こんにちは、咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
今回は、派遣社員の解雇について解説したいと思います。
派遣会社として多くの派遣社員を雇用していると、中には病欠が多いとか、勤務態度が悪いといった派遣社員もいて、対応に悩むこともあると思います。
また、派遣社員に問題がなくても、派遣先が見つからずに派遣社員の休業補償の負担が大きくなりすぎてしまうというケースもあります。
特に、コロナウィルス感染の影響で派遣先の休業が増えた時期には、派遣会社から派遣社員の解雇についてのご相談を多くいただきました。
しかし、派遣社員の解雇については、以下のように解雇が不当解雇と判断され、多額の支払を裁判所で命じられるリスクを伴います。
参考例:
横浜地方裁判所平成24年3月29日判決(シーテック事件)
リーマンショック時に派遣先から派遣契約を終了された、いわゆる「派遣切り」の事案で、派遣会社が余剰になった派遣社員を人員削減を目的に解雇したことが不当解雇とされ、約670万円の支払を命じられた事例
この記事では、派遣会社の顧問弁護士としての経験も踏まえ、派遣社員の解雇を検討しなければならない場合の注意点についてご説明します。
解雇については、後日、派遣社員から不当解雇であると主張され、ユニオンとの団体交渉や労働審判に発展するリスクがあります。
また、訴訟を起こされて、裁判所で不当解雇と判断されると、多額の支払を命じられることになります。
解雇は非常にリスクが大きい場面ですので、必ず事前に弁護士にご相談ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,無期雇用の派遣社員の解雇について
無期雇用の派遣社員(常用型派遣)と有期雇用の派遣社員(登録型派遣)では解雇についてのルールが異なります。
まず、無期雇用の派遣社員の解雇についてのルールをご説明したいと思います。
無期雇用の派遣社員の解雇は以下の条件の両方を満たした場合に限り認められます。
無期雇用の派遣社員の解雇が認められる条件
- 条件1:正当な解雇理由があること
- 条件2:30日分の解雇予告手当を支払うか、30日以上前に解雇予告をすること
30日分の解雇予告手当の支払いあるいは30日以上前の解雇予告をしていても、法律上「正当な解雇理由」があると認められない場合は、派遣社員から不当解雇として訴えられた場合に敗訴することに注意が必要です。
以下で解雇の理由ごとに説明していきたいと思います。
なお、「正当な解雇理由」については、以下の記事もあわせてご参照ください。
(1)派遣社員の勤務態度不良を理由とする解雇の場合
まず、勤務態度不良を理由とする解雇については、以下の手順を踏まなければ、「正当な解雇理由」に該当しないとするのが一般的な判例です。
勤務態度不良を理由とする解雇の手順
- 1,まず、勤務態度の問題点について派遣社員に注意指導を行う
- 2,注意指導しても問題が改善されない場合には懲戒処分を行う
- 3,懲戒処分をしてもまだ問題点が改善しないときに解雇を検討する。
過去の判例としては、以下の平成17年1月25日の東京地方裁判所の判例が、派遣社員の勤務態度不良を理由とする解雇の効力について判断しています。
参考判例:
平成17年1月25日東京地方裁判所判決
この事例は、旅行添乗員として派遣先に派遣していた派遣社員を勤務態度不良を理由に解雇した事例です。
派遣会社は、この派遣社員が出発直前になって「ツアーに行きたくない」旨のFAXを派遣会社に送付したことや、ツアー中に旅行者からクレームがでている場面で「自分は責任はとりかねる。派遣先のせいにして逃げます!」等と記載したFAXを派遣先に送ったなどの問題点があったことを理由に解雇した事例です。
しかし、裁判所は、このような点について問題があると認めつつも、結果としてこの派遣社員がツアーを欠勤したわけではなく、また、事後的に謝罪していることなどを指摘して、「本件解雇は客観的に合理的な理由を欠いており社会通念上相当なものとは認められない」として、解雇は違法であると判断しています。
なお、勤務態度不良を理由とする解雇については以下の記事もご参照ください。
このように勤務態度を理由とする解雇が簡単には認められないことから、派遣社員を雇用する際は、最初から無期雇用とすることは避けるべきです。
最初は、1ケ月程度の有期雇用を繰り返すことで本人の勤務態度を見る期間とし、勤務態度に問題がある場合は契約期間終了のタイミングで雇用を終了する扱いとすることが適切です。
