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就業規則違反を発見した場合の企業の対応6通りを解説

就業規則違反を発見した場合の企業の対応6通りを解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

従業員の就業規則違反を発見した場合に会社はどのような対応をするべきなのでしょうか?

就業規則違反とは、会社の就業規則に違反する行為です。機密情報や顧客情報の持ち出し、正当な理由のない欠勤や遅刻、会社のルールに違反した副業、取引先からの不正なリベートの受領、業務命令に対する違反、転勤の拒否、セクハラやパワハラなどのハラスメント行為などが就業規則違反の典型例です。これらの就業規則違反については、会社は懲戒処分などの制裁を科すことが可能です。

しかし、実は就業規則違反への対応を誤って、会社が従業員から訴えられて、敗訴するケースが少なくありません。

 

事例1:
平成30年12月25日大阪地方裁判所判決

ビルの管理や清掃を事業とする会社が就業規則違反を理由に従業員4名を解雇したが、不当解雇として、4名合計で約3000万円の支払を命じられた事例

 

事例2:
平成30年7月2日大阪高等裁判所判決

バス会社が就業規則違反を理由に運転手を出勤停止と始末書提出の懲戒処分にしたが、不当な懲戒であると判断され、会社が出勤停止中の賃金の支払いを命じられた事例

 

事例3:
平成25年3月5日東京地方裁判所判決

病院が事務局長を就業規則違反を理由に解雇したが、不当解雇であると判断され、約850万円の支払いを命じられた事件

 

このように弁護士に相談せずに自己流で就業規則違反に対応しようとすると、対応を誤り、会社にとって重大な事態を招くこともあります。

今回は、就業規則違反を発見した場合に会社側がとるべき正しい対応についてご説明します。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」
就業規則に違反した従業員がいるときも、きちんと法律のルールを守って対応することが重要です。始末書提出や、懲戒処分、減給、あるいは解雇を検討する場合はそれぞれ守るべきルールがあります。

ルールを守らなければ、パワハラになってしまったり、不当な処分として従業員から訴えられることになります。自己流で対応して取り返しがつかない事態になる前に、弁護士にご相談いただくことが重要です。

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業務に支障を生じさせるようになった従業員について、弁護士が介入して規律をただし、退職をしてもらった事例

遅刻を繰り返し、業務の指示に従わない問題社員を弁護士の退職勧奨により退職させた事例

 

▼【関連動画】西川弁護士が「従業員の就業規則違反に対する企業の対応6通りを弁護士が解説」と「就業規則違反があった従業員の懲戒処分・解雇・退職勧奨を弁護士が解説」を詳しく解説中!

 

 

 

▼【関連情報】就業規則に関わる情報は、こちらも合わせて確認してください。

就業規則とは?義務や作成方法・注意点などを弁護士が解説

就業規則がない場合どうなる?違法になる?リスクや対処法を解説

 

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1,就業規則違反とは?

就業規則は会社の就業ルールを定める規則です。

この就業規則には、「服務規律」や「秘密保持義務」、「ハラスメントの禁止」など従業員が就業にあたり守るべき規則が定められています。あるいは、「懲戒事由」という形でルールが定められていることもあります。

これらのルールに違反するのが「就業規則違反」です。

以下のようなものは通常は就業規則違反に該当します。

 

 

2,就業規則違反があったときの対応6通り

では、就業規則違反があった場合にどのように対応するべきなのでしょうか?

以下のように6種類の対応が考えられます。

 

就業規則違反があったときの対応一覧

  • 別室に呼び出して口頭で問題点を指摘して、本人の反省を促すという程度にとどめる
  • 始末書の提出を求める
  • 懲戒処分を行う
  • 減給処分を行う
  • 退職を求める(退職勧奨)
  • 解雇する

 

大切なことは、就業規則違反の重大性の程度に応じて、上記の対応のうち適切なものを選択する必要があるという点です。

軽い就業規則違反にもかかわらず、重い処分を科すことは、違法な処分となり、万が一従業員から処分が不当であるとして訴訟を起こされたときは敗訴することになります。

また、「始末書提出」、「懲戒処分」、「減給処分」、「退職勧奨」、「解雇」については、それぞれ法律上のルールがありますので、ルールを守って行う必要があります。

以下では、「始末書提出」、「懲戒処分」、「減給処分」、「退職勧奨」、「解雇」のそれぞれの場面についての重要な注意点をご説明したいと思います。

 

