓約書を提出して下さい。」という内容にしてもよいでしょう。
2,減給処分を検討している場合
減給処分を検討している場合は、就業規則の減給処分の箇所を見て、以下の点を確認してください。
- 減給の限度額がどのように記載されているか
- 減給処分の際に始末書の提出を命じる内容になっているか
減給処分において始末書の提出を命じる内容になっている場合は、懲戒処分通知書に始末書の提出期限を記載することが適切です。
減給処分の際の減給の限度額については、就業規則の限度額だけでなく、労働基準法上の限度額にも注意することが必要です。
減給処分の際の減給限度額については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
3,出勤停止処分を検討している場合
出勤停止処分を検討している場合は、就業規則の出勤停止処分の箇所を見て、以下の点を確認してください。
- 出勤停止処分の上限日数がどのように記載されているか
- 出勤停止処分の際に始末書の提出を命じる内容になっているか
出勤停止処分において始末書の提出を命じる内容になっている場合は、懲戒処分通知書に始末書の提出期限を記載することが適切です。
出勤停止処分については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
3,懲戒処分通知書の書式と文例【ひな形ダウンロード】
懲戒処分通知書には以下の項目を記載します。
- 従業員名
- 社名、代表者名
- 処分日
- 懲戒処分の種類と内容
- 処分の理由(懲戒対象事実)
- 就業規則上の根拠条文
- 始末書や誓約書を提出するべき場合は、その旨及び提出期限
例として、戒告処分をする場合の、懲戒処分通知書(戒告書)の文例を以下にアップロードしていますので、参考にしてください。
▶懲戒処分通知書(戒告書)の文例
なお、会社が懲戒処分をした後に、従業員から懲戒処分の無効を主張された場面で、会社から、当初懲戒処分通知書に記載していた懲戒対象事実と別の事実を懲戒処分の根拠事実として補充主張することはできないとされています。
例えば、従業員の遅刻を理由に減給処分を行った場合に、それが裁判で「重すぎる」として争われたからといって、「別の日の無断欠勤もあったからそれを踏まえれば減給処分は妥当だ」といった主張を会社からすることは認められていません。
その意味で、懲戒処分の理由(懲戒対象事実)の項目は後から変更できないことを意識して、正確にかつ慎重に記載することが必要です。
4,通知方法
懲戒処分は、懲戒処分通知書を本人に交付することにより通知します。
本人に手渡す場合は、事前にコピーをとっておき、そこに「●●年●●月●●日に原本を受領しました。」と本人に記載させ、署名と受領印をもらっておきましょう。
一方、本人が出勤しておらず手渡しが難しい場合は郵送することになります。この場合は、本人が受領したことを後日証明できるように内容証明郵便で送付することが適切です。
内容証明郵便については詳しくは以下の記事をご参照ください。
ただし、内容証明郵便は書式が決まっており、資料を同封することはできません。
そのため、例えば、内容証明郵便で「あなたを●●年●●月●●日付で戒告処分としました。戒告書を郵送しましたので確認してください。」と通知したうえで、戒告書(懲戒処分通知書)自体は普通郵便で送る方法を採用することも可能です。
5,重要な注意点
ここまで、主に書類の書き方についてご説明しましたが、懲戒処分を行う際にはそのほかにも重要な注意点があります。
以下の点に注意してください。
- 弁明の機会の付与
- 二重処罰の禁止
- 懲戒処分の相当性の原則
- 平等処遇の原則
これらの懲戒処分の進め方の注意点については、以下の記事で詳しく解説していますので参照してください。
6,問題社員対応に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、問題社員対応に関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。
咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
▶業務に支障を生じさせるようになった従業員について、弁護士が介入して規律をただし、退職をしてもらった事例
▶不正をした従業員について、弁護士が責任追及をし、退職してもらった事案
▶成績・協調性に問題がある従業員を解雇したところ、従業員側弁護士から不当解雇の主張があったが、交渉により金銭支払いなしで退職による解決をした事例
7,懲戒処分通知書に関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に、懲戒処分についての咲くやこの花法律事務所における企業向けサポート内容をご紹介します。
(1)懲戒処分に関する事前相談
懲戒処分は、従業員にとっては不利益を受けるものですので、トラブルになることは少なくありません。
