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仕事中に居眠りをする社員の対応は?注意の仕方や解雇について解説

仕事中に居眠りをする社員の対応は?注意の仕方や解雇について解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
仕事中に居眠りを繰り返す従業員の対応に悩んでいませんか?

居眠りを繰り返すからといって、安易に解雇する等の対応をしてしまうと、後から従業員に不当解雇だとして訴えられた場合に、会社側が敗訴してしまうリスクがあります。裁判例では、仕事中の居眠りの事実が一定程度認められたとしても、頻繁な居眠りがあった証拠まではないなどとして、証拠不足により会社が敗訴している例が多くみられます。安易に解雇するのではなく、丁寧な対応が必要です。

会社としては、まずは居眠りの原因について検討し、原因ごとに適切な対応をする必要があります。また、仕事中寝る従業員に対する受診命令や懲戒処分、退職勧奨、解雇等はルールを正しく理解して行う必要があります。

この記事では、仕事中の居眠りについて考えられる原因や、居眠りを繰り返す従業員への対応について詳しく解説します。この記事を最後まで読んでいただくことで、居眠りの原因ごとの対応や、居眠りが改善されない場面での懲戒処分や解雇について注意すべき点を詳しく知ることができます。

それでは見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

懲戒処分や解雇は、対応を誤ると訴訟トラブルに発展する危険があります。そして、特に解雇については、日本では簡単には有効な解雇とは認められません。不当解雇であると判断されて会社側が敗訴すると、会社は多額の金銭の支払いを命じられるリスクがあります。

 

▶参考情報:解雇に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。

解雇とは?わかりやすく弁護士が徹底解説【まとめ】

不当解雇とは?正当な解雇との違いを事例付きで弁護士が解説

 

居眠りを繰り返す問題社員について懲戒処分や解雇を検討する際は、事前に弁護士に相談したうえで、十分な準備をしてから行動することが重要です。咲くやこの花法律事務所では、問題社員に関するご相談を事業者の立場に立ってお受けし、問題社員の対応に悩む事業者向けに専門的かつ具体的なサポートを提供しています。居眠りを繰り返す社員への対応にお困りの際はご相談ください。

咲くやこの花法律事務所へのご相談の詳細は以下もご参照ください。

▶参考情報:問題社員対応に強い弁護士への相談サービス

 

▼仕事中に居眠りをする従業員の対応について、今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

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1,仕事中の居眠りについて考えられる原因と対策

仕事中の居眠りについて考えられる原因

まず、仕事中の居眠りについて考えられる原因と対策について解説します。

 

(1)睡眠不足

多くの人が日常的に陥りがちな睡眠不足は、仕事中の居眠りの最大の原因の1つです。家事や育児、趣味あるいは仕事の都合などで睡眠時間を削ってしまうと日中に強い眠気を感じるようになり、注意力散漫や作業効率の低下、ひいては仕事中の居眠りを招きます。

睡眠不足にならないためにはまず生活習慣を見直し、十分な睡眠時間を確保することが大切です。加えて、日常生活の中で以下の点を意識して行動することで、睡眠の質の向上が期待できます。

 

  • 規則正しい生活をする
  • 日中に光を浴びる
  • 湯船に浸かる
  • 就寝直前のお酒、たばこは控える
  • 就寝直前にスマートフォンやパソコンの画面を見ない

 

睡眠不足の状態が続くと、睡眠負債が蓄積され、集中力や認知機能、運動機能が落ちていきます。一度睡眠負債が蓄積されてしまうと、2、3日しっかり眠ったくらいでは解消することができず、7〜8時間ほどの十分な睡眠時間を取る生活を3~4週間ほど続ける必要があります。

 

(2)薬の副作用

風邪や花粉症等のための薬を服用した際に、薬の副作用により強い眠気に襲われることがあります。例えば、鼻炎に処方される薬に配合されている成分の「抗ヒスタミン成分」には、眠気を引き起こす作用があります。

眠気の原因が薬の副作用であることが疑われる場合は、医師に相談して、薬をできるだけ眠気を引き起こす成分が少ないものに変えてもらったり、投薬時間を仕事に差し支えない時間帯に変更するといった方法が対策として考えられます。