3,違反した従業員に始末書の提出を求める

就業規則違反の程度がごく軽微なものである場合は、別室に呼び出して口頭で問題点を指摘し、本人の反省を促すという程度で済ませたほうがよいことも多いでしょう。

ただし、問題を繰り返しているケースや問題の程度が大きく他の従業員にも影響が出ている場合は、始末書の提出を求めることが必要です。

始末書の提出を求める場合は以下の点に注意が必要です。

 

(1)懲戒処分として始末書提出を求める場合は懲戒事由の確認が必要

始末書の提出を求める場合は、懲戒処分として始末書の提出を求めるのか、それとも懲戒処分ではないのかを明確にしておく必要があります。

もし、懲戒処分として始末書の提出を求めるのであれば、就業規則に記載されている懲戒事由に該当するのかどうかについて慎重な検討が必要です。

判例上、就業規則に記載されている懲戒事由にあたらないのに懲戒処分をすることは違法であるとされているためです。

懲戒事由については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。

 

 

一方、懲戒処分とは無関係に始末書の提出を求めることは可能ですが、その場合は、「任意にこれに応じない従業員に対しては、もはや業務命令というかたちで提出を強要することや、不提出を理由に更に不利益な取り扱いはできないといわなければならない。」とした判例があることに注意する必要があります(大阪地方堺支部昭和53年1月11日決定。丸十東鋼運輸倉庫事件)。

つまり、始末書提出が懲戒処分ではない場合は、提出を拒まれればそれ以上会社としては何もできないということになります。

なお、従業員が始末書の提出を拒否する場合の対応については詳しくは以下をご参照ください。

 

 

(2)始末書の文例やテンプレートを渡すべきではない

始末書は、本人に就業規則違反を謝罪させ、反省を促すことがその目的です。

そのため、文例やテンプレートを会社側で作ってそのとおり書くように指示したり、あるいは会社側で作った文書に本人にサインを求めるといった方法での始末書の提出はあまり意味がありません。

本人に面談して就業規則違反の点を指摘して謝罪と反省を求め、始末書は本人に自分で文章を考えて出させることが適切です。

このように始末書を本人にかかせることにより、本人が指摘された問題点をどの程度理解しているか、どの程度反省しているかを確認することができますし、記録としても残すことができます。

そのうえで、会社側としても、整理した形で就業規則違反の内容について記録を残しておく必要がある場合は、始末書とは別に会社側で文書を作りサインさせることにより、正確な記録を残すことが必要です。

なお、問題社員の指導方法については以下で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

4,就業規則に違反した従業員に懲戒処分を行う

就業規則に違反した従業員に懲戒処分を行う

就業規則違反の程度が重いときは、本人に対し懲戒処分を行うことが必要です。

 

(1)懲戒処分とは?

懲戒処分とは、企業が従業員の問題行動に正式に罰を与える行為です。

懲戒処分を行う目的は、主に以下の2つです。

 

  • 目的1:就業規則に違反した本人に制裁を加えることで、反省を促し、再発を防ぐ目的
  • 目的2:従業員全員に対し、就業規則違反に対して懲戒処分を科したことを示し、企業秩序を維持する目的

 

重大な就業規則違反があるにもかかわらず、懲戒処分を科さなければ、就業規則が形だけのものになってしまい、規律意識がルーズな会社になっていきます。

規律がルーズになると問題行動が横行し、業績もどんどん悪くなるケースが多いため、就業規則違反に対して、適切な時期に適切な懲戒処分を科して対応しておくことは非常に重要です。

 

(2)懲戒処分をめぐるトラブルに注意が必要

就業規則違反に対して懲戒処分を行うときは法律上のルールを守って行う必要があります。

労働契約法でも以下のとおり、合理的な理由のない懲戒処分や不当な懲戒処分は無効とすることが定められています。

 

▶参考情報:労働契約法について

(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法の条文はこちら

 

実際に、会社の懲戒処分が無効だとして従業員から訴えられ、会社側が敗訴しているケースも珍しくありません。

 

▶参考情報:厚生労働省ウェブサイトより

「懲戒」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性

 

(3)懲戒処分をする際の注意点3つ

懲戒処分について後日従業員が訴えられ敗訴するといった事態を避けるために、以下の3点に注意して下さい。

 

1,就業規則上の根拠が必要

判例上、懲戒処分は就業規則で定める懲戒事由に該当する場合にのみ行うことができます。

単に就業規則に違反しているというだけでなく、それが就業規則上、懲戒事由として定められていることを必ず事前に確認する必要があります。

 