しかし、だからといって問題行動を放置すると規律のゆるい会社になってしまいます。懲戒処分に関するトラブルの予防のためには、懲戒処分をする前に専門家である弁護士に相談しておくことが不可欠です。
咲くやこの花法律事務所では、労務トラブルに強い弁護士が懲戒処分に関する事前相談を随時承り、個別の事情に応じて適切な処分の内容や行うべき手続等について具体的にアドバイスさせていただいております。
懲戒処分をした後で、ご相談いただいても対応が難しいケースもあり、場合によっては懲戒処分を撤回するなどの事態になることもあります。
懲戒処分をご検討中の企業の方は、ぜひ事前にご相談ください。
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(2)懲戒処分についての言い渡しの場への弁護士の同席
懲戒処分の言い渡しは文書を交付して行いますが、手渡しする場合は従業員がその場で不満を述べたり反論をしてきたりすることがあります。
そして、会社側の不用意な言葉がトラブルの原因となることもあり得ます。無用なトラブルを防止するためには、懲戒処分の言い渡しの場に専門家である弁護士も同席することが効果的です。
咲くやこの花法律事務所では、労務トラブルに強い弁護士が懲戒処分の言い渡しの場に同席し、会社側の立場で適切な応答をするなどして、懲戒処分の言い渡しをサポートしています。
懲戒処分の言い渡しの際に従業員の反発が予想される場合や懲戒処分の言い渡しに不安があるときは、ぜひ咲くやこの花法律事務所のサポートサービスをご利用ください。
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※別途、事案の内容に応じた着手金、報酬金が必要になることがあります。
(3)懲戒トラブルの際の団体交渉への同席
従業員に対して懲戒処分をした後、従業員が懲戒処分を不当であると考え、労働組合に加入して、団体交渉を求めてくるケースが増えています。
ある日突然、労働組合から団体交渉を申し入れられて対応を迫られ、どのように対応すればよいかお困りの企業の方も多いと思います。
団体交渉では、労働組合からの要求にどのように対応すべきか、団体交渉でまとまらずに裁判に発展したときにどのような見込みになるのかなど専門的な判断のもと、交渉に臨む必要があります。
団体交渉については以下の記事も合わせてご覧下さい。
▶参考情報:団体交渉とは?わかりやすく徹底解説!
また、団体交渉には特有のルールがあり、それを守らなければ「不当労働行為」として組合から強い非難をあびることになります。
咲くやこの花法律事務所では、これまで数多くの労働組合との団体交渉に同席し、対応してきました。団体交渉の申し入れがあった場合でも、咲くやこの花法律事務所にご相談いただければ、弁護士がベストな交渉戦略を提案し、団体交渉に同席してもっとも有利な解決を実現します。
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(4)懲戒に関する裁判の際の企業側の対応
咲くやこの花法律事務所では、懲戒処分後に従業員とトラブルになり、裁判を起こされた場合の対応について多くの実績があります。
今回の記事でご紹介しましたように、懲戒処分に関するトラブルの対応には専門的な知識とノウハウが不可欠であるうえ、裁判所で懲戒処分が無効と判断されてしまうと、社内の規律を維持できません。
このようなトラブルに発展してしまった場合でも、懲戒処分に関するトラブルに精通した弁護士がこれまでの豊富な経験を生かしてベストな解決に向けて対応します。
懲戒処分に関するトラブルが生じたときは、ぜひ咲くやこの花法律事務所に対応をご依頼ください。労務トラブルに強い弁護士が迅速に対応し、適切な解決を実現します。
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8,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
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10,【関連情報】懲戒処分通知書に関するお役立ち関連記事
この記事では、「懲戒処分通知書とは?書式と文例、書き方を解説【ひな形付き】」をわかりやすくな雛形付きで解説しました。社内で従業員に対し戒告処分、譴責処分あるいは減給処分、出勤停止処分などの懲戒処分をする場合、具体的な書類の書き方や通知方法について正しく理解しておく必要があります。
また、今回ご紹介した懲戒処分通知書に関してをはじめ、他にも懲戒処分によるトラブルのリスクを回避するためには基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
以下ではこの記事に関連する懲戒処分のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・懲戒解雇とは?事例をもとに条件や進め方、手続き、注意点などを解説
注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年8月1日