 

(3)病気

病気が原因で、日中の強い眠気が引き起こされることもあります。日中の眠気は、運転が必要な職種や危険作業を伴う職種、あるいは医療職など、職種によっては放置しておくと重大な事故を引き起こす恐れがあります。下記のような病気が疑われる場合は医師の診察を受けるなど、早急な対応が必要です。

 

1,睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まる病気です。一晩中何十回と短い呼吸停止や浅い呼吸を繰り返すため、質の高い睡眠をとることができず、日中の強い眠気につながってしまうことがあります。また、放置すると心筋梗塞や脳梗塞を招くおそれがあります。そして、眠っている間に起こるため、症状を自覚するのが難しい病気でもあります。

睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状としては、いびきや起床時の倦怠感、夜間頻尿などがあげられます。日中の強い眠気のほかにこれらの症状がある場合は、一度医療機関に受診することが必要です。

 

2,ナルコレプシー・特発性過眠症

時や場所に関係なく、突然発作のように強烈な眠気に襲われることが1日に何度も繰り返される病気です。ナルコレプシーや特発性過眠症の特徴的な症状として、感情が高ぶった時に顔や首、手足もしくは全身の力が抜ける「情動脱力発作」と呼ばれる症状があります。投薬治療により、症状を改善することができます。

 

3,うつ病等の精神疾患

うつ病の症状の1つとして、不眠があり、それにともなって日中に強い眠気が出ることがあります。その他、双極性障害、統合失調症、パニック障害などさまざまな精神疾患で、睡眠障害が起こり、その結果、仕事中の居眠りにつながることがあります。精神疾患については医師の指示に従い、必要に応じて休職したうえで治療を行うことが適切です。

 

4,長時間労働・過重労働

長時間労働や過重労働が原因で慢性的な疲労に陥り、仕事中の眠気が引き起こされることがあります。会社には従業員の労働時間の状況を把握する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3)。また会社は長時間労働により従業員が健康を害することを防止する義務(安全配慮義務)を負います。長時間労働になっている従業員がいた場合は業務量を減らすなどして、労働時間が適正なものになるように管理することが必要です。

 

▶参考情報:労働安全衛生法第66条の8の3

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

・参照元:「労働安全衛生法」の条文はこちら(e-Gov 法令検索)

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

ここまでご説明したように仕事中に寝る人の居眠りの原因は多様です。居眠りを繰り返す社員がいるときは、放置せず、そのたびに本人を呼んで、思い当たる原因を尋ねてみることが、問題の解決に向けた第一歩になります。原因を特定したうえで、それに応じた対策をとる必要があります。

 

2,睡眠時無呼吸症候群やうつ病など居眠りの原因が病気にあることが疑われる場合の対応

次に、居眠りの原因が病気にあることが疑われる場合の会社の対応について解説します。

 

(1)まずは医師の診察を受けさせる

居眠りの原因が病気にあると疑われる場合、まずは従業員に対し医療機関を受診するように伝え、医師の診察を受けさせることが適切です。

 

(2)本人が受診を拒否する場合

会社から受診を勧めても、本人が受診しないケースもあります。そのような場合、特に、運転が必要な職種や危険作業を伴う職種、あるいは医療職などでは、仕事中の居眠りを放置すると重大な事故を引き起こす恐れがあるため、安全配慮義務を果たす観点からも、会社として従業員に受診を命じることが必要です。

そして、会社が命令したにもかかわらず受診を拒否する場合、従業員に対する懲戒処分を検討することになります。ただし、懲戒処分をするためには、就業規則であらかじめ会社の命令に背いて医師の診察を拒否した場合に懲戒処分の対象になることを定めておく必要があります。また、居眠りが重大な事故を招きかねない職種では、問題が解決されるまで従業員の就業を禁止することを検討する必要があります。そのような場合、就業を禁止する期間中の給与を無給とすることも認められます。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