2,1回の就業規則違反についての懲戒処分は1回のみ

同じ就業規則違反行為について2回以上懲戒処分をすることは違法になります。

 

3,重すぎる懲戒処分は違法になる

懲戒処分の種類は各社の就業規則により定められています。

一般的には軽い順番から、「戒告」または「譴責」・「訓戒」→「減給」→「出勤停止」→「降格」→「諭旨解雇」→「懲戒解雇」となっていることが多いです。

就業規則違反の程度に応じた適切な懲戒処分を選択する必要があり、例えば軽微な就業規則違反に対して重い懲戒処分を科すことは違法になります。

懲戒処分の種類や選択の基準については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

また、戒告・譴責・訓告、減給、降格処分、出勤停止処分、諭旨解雇、懲戒解雇については以下の記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。

 

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」
どの程度の就業規則違反にどの懲戒処分を科すかの判断は、違法な懲戒処分とならないためにも非常に重要です。

この判断は過去の判例も踏まえて行わなければならず、極めて難しい判断になりますので弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

参考情報として、企業が弁護士に懲戒処分について相談すべき理由についてを以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。

 

▶参考情報:企業が弁護士に懲戒処分について相談すべき理由3つを解説

 

5,就業規則に違反した従業員の給与を減給する

就業規則に違反した従業員の給与を減給する

就業規則に違反した従業員の給与を減給する場合も、法律上のルールに注意する必要があります。

 

(1)懲戒処分としての減給処分には上限がある

懲戒処分としての減給処分については労働基準法で上限が決められています(労働基準法第91条)。

具体的には1回の就業規則違反に対する減給処分は、その従業員の1日分の給与の半額が上限です。

月給30万円の従業員なら5000円程度が限度ということになります。

このように非常に厳しい制限があることをに注意してください。

 

▶参考情報:労働基準法について

(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

労働基準法の条文はこちら

 

(2)懲戒処分以外の理由で減給することができる場合は限られている

減給は懲戒処分以外の理由でも行うことは可能です。

そして、懲戒処分以外の理由で行う減給については、前述の労働基準法の上限額は適用されません。

ただし、懲戒処分以外の理由で減給することができるのは、「従業員との合意により減給する場合」や「管理職を降格させたことにより減給する場合」などに限られていることに注意が必要です。

減給に関する法律上のルールの詳細は以下の記事で解説しています。違法な減給にならないように必ず確認してから行うようにしてください。

 

 

6,違反した従業員に退職を求める

就業規則違反の程度によっては、その従業員の雇用を継続することが適切ではなくなるというケースもあります。

そのような場合は、従業員に退職を促す退職勧奨を実施することが選択肢の1つになります。

「退職勧奨」とは会社による一方的な意思表示である解雇とは異なり、会社から説得して従業員に自主退職を促すことをいいます。

ただし、退職勧奨については、違法な退職強要であるとか、パワハラであるとして従業員から訴訟を起こされるケースが少なくありません。

違法な退職勧奨と言われないためには、以下の点を守っていただくことが必要です。

 

  • 注意点1:「退職届を出さなかったら解雇する」という発言は原則として避ける。
  • 注意点2:退職を目的とした配置転換や仕事のとりあげはしてはならない。
  • 注意点3:長時間多数回にわたる退職勧奨をしない。

 

これらの注意点や退職勧奨の具体的な進め方については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

また、退職勧奨で円満に解決するための具体的な手順がわかるおすすめ書籍(著者:弁護士西川暢春)も以下でご紹介しておきますので、こちらも参考にご覧ください。書籍の内容やあらすじ、目次紹介、読者の声、Amazonや楽天ブックスでの購入方法などをご案内しています。

 

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」
咲くやこの花法律事務所では退職勧奨の進め方についてのご相談も承っています。退職勧奨に関する咲くやこの花法律事務所の解決事例についても以下でご紹介していますのであわせてご参照ください。

 

業務に支障を生じさせるようになった従業員について、弁護士が介入して規律をただし、退職をしてもらった事例

遅刻を繰り返し、業務の指示に従わない問題社員を弁護士の退職勧奨により退職させた事例

 