ただし、雇用期間を30日以内の場合は、日雇い派遣の原則禁止の規制が適用されることに注意が必要です。
(2)病欠が多いことを理由とする解雇の場合
派遣社員の病欠が多い場合には、派遣先に迷惑をかけてしまうことから、対応が難しいことも多いと思います。
しかし、「労働基準法」では、出勤率が8割以上の場合は有給休暇を付与するなど一定の法律上の保護が与える考え方をとっています。
このことからすると、おおむね、8割以上の出勤率がある場合は、無断欠勤などの事情がない限り、解雇理由があるとすることは難しいと言わざるを得ません。
参考判例:
平成25年10月11日東京地方裁判所判決 パソナ事件
過去の判例では、病欠の事例ではありませんが、区議会議員を兼職する派遣社員について、兼職により欠勤が4割程度に達することが見込まれ、また欠勤日も不定期で1週間くらい前にならないと確定しないことなどを理由とする解雇を適法と判断した事例があります(平成25年10月11日東京地方裁判所判決 パソナ事件)。
病欠を理由とする解雇については以下の記事も参考にしてください。
病欠が多い派遣社員についても解雇は簡単には認められないため、あらかじめ病欠者が出ることに備えて交代要員を確保しておくなどの対応をせざるを得ないでしょう。
このようにいったん無期雇用すると解雇が簡単には認められないことから、派遣社員を雇用する際に最初から無期雇用とすることは避けるべきです。
最初は、1ケ月程度の有期雇用を繰り返すことで本人の勤怠状況を見る期間とし、欠勤が多すぎて改善の見込みがない場合は契約期間終了のタイミングで雇用を終了する扱いとすることが適切です。
(3)人員整理の必要性などを理由とする解雇の場合
この「(3)」の表題は、いわゆる「派遣切り」等により派遣社員に余剰が生じたことを理由とする解雇の場合としていただいてもかまいません。
不況下で多くの派遣先から派遣契約を終了されるなどした、いわゆる「派遣切り」のケースで、新しい派遣先が確保できないなどの理由から、派遣社員の解雇を検討する場合は、「整理解雇」に該当します。
「整理解雇」とは余剰人員を削減するための解雇をいいます。
1,4つの要素をもとに判断される
整理解雇についても、後日、不当解雇であるとして、解雇された従業員から訴訟を起こされるケースが少なくありません。
その場合、裁判所は、以下の4つの要素を考慮して、解雇について正当な理由があると言えるかどうかを判断しています。
- 経営上人員削減が必要があったかどうか(整理解雇の必要性)
- 解雇以外の経費削減手段をすでに講じていたかどうか(解雇回避努力)
- 解雇の対象者が合理的基準で選ばれているかどうか(解雇対象者選定の合理性)
- 対象者や組合に十分説明し、協議しているかどうか(手続きの相当性)
2,派遣会社の整理解雇に関する判例
過去の派遣会社の判例では、平成24年3月29日横浜地方裁判所判決(シーテック事件)が参考になります。
この事例は、リーマンショックで多くの派遣先から派遣契約を終了されたいわゆる「派遣切り」の事案で、多額の赤字が出た派遣会社が、次の派遣先の決まっていない派遣社員(待機社員)を、人員削減のために整理解雇した事案です。
裁判所は、前述の4つの要素にのっとって以下のように判断し、結論として不当解雇として派遣会社に解雇した派遣社員を復職させることを命じています。
●「整理解雇の必要性」について
裁判所は多額の赤字により人員削減をする必要性があることを認めました。
●「手続の相当性」について
裁判所は会社が解雇について労働組合との協議も行っていたことを認めました。
●「解雇回避努力」について
裁判所は会社としてまず希望退職者の募集をしたうえで整理解雇するべきであるとして、希望退職者の募集をしないまま整理解雇をした点について解雇回避努力が不十分であるとしました。
●「解雇対象者選定の合理性」について
裁判所は、いわゆる派遣切りにあって次の派遣先の決まっていない従業員(待機社員)全員を整理解雇の対象としたことについて、会社が個々人の能力や経歴を考慮せずに解雇対象者を選定した点で解雇の対象者が合理的基準で選ばれたとは言えないと判断しました。
なお、人員整理や整理解雇については以下でも詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
▶参考情報:整理解雇とは?企業の弁護士がわかりやすく解説
「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(PDF)」には「派遣元事業主は、無期雇用派遣労働者の雇用の安定に留意し、労働者派遣が終了した場合において、当該労働者派遣の終了のみを理由として当該労働者派遣に係る無期雇用派遣労働者を解雇してはならないこと」と定められています。