判例は、就業規則に会社の受診命令権を定める規定を置いている場合は、会社は従業員に対し、受診を命じることができ、これを拒否する従業員に懲戒処分を科すことも有効であるとしています。また、そのような受診命令については、従業員の健康の早期回復という目的に照らし 合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であることを要するとしつつ、会社として指示できる事項を特に限定的に考える必要はなく、会社が医師を指定したり、受診の時期を指定したりすることもできると判示しています(電電公社帯広局事件)。

・参考情報:「電電公社帯広局事件判決(最高裁判所判決昭和61年3月13日)」について

 

(3)医師の診断により居眠りの原因が病気であることが判明した場合

医師の診断により、仕事中の居眠りの原因が病気であることが判明した場合、通院や服薬等によって通常の業務を継続しながら治療をすれば改善が見込めるときは、有給休暇の利用や、必要な場合は配置転換等も検討しつつ、治療を進めていく必要があります。

一方、うつ病などの精神疾患では、医師により休職が必要と診断されることがあり、その場合は、会社は休職を命じ、私傷病休職制度により対応することになります。

 

▶参考情報:休職命令や私傷病休職制度、従業員に精神疾患の兆候が出た際に会社がとるべき対応等については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、あわせてご参照ください。

休職命令とは?出し方と注意点をわかりやすく解説

私傷病休職とは?制度の内容と流れをわかりやすく解説

従業員に精神疾患の兆候が出た際の会社の正しい対応方法

うつ病での休職!診断書や基準、期間、手続きの流れなど会社側の対応方法

 

3,会社の労働環境等に原因があることが疑われる場合の対応

会社の労働環境等に原因があることが疑われる場合の対応

一方、仕事中の居眠りの原因が、長時間労働等にあることが疑われる場合は、会社として問題の解消に努める必要があります。

 

(1)長時間労働が原因の場合

長時間労働が続くと、従業員は十分な睡眠時間が確保できず、睡眠不足に陥いることがあります。

この点については、まず、その従業員の時間外労働・休日労働が自社の36協定で定められた上限時間の範囲内におさまっているかどうかを確認することが必要です。また、労働基準法上、以下の残業時間の上限規制が設けられていることにも留意する必要があります。

 

  • 時間外労働は年720時間まで
  • 時間外労働と休日労働をあわせた、1か月単位の上限として100時間未満まで、2~6か月の複数月平均が80時間まで

 

▶参考情報:36協定については、以下で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

36協定とは?違反したらどうなる?制度の内容と罰則について

 

また、会社は時間外労働と休日労働の合計が月80時間を超えた場合、そのことを本人に通知し、その従業員からの申出があれば、医師による面接指導を行うことが義務付けれらています(労働安全衛生規則52条の2第3項、労働安全衛生法66条の8第1項)。

そして、会社は、この面接指導による医師の意見を踏まえ、必要なときは労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置をとらなければなりません(労働安全衛生法66条の8第5項)。自社において、このような従業員の長時間労働防止のための仕組みが正しく機能しているかどうかを確認する必要があります。

 

▶参考情報:労働時間のルールについては以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。

労働時間とは?労働基準法など5つのルールをわかりやすく解説

 

(2)シフト管理に原因がある場合

病院や警備業、ホテル業など、夜勤が必要となる業種では、夜勤担当者は、本来は活動している日中に睡眠をとることになります。その結果、睡眠が浅くなりやすい、生体リズムが乱れるなどの問題があり、それが仕事中の眠気につながることがあります。夜勤が避けられないとしても、従業員に過度な負担がかからないよう、シフトの組み方に注意が必要です。

従業員が夜勤専属の場合は問題になることは多くありませんが、2交替制(日勤・夜勤)や3交替制(日勤・準夜勤・夜勤)の場合、夜勤明けに日勤のシフトを入れたり、日勤明けに夜勤のシフトを入れることが続くと、従業員にとって負担が大きく、居眠りや過労の原因となるおそれがあります。このような連続勤務自体が必ずしも違法になるわけではありませんが、極力避けるべきです。短期間に連続勤務が何度も続くなど、従業員の健康を害するリスクのあるシフトの組み方は、会社としての安全配慮義務違反となる可能性もあるため、注意が必要です。

 

▶参考情報:安全配慮義務違反については以下もご参照ください。

安全配慮義務違反とは?会社が訴えられる4つのケースと対応方法

 