7,就業規則に違反した従業員を懲戒解雇する

就業規則に違反した従業員を懲戒解雇する

就業規則違反の程度が極めて重大な場合は、他の従業員に対して規律を示す意味でも、懲戒解雇処分にすることが妥当です。

ただし、懲戒解雇についても、後で従業員から訴訟を起こされて不当解雇と判断されると、多額の金銭の支払いを命じられることに注意が必要です。

以下の点を必ず確認しておきましょう。

 

(1)就業規則の懲戒解雇事由に該当することが必要

懲戒解雇は就業規則で定める懲戒解雇事由に該当する場合にのみ行うことができますので、必ず事前に就業規則を確認する必要があります。

 

(2)過去に懲戒処分した就業規則違反を懲戒解雇の理由としてはならない

1回の就業規則違反についての懲戒処分は1回のみ行うことができます。

そのため、過去に懲戒処分をした就業規則違反について懲戒解雇の理由とすることは違法になります。

 

(3)懲戒解雇処分が重すぎないかを検討する

就業規則違反の程度と比較して懲戒解雇処分が重すぎる場合は、従業員から訴訟を起こされれば不当解雇と判断されてしまいます。

そのため、懲戒解雇処分とすることが重すぎないかどうかについて、過去の判例に照らして、慎重に検討することが必要です。

懲戒解雇の具体的な進め方等については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

▶参考情報:懲戒解雇とは?6つのケース例とリスクや進め方を解説。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」
懲戒解雇は従業員へのダメージが大きいため、特にトラブルになりやすく、以下のように解雇後に訴えられて企業側が敗訴するケースが後を絶ちません。

 

事例1:
日本ヒューレット・パッカード事件(平成23年1月26日東京高等裁判所判決)

懲戒解雇が不当解雇と判断され、「約1600万円」の支払い命令

 

事例2:
りそな銀行事件(平成18年1月31日東京地方裁判所判決)

懲戒解雇処分が不当解雇と判断され、「約1400万円」の支払い命令

 

懲戒解雇を行う場面は企業にとって大きなリスクがある場面であり、必ず弁護士にご相談ください。解雇に関する咲くやこの花法律事務所の解決事例は以下をご参照ください。

 

問題のある従業員を解雇したところ不当解雇の主張があったが、交渉で金銭支払いなしで退職による解決をした事例

元従業員から不当解雇として労働審判を起こされ最低限の支払いで解決をした事例

 

8,時効はあるのか?

就業規則違反には時効はありません。ただし、あまりにも前の就業規則違反を理由に処分することは、不当な懲戒処分とされていることに注意する必要があります。

 

▶参考例:

5年前に発覚していた懲戒解雇事由を理由に懲戒解雇した事例では裁判所は以下のように判断して、懲戒解雇を無効としています(東京地方裁判所平成22年9月10日判決)。

「①労働者の企業秩序違反行為が存在し,懲戒事由該当性が肯定される場合であっても,長期間の経過によって企業秩序が回復し,その維持のために懲戒処分を行う必要性が失われた場合,あるいは②合理的理由もなく著しく長期間を経過して懲戒権を行使したことにより,懲戒処分は行われないであろうとの労働者の期待を侵害し,その法的地位を著しく不安定にするような場合などには,例外的に当該懲戒解雇は,懲戒権の行使時期の選択を誤ったものとして社会通念上の相当性を欠き,懲戒権の濫用を構成するものと解するのが相当である」

 

上記の判例からもわかるように、就業規則違反に対して懲戒処分を科す場合は、すみやかに行うべきであり、何年もたってから懲戒処分をすることは不当な懲戒処分と判断される危険があります。

 

9,副業と就業規則違反

副業を就業規則違反として処分するケースもあります。

しかし、判例上、本業に支障を生じさせない程度の副業を理由とする懲戒処分は、仮に就業規則で副業が禁止されているとしても認められていないことに注意する必要があります。

これは従業員が企業の就業時間外の時間をどのように使うかは従業員の自由であり、特別な理由がない限り企業が副業を禁止する権限はないという考え方によるものです。

例えば、東京地方裁判所昭和57年11月19日決定は、「就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。」としています。

副業を理由とする懲戒解雇処分については、このような裁判例の考え方から、不当解雇であると判断されて企業が敗訴しているケースが多くなっています。

 

(1)副業を理由とする懲戒処分が有効とされるケース

副業を理由とする懲戒処分が判例上有効とされるのは、以下のように、本業に支障を生じさせたり、あるいは、企業との信頼関係を根本的に裏切るような副業である場合に限られています。

 