これは上記の4つの要素から正当と判断されるような派遣社員の整理解雇を禁止する規程ではありません。
(4)【補足】コロナ禍における整理解雇の注意点
前述のシーテック事件については、コロナウィルス感染による派遣先の休業や派遣先からの契約打ち切り(いわゆる「派遣切り」)で、派遣社員の余剰が生じて解雇を検討せざるを得ない場面においても参照するべきものです。
整理解雇にあたっては以下の点に注意が必要です。
- 解雇対象者や労働組合に対して、経営状況を十分に説明して、整理解雇の方針について理解を求めること
- 解雇対象者の選定にあたっては、待機期間だけでなく、本人の人事考課の結果も踏まえた選定基準を設定すること。
- 雇用調整助成金の支給対象になる場合は、その支給期間中は雇用を維持しなければ、解雇回避努力をしていないと判断されるおそれが高いこと
- まずは有期雇用の派遣労働者の雇用契約を終了させることや、希望退職者の募集を行うことにより、余剰人員を減らしてから、それでもやむを得ない場合に整理解雇に進むこと
なお、希望退職者の募集については以下の記事もあわせて参照してください。
前述のシーテック事件の判断からは、勤務成績が良い派遣労働者については、待機期間中であっても解雇対象者から外すほうが、裁判所において整理解雇が適法とされやすいと考えることができます。
(5)解雇予告の方法について
派遣社員についても無期雇用の場合は、30日前に解雇予告をするか、30日分の解雇予告手当を支払うことが法律上義務付けられています(労働基準法第20条)。
解雇予告の具体的な方法や解雇予告通知書の作成については以下で解説していますのであわせてご参照ください。
▶参考情報:解雇予告とは?わかりやすく徹底解説
(6)即日解雇する場合の解雇予告手当について
派遣社員に解雇を言い渡す当日に解雇する場合は、平均賃金の30日分を解雇予告手当として支払うことがが必要です。
解雇を言い渡す当日に解雇することを「即日解雇」といいます。
一方、30日前に解雇を予告できなかった場合でも、例えば解雇日の10日前に解雇を予告した場合は、30日から10日を差し引くことができ、平均賃金の20日分を解雇予告手当として支払えばよいことになっています。
このように予告期間が30日に足りなかった分の解雇予告手当を支払うというルールになっています。
この解雇予告手当の計算方法については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
2,有期雇用の派遣社員の解雇、雇止めについて
ここまで無期雇用の派遣社員の解雇について解説しましたが、有期雇用の場合は、上記とはルールが異なり、契約の期間中は、原則として解雇ができないことに注意が必要です。
(1)契約期間中は原則として解雇できない
労働契約法第17条1項により、期間の定めのある労働契約についての期間途中での解雇は「やむを得ない事由」がある場合でなければできない、とされています。
期間を決めて雇用したということは、その期間中は雇用を保障するという意味合いを含むととらえられており、「やむを得ない事由」があるとして、期間途中の解雇を認めた判例はほとんどありません。
そのため、期間中の解雇は違法とされる可能性が極めて高いです。
なお、これとは別に、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(PDF)」にも以下のように定められています。
▶参考情報:
「労働者派遣が終了した場合であって、当該労働者派遣に係る有期雇用派遣労働者との労働契約が継続しているときは、当該労働者派遣の終了のみを理由として当該有期雇用派遣労働者を解雇してはならないこと。」
(2)雇止めは判例上認められている
期間を定めて雇用した従業員について期間満了のタイミングで雇用を終了することを「雇止め」といいます。派遣社員の雇止めについては適法と判断されているケースがほとんどです。
▶参考情報:派遣社員の雇止めに関する判例
判例も、13年あまりにわたって同一銀行の同一支店に派遣されていた有期雇用の派遣社員について、雇用期間満了のタイミングで雇止めをした事案について、雇止めは適法であると判断しています(いよぎんスタッフサービス事件 平成21年3月27日最高裁判所判決)。
また、平成27年3月26日東京高等裁判所判決においても、期間を定めて雇用された派遣社員の期間満了による雇止めを適法と判断しています。