そのほかにも、交替制勤務の眠気防止については、以下の点も重要です。

  • 眠気防止の観点から、夜勤時に勤務場所の照明を高照度とする
  • 夜勤時に適切に仮眠ができるようにする
  • 夜勤回数をなるべく少なくする
  • 交替の1周期が長すぎないようにする
  • 労働衛生教育として、日中の睡眠の質の確保についての教育を行う

 

なお、深夜業を含む業務に常時従事する労働者に対しては、労働安全衛生規則45条に基づき「特定業務従事者の健康診断」を実施することが義務付けられています。交替制勤務の場合はこれに該当します。交替制勤務に配置する前に健康診断を行って、交替制勤務への配置の可否を判断したうえで、交替制勤務に従事している間は半年に一度の健康診断を実施することが必要です。

 

4,注意されても仕事中寝る人については記録や証拠を残すことが大切

居眠りの原因が、夜更かしや深酒、副業による疲労など本人の行動にある場合は、原因となるそれらの行動をやめ、仕事中に居眠りをしないように注意・指導を行う必要があります。

居眠りを理由に従業員を解雇した事案では、あとで不当解雇であるとしてその従業員から訴訟を起こされ、その際に、会社側から居眠りについての証拠を十分に提示できず、敗訴している例が少なくありません。そのため、居眠りについて注意・指導をするときは、それについて記録を残すことも意識しておくべきです。例えば、仕事中の居眠りを現認したときは、本人に以下のようなメールを送ることでそれを指摘しつつ、記録に残すことが考えられます。

 

▶参考例:仕事中の居眠りを指導するメール例

「本日午後●時●分、あなたが居眠りをしているのを現認しました。居眠りの時間は休憩時間として処理しますので、居眠りを終えて就業を開始する前にこのメールに返信してください。」

「あなたの居眠りについて何度も注意をしています。居眠りは就業規則で定められた職務専念義務に違反する行為であり、改善してください。居眠りの原因と改善の方法について考えて本日中にメールで報告してください」

 

また、仕事中の居眠りが問題になる社員は、居眠り以外にも問題を抱えていることが多いです。勤務態度や勤怠に問題があるときは、業務日報を活用した指導が必要です。

 

▶参考情報:具体的な指導方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

問題社員を指導する方法をわかりやすく解説

 

5,上司に繰り返し注意されたにもかかわらず居眠りが治らない社員への対応

上司に繰り返し注意されたにもかかわらず居眠りが治らない社員への対応

居眠りの原因が、夜更かしや深酒、副業による疲労など本人の行動にある場合、繰り返し注意をしても治らないときは、懲戒処分の実施も検討する必要があります。

以下で、手順について解説します。

 

(1)就業規則違反として懲戒処分を行う

多くの会社で、就業規則に、勤務中は職務に専念することを義務付ける規定が置かれています。このような義務は職務専念義務と呼ばれます。仕事中の居眠りは、職務専念義務違反として就業規則違反になることが通常です。

また、ドライバー職であれば居眠り運転禁止の規定を就業規則に置いていることが多く、危険作業を伴う職種では、眠気がある状態での就業を禁止する規定を就業規則に置いていることが多いでしょう。

上司に繰り返し注意されたにもかかわらず、仕事中の居眠りが繰り返される場合は、これらの点に関する就業規則違反について、従業員に懲戒処分を科すことを検討する必要があります。

 

(2)最初の懲戒処分は、戒告や譴責が適切

どのような懲戒処分を行うべきかは、自社の就業規則を確認する必要があります。就業規則で定められている懲戒処分の種類は会社によって様々ですが、一般的には、軽い順から、戒告・譴責・訓告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。ただし、就業規則に定められた処分であればどれを選択してもよいわけではなく、事案の内容と比較して重すぎる懲戒処分は無効とされます(労働契約法15条)。

居眠りの場合、最初の懲戒処分は、戒告・譴責・訓告といった比較的軽い懲戒処分が適当であると考えられます。最初から、これ以上の重い処分を選択すると、処分の効力が訴訟等で争われたときに、処分が重すぎるとして無効と判断される危険があります。