・企業内で部長職の要職にありながら競合する同業他社を経営した従業員に対する懲戒解雇を有効と判断したケース(ナショナルシューズ事件 東京地方裁判所平成2年3月23日判決)

 

・体調不良を訴えて休業中に会社から本給の6割相当の支給を受けていたにもかかわらずオートバイ店を自営したことを理由とする懲戒解雇を有効としたケース(ジャムコ立川工場事件 東京地方裁判所八王子支部平成17年3月16日判決)

 

副業、兼業が発覚した場合の解雇の注意点については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

10,退職後に就業規則違反が発覚した場合の対応

退職後に就業規則違反が発覚するケースもあります。

退職後に問題になりやすい就業規則違反としては例えば以下のものがあります。

 

  • 退職者による機密情報、顧客情報の持ち出し
  • 退職後の競業避止義務違反
  • 退職後に発覚した横領

 

このような就業規則違反が退職後に発覚した場合は、懲戒処分ではなく、損害賠償請求により対応することが通常です。

また、退職金を支給している場合で、退職後に懲戒解雇理由があることが判明したときは退職金の一部または全部を返還する旨の規程が退職金規程に入っているケースでは、退職金の返還を求めることになります。

退職者による機密情報、顧客情報の持ち出しへの対応や、あるいは横領発覚時の対応については、以下で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

また、退職後の競業避止義務に関する解説は以下をご参照ください。

 

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」
退職後に就業規則違反が発覚した場合に関する咲くやこの花法律事務所の解決事例は以下をご参照ください。

 

競業避止義務違反をした退職者から謝罪文の交付と損害賠償金の支払いをさせた成功事例

 

11,就業規則違反を放置するのは厳禁

企業によっては就業規則違反を放置して見て見ぬふりをしてしまっているというケースもあります。

特に違反者が成績がよい従業員であったり、古参の従業員であるなど一定の立場にあるケースでは、会社経営者や上司からも、就業規則違反をとがめづらいことがあります。

しかし、就業規則違反を放置することは、社内の規律意識をルーズにさせ、不正、不祥事が横行する原因、経営者や管理職の指示に従わない従業員が横行する原因になります。

就業規則違反を発見したときは、直ちにしかるべき対応をとらなければなりません。

 

12,【補足】会社側による就業規則違反がないように注意!

ここまで従業員側の就業規則違反について解説してきましたが、会社側による就業規則違反にも注意する必要があります。

例えば以下のような例があります。

 

  • 就業規則に残業代の支払について規定があるのに支払いがされていないケース
  • 就業規則に懲戒処分を科すときは、本人に対する弁明の機会(本人の言い分を聴く機会)を与えることが規定されているのに、弁明の機会を与えずに懲戒処分をしてしまうケース

 

また、会社側の就業規則違反について、裁判所で判断された事例として以下のようなものがあります。

 

事例1:
学校法人近畿大学事件(東京地方裁判所平成31年2月8日判決)

就業規則に原則として職員を毎年昇給させることが記載されているのに、年度の一部を育児休業した職員について昇給させない運用がされていた事例で、この扱いを違法と判断しました。

 

事例2:
北港観光バス事件(大阪地方裁判所平成25年1月18日判決)

就業規則に病気休職者には休職命令を出すことが規定されているのに、会社が休職命令を出さないまま従業員を休職扱いした事例で、この扱いを違法と判断しました。

 

事例3:
福岡地方裁判所平成30年9月14日判決

会社の賃金規程が実態とあわない内容になっていた事例で、会社の賃金支払内容が賃金規程に違反しているとされ、従業員に対し、賃金規程通りの賃金の支払いをすることを命じられました。

 

従業員に対する懲戒処分や、降格、賃金の変更などを行う際は、必ず就業規則の該当項目部分を確認し、就業規則違反がないようにすることが重要です。

また、以前は支給されていたが今は支給されていない手当が賃金規程に残っているなど、就業規則や賃金規程と実態のずれが出てきている場合は、それが会社側の就業規則違反となるケースがありますので、必ず就業規則を実態にあわせる変更をしておきましょう。

就業規則の変更については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧下さい。

 

 

13,就業規則違反に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による、社内の就業規則違反のサポート内容についてご説明したいと思います。

咲くやこの花法律事務所のサポート内容は以下の通りです。

 