これらの判断は、派遣法上、有期雇用の派遣社員については派遣受入期間の制限規定(いわゆる「3年ルール」)があることなどから、そもそも長期の雇用を期待することは合理的とはいえないという考え方に基づくものです。
なお、派遣法の3年ルール(派遣受入期間の制限)については以下で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
3,解雇法理を踏まえた派遣社員の労務管理
ここまでご説明した通り、無期雇用の派遣社員については、病欠が多かったり、勤務態度が悪いなどの事情があって派遣先に迷惑をかけるようなケースでも、解雇が認められる場合は限られています。
また、派遣先との契約が終了になり新たな派遣先が見つからなくても、無期雇用の派遣社員の整理解雇が認められるためには、法律上、高いハードルがあります。
そのため、派遣会社としては、派遣社員を採用してしばらくは、有期雇用の派遣社員として扱い、勤務状況に問題があるときは雇止めにより対応することも検討するべきであるといえるでしょう。
有期雇用の期間をできるだけ短くしておけば、派遣社員に問題があったり、または派遣先が紹介できず派遣社員の余剰が生じた場合も、雇止めにより対応しやすくなります。
ただし、3年以上同じ派遣先の同じ部署に派遣する場合は、「3年ルール」により、無期雇用派遣社員への切り替えなどの対応が必要になります。
一方で、短期間の有期雇用で求人することによる求人面の影響(派遣社員を確保できるかどうか)にも注意する必要があります。
また、「労働契約法第17条」において、「使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。」とされていることにも配慮が必要です。
4,派遣社員の解雇に関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に、咲くやこの花法律事務所における派遣会社向けサポート内容についてもご紹介したいと思います。
(1)派遣会社からのご相談
咲くやこの花法律事務所では、派遣会社から以下のようなご相談を常時お受けしています。
- 問題がある派遣社員の解雇や懲戒に関するご相談
- 派遣社員の労務管理や派遣社員とのトラブルに関するご相談
- 派遣先とのトラブル、クレーム、派遣料金不払いに関するご相談
- 派遣契約書や就業規則の作成、その他派遣業で使用する各種書類についてのご相談
派遣社員とのトラブルについても深刻なものに発展するケースが増えており、弁護士に相談したうえで正しい対応をしていくことが必要です。
咲くやこの花法律事務所では、派遣会社の顧問先も多く、これまでの対応経験も豊富なため、安心してご相談いただけます。
弁護士による相談料
●初回来所相談料:30分5000円+税(顧問契約の際は無料)
(2)派遣法、労働法に強い弁護士による顧問契約
派遣社員の労務管理や派遣社員とのトラブルのほか、派遣先とのトラブル、派遣法改正への対応などについて、対策に悩まれている派遣会社経営者の方は多いと思います。
咲くやこの花法律事務所では、これらの問題についてスムーズにいつでもご相談いただくことを可能にするために、顧問契約をおすすめしています。
顧問契約をしていただくと、必要に応じて、派遣法、労働法に強い弁護士によるサポートを受けることが可能です。
咲くやこの花法律事務所では顧問契約をご希望の派遣会社の方に対して、無料で弁護士が面談して顧問契約のご案内を差し上げています。
顧問弁護士の料金
●顧問料:毎月5万円+税~(スタンダードプラン)
顧問弁護士サービスについて詳しい情報は以下もご覧下さい。
・【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら
・大阪で実績豊富な顧問弁護士サービス(法律顧問の顧問契約)をお探しの企業様はこちら
5,咲くやこの花法律事務所の派遣業に関する解決実績
咲くやこの花法律事務所では、多くの派遣会社から顧問契約のご依頼をいただき、改正法の対応や派遣社員とのトラブル、派遣先とのトラブルについて実際に解決をしてきた実績があります。
また、契約書の整備などについても派遣会社からご依頼いただき、実施してきました。
以下では咲くやこの花法律事務所の派遣業に関する実績の一部を紹介しておりますのであわせてご参照ください。
・派遣会社から労働者派遣契約書のリーガルチェックの依頼を受けた事例
・人材派遣会社の依頼により、求人サイトの「利用規約」を作成した事例
6,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年11月1日