戒告・譴責・訓告は、いずれも従業員を文書で指導する処分のことをいいます。他の処分のように従業員に経済的な制裁を加えるものではありません。多くの会社で最も軽い懲戒処分として就業規則に定められています。会社によって戒告・譴責・訓告のうちいずれかの名称が使用されることが多く、その意味に大きな違いはありません。新入社員や役職についていない社員の居眠りについては、まずは、戒告・譴責・訓告といった懲戒処分で対応すべきでしょう。

 

 

(3)懲戒処分を経ても改善されない場合

懲戒処分を経ても改善されない場合は、徐々に懲戒処分を重くしていくことになります。また、本人の意思による退職を求める退職勧奨も検討すべきでしょう。

 

▶参考情報:懲戒処分や退職勧奨については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

懲戒処分とは?種類や選択基準・進め方などを詳しく解説

退職勧奨(退職勧告)とは?適法な進め方や言い方・注意点を弁護士が解説

 

6,仕事中の居眠りを理由とする減給はできる?

次に、仕事中の居眠りを理由とする減給について解説します。

ここでは、居眠りに対する懲戒処分としての減給処分と、居眠り時間分の賃金の控除の2点に分けて説明します。

 

(1)居眠りに対する懲戒処分としての減給

居眠りについて、戒告・譴責・訓告といった懲戒処分をうけても、まだ問題が繰り返される場合は、より重い懲戒処分として減給処分を行うことが考えられます。また、部下を指導すべき立場にある役職者の仕事中の居眠りについては、最初から、戒告・譴責・訓告より重い処分である減給処分を行うことも考えられます。

減給処分は、居眠りなどの従業員の問題行動に対する制裁として、従業員の給与を減額する懲戒処分です。減給処分については、減額できる金額に法律上の上限が定められており、1回の問題行動に対し1日分の平均賃金額の半額が限度額となっています(労働基準法91条)。

 

▶参考情報:減給処分については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。

減給とは?法律上の限度額は?労働基準法上の計算方法などを解説

 

(2)居眠り時間分の賃金控除

労働者が所定労働時間や所定労働日の一部を働かなかった場合、使用者はその分の賃金を支払わないことができます(ノーワーク・ノーペイの原則)。仕事中に居眠りをしている時間は労務の提供がなされていないと言えるため、居眠りをした時間分の賃金の控除は可能です。

ただし、控除できるのはあくまでも居眠りをしていた時間のみに限られるため、居眠りしていた時間を特定することが必要です。居眠りをしている時間をきちんと把握しないまま賃金を控除してしまうと、後から従業員に訴えられた場合に、賃金未払いとして会社側が敗訴してしまうリスクがあります。

 

7,仕事中の居眠りを理由とする解雇はできる?

仕事中に居眠りを繰り返し、居眠りを指摘されても否定したり、上司に反発したりするなどして、改善の見込みがない場合、仕事中の居眠りを理由とする解雇も可能です。

ただし、解雇する前に、従業員が頻繁に居眠りを繰り返していた事実と、それに対する会社の指導の記録を残しておくことが必要です。また、解雇については、後日、不当解雇であるとして訴訟を起こされる危険があり、会社が敗訴すると、多額の支払いを命じられるため、必ず弁護士に事前に相談したうえですすめることが必要です。

 

▶参考情報:解雇方法や注意点については、以下の記事を参考にしてください。

問題社員の円満な解雇方法を弁護士が解説【正社員、パート社員版】

普通解雇とは?わかりやすく徹底解説

 

以下で、居眠りを理由とする解雇が認められた事例と、認められなかった事例についてそれぞれご紹介します。

 

(1)解雇が有効とされた事例

 

甲社事件(東京地方裁判所立川支部判決平成30年3月28日)

●事案の概要

日頃から会社の指示に従わず、禁止命令が出ているにもかかわらずボイスレコーダーで業務中の会話内容を録音する、納期直前に作業を放棄して報告なしで帰宅する、就業時間中によく居眠りをしているといった問題行動を理由に従業員を解雇したところ、従業員が不当解雇であるとして訴訟を起こした事案です。

 