(1)就業規則違反発覚時の対応のご相談

この記事でもご説明したように就業規則違反が発覚したときに絶対にしてはならないことは、「放置」、「黙認」です。

就業規則違反を発見したときにはすみやかに対応を検討し、実際に行動に移す必要があります。

ただ、懲戒処分や解雇については、十分な証拠と正しい手続きを踏まえて行わなければ、後日、裁判を起こされた場合に、不当な懲戒処分あるいは不当解雇として敗訴します。

特に不当解雇と判断された場合、企業側の金銭支払い額は中小企業でも1000万円以上となることが珍しくありません。

このようなリスクもあるため、就業規則違反発覚時の対応は、実際に労務裁判対応経験のある弁護士にご相談いただくことが必要です。

咲くやこの花法律事務所では、労働問題に強い弁護士が就業規則違反への対応に関する事前相談を随時承り、個別の事情に応じて適切な処分の内容や行うべき手続等について具体的にアドバイスさせていただいております。

自己流で対応し、対応を誤った後でご相談いただいてもリカバリーが難しいケースもあり、場合によってはいったん行った処分を撤回せざるを得ない事態になることもあります。就業規則違反者に対する処分をご検討中の企業の方は事前にご相談ください。

 

弁護士への相談料

●初回相談料:30分5000円+税

 

(2)懲戒処分や懲戒解雇についての手続のサポート、弁護士の同席

就業規則違反者に対する懲戒処分や懲戒解雇を検討する際は、まず、過去の判例などを踏まえて、懲戒処分や懲戒解雇が認められる場面かどうかを慎重に検討する必要があります。

証拠の収集や手続の確認が不十分なまま、懲戒処分や懲戒解雇を行うと、不当な懲戒処分あるいは不当解雇として敗訴します。特に不当解雇と判断された場合、企業側の金銭支払い額は中小企業でも1000万円以上となることが珍しくないため注意が必要です。

さらに、懲戒処分や懲戒解雇の言い渡しに際しては、従業員がその場で不満を述べたり反論をしてきたりすることがあります。

そして、言い渡しの場における会社側の不用意な言葉がトラブルの原因となることもあり得ます。

無用なトラブルを防止するためには、懲戒処分の言い渡しの場に専門家である弁護士も同席することが効果的です。

咲くやこの花法律事務所では、懲戒処分や懲戒解雇が認められる場面かどうかの事前の検討や必要な手続きの確認のためのご相談を承っています。

また、労務トラブルに強い弁護士が懲戒処分、懲戒解雇の言い渡しの場に同席し、会社側の立場で適切な応答をするなどして、会社の対応をサポートします。

懲戒処分の言い渡しの際に従業員の反発が予想される場合や懲戒処分の言い渡しに不安があるときは、ぜひ咲くやこの花法律事務所のサポートサービスをご利用ください。

 

弁護士費用例

●初回相談料:30分5000円+税
●弁護士の同席費用:10万円程度~

※別途、事案の内容に応じた着手金、報酬金が必要になることがあります。

 

(3)退職勧奨のサポート、弁護士の同席

就業規則違反をした従業員に対する退職勧奨も、トラブルになりやすい場面の1つです。

退職勧奨のときの言動に問題があるとして、パワハラであるとか退職強要であるなどと主張されて、従業員からの訴訟に発展するケースも少なくありません。

咲くやこの花法律事務所では、労務トラブルに強い弁護士が退職勧奨の場に同席し、会社の対応をサポートします。

退職勧奨の進め方に不安があるときは、咲くやこの花法律事務所のサポートサービスをご利用ください。

 

弁護士費用例

●初回相談料:30分5000円+税
●着手金:30万円+税程度~
●弁護士の同席費用:10万円程度
●報酬金:30万円+税程度~

 

(4)懲戒トラブル、解雇トラブルの際の団体交渉への同席や裁判対応

従業員に対して懲戒処分をした際、あるいは解雇した際に、従業員が懲戒処分や解雇が不当であると主張して、労働組合に加入して、団体交渉を求めてくるケースが増えています。

また、労働審判や裁判を起こしてくるケースも珍しくありません。

咲くやこの花法律事務所ではこのような場面でも、労務紛争について経験豊富な弁護士が、企業側の立場で団体交渉への同席、裁判対応を行い、解決まで責任をもってサポートします。

 

弁護士費用例

●初回相談料:30分5000円+税
●懲戒に関する裁判対応:着手金45万円+税程度~

 

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咲くやこの花法律事務所の就業規則違反に関するサポート内容は、「労働問題に強い弁護士」のこちらをご覧下さい。

また、今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年4月26日

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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
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