●裁判所の判断

裁判所は、居眠りについて、上司が従業員に対し、なぜよく寝てしまうのかの原因改善方法を自分なりに考えて回答するよう指示するメールを送信し、これに対して、従業員が「原因:不明です。」「対策:早めに寝る。8/27(水)に病院に行きます。以上」と記載したメールを返信していたことを認定したうえで、「正当性のない居眠りを繰り返し、労務提供義務を怠っていた疑いが濃いといわざるを得ない」として、他の解雇事由もあわせて解雇有効であると判断しています。

ただし、この事案は居眠り以外の他の解雇事由が大きかった事案であることに注意する必要があります。

 

(2)解雇が無効とされた事例

 

1,東京地方裁判所判決平成27年3月24日

●事案の概要

能力不足や経歴詐称、勤務中の居眠り等を理由に特許事務所が弁理士資格のない職員を解雇した事案です。事務所側は、従業員の居眠りについて、毎日のように1日に4回から6回くらい、1回について10分から30分の間、居眠りをしていたと主張していました。

 

●裁判所の判断

裁判所は、勤務中の居眠りについては、二度ほど居眠りを所長に指摘された限度では従業員側も自認するところであるものの、事務所側が主張する居眠りの頻度は多分に事務所側の推測を交えたものであり、主張を裏付ける的確な証拠がないと指摘しました。そのうえで、居眠りが原因で業務の遂行に具体的に支障を来した様子はうかがえないとして、解雇は無効であると判断しました。

 

2,大阪地方裁判所判決令和2年3月27日(太平洋ディエムサービス事件)

●事案の概要

個人情報に関する電子データの管理等を事業とする会社が、業務の懈怠等を理由に従業員を解雇した事案です。会社は解雇理由の1つとして、この従業員が睡眠時無呼吸症候群の影響で勤務時間中に頻繁に居眠りをし、1時間近く眠っている日も少なくなかったと主張しました。

 

●裁判所の判断

裁判所は、医師の診断書により従業員が睡眠時無呼吸症候群に罹患していたことは認められるものの、居眠りが会社の主張するような回数、時間に及ぶものであり、業務に堪えられない程度に至っていると認めるだけの証拠はないとして、解雇事由にならないと判断しました。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

このように、頻繁な居眠りを理由とする解雇については、居眠りの頻度について会社側が十分な証拠を提出できずに敗訴している例が数多くみられます。仮に複数回の居眠りを従業員が認めているなどの事情があったとしても、ときどき居眠りがある程度では解雇事由として認められません。

解雇が有効と認められるためには、頻繁に居眠りをして業務に支障が生じていた、あるいは改善の見込みがなかったというところまで会社が立証しなければならないことに注意してください。居眠りについてそのような立証は簡単ではなく、居眠りだけを理由に解雇することはなかなか認められないと考えるべきです。そのため、仕事中の居眠りが問題になる従業員について、注意・指導や懲戒処分を経ても改善がなく、会社として雇用を継続することが難しい場合は、できる限り解雇ではなく、本人の意思で退職させる退職勧奨によって解決することが適切です。

 

8,居眠りをする社員の対応について弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

咲くやこの花法律事務所では、仕事中の頻繁な居眠りが問題になる社員をはじめ、問題社員の対応に関するご相談を事業者側の立場でお受けして、数多く解決してきました。以下では、咲くやこの花法律事務所の事業者向けサポート内容をご紹介します。

 

(1)問題社員対応に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、問題社員に対する対応に悩む事業者向けに、以下のご相談をお受けし、問題解決のための専門的かつ具体的なサポートを提供しています。お困りの方は、問題社員対応に強い弁護士がそろう咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

  • 問題社員の対応に関するご相談
  • 問題社員に対する懲戒処分に関するご相談
  • 問題社員の解雇・退職勧奨に関するご相談など

 

●咲くやこの花法律事務所の弁護士への相談費用

30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)

 

▶参考情報:問題社員対応に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績

問題社員対応に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績のうちいくつかを以下でご紹介しています。あわせてご参照ください。

試用期間満了後に本採用せずに解雇した従業員から復職を求める労働審判を起こされたが退職による解決をした事例

退職勧奨を一度断った能力不足の看護師に対して弁護士が支援して指導を継続し退職合意に至った事例

遅刻を繰り返し、業務の指示に従わない問題社員を弁護士の退職勧奨により退職させた成功事例

 

(2)顧問弁護士サービス

咲くやこの花法律事務所では、事業者向けに人事労務全般をサポートする顧問弁護士サービスを提供しています。

問題社員対応の取り組みは、まずは日々の指導や就業規則の整備が重要です。顧問弁護士がいれば、問題社員に対する具体的な指導方法、対応方法についてのご相談、その他労務管理に関する日々のご相談や、労務トラブルが発生した場合の対応など、日頃から幅広いサポートを受けることが可能です。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下で詳しく説明していますので、ご参照ください。

 

●咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスの費用例

スタンダードプラン:月額5万円+税

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。

【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら

大阪で実績豊富な顧問弁護士サービス(法律顧問の顧問契約・顧問料)

 

9,まとめ

この記事では、居眠りの原因や、仕事中に居眠りをする従業員への対応についてご説明しました。居眠りの原因は人によって様々で、生活習慣など本人の行動によるものもあれば、病気や労働環境が原因となる場合もあるため、まずは原因を特定し、それに応じて適切な対応を取ることが大切です。

 

(1)病気が原因の場合

  • 睡眠時無呼吸症候群
  • ナルコレプシー・特発性過眠症
  • うつ病等の精神疾患

 

原因として上記のような病気が疑われる場合は、医師の診察を受けさせる等の対応が必要です。医師の診断により病気が原因であることが判明した場合は、治療を受けさせつつ、症状の具合や治療見込み等を考慮した上で、必要であれば配置転換や休職を検討することになります。

 

(2)会社の労働環境に原因がある場合

長時間労働が原因の場合、まずは時間外労働時間や休日労働時間が36協定や労働基準法上の上限範囲内におさまっているかを確認したうえで、必要に応じて医師による面接指導の実施や、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少といった措置をとらなければいけません。

また、交替制勤務の場合は、夜勤明けの日勤など、従業員の負担が大きいシフト管理が居眠りの原因となる場合もあるため、従業員の健康を害するリスクのあるシフトを組むことを極力避けるように配慮する必要があります。

 

(3)本人の行動に原因がある場合

夜更かしや深酒、副業など本人の行動に原因がある場合は、原因となる行動をやめ、仕事中に居眠りをしないよう注意・指導する必要があります。またメールを送って注意するなど、居眠りの証拠や記録が残るような方法で対応することが重要です。

繰り返し注意しても改善されない場合は、懲戒解雇や解雇を検討することになります。最初から重い懲戒処分をすると無効と判断される可能性があるため、まずは戒告や譴責などの軽い処分を行い、それでも改善されない場合は懲戒処分を徐々に重くしていくことになります。

懲戒処分を経てもなお改善されない場合、解雇も可能ではありますが、後に訴訟となった場合に、頻繁に居眠りが生じており、改善の見込みがなかったというところまで会社側が立証しなければならないこともあり、実際に解雇が認められるケースは少ないのが実情です。

自社のみで対応してしまうと、訴訟トラブルに発展した場合に敗訴してしまうリスクが高いため、居眠りを繰り返す問題社員への懲戒処分や解雇を検討する際は、必ず事前に弁護士に相談することが必要です。咲くやこの花法律事務所でも、問題社員への対応について専門的なサポートを提供しています。居眠りを繰り返す問題社員への対応にお困りの方はぜひ一度ご相談ください。

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2024年10月8日

 

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    大阪弁護士会/東京大学法学部卒
    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
    池内 康裕 弁護士
    池内 康裕(いけうち やすひろ)
    大阪弁護士会/大阪府立大学総合科学部
    片山 琢也 弁護士
    片山 琢也(かたやま たくや)
    大阪弁護士会/京都大学法学部
    堀野 健一 弁護士
    堀野 健一(ほりの けんいち)
    大阪弁護士会/大阪大学
    所属弁護士のご紹介

    書籍出版情報


    労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式 作成ハンドブック

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2023年11月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:1280ページ
    価格:9,680円


    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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