こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
会社で労働災害が発生してしまった場合に、従業員に対する損害賠償の額はどのように算定されるのでしょうか?
会社が間違った知識に基づいて賠償の提示をすると、話し合いで折り合いがつかずに裁判になってしまったり、あるいは、賠償額を高く見積もりすぎて過大な補償をする結果になるということになりがちです。
この記事を最後まで読んでいただくことで、労災にあった従業員に対する損害賠償の算定のルールや賠償請求の法的な根拠、労災との支給調整などについて理解していただき、正しい損害賠償の知識を身につけていただくことができます。
それでは見ていきましょう。
最初に労災の損害賠償をはじめとする労災(労働災害)に関する全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。
労災にあった従業員との交渉においては、正確な説明をすることが不可欠です。少しでも間違いがあると不信感につながり、感情的なもつれから裁判に発展しがちです。
労災についての損害賠償の交渉の場面では、事前に労災に強い弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安などは、以下の記事で解説していますので参考にご覧ください。
▶参考情報:労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安
また、咲くやこの花法律事務所の労災トラブルに関する解決実績をご紹介しておりますので、こちらもご参照ください。
▶【関連動画】西川弁護士が「会社で労災発生!損害賠償額の算定について」を詳しく解説中!
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,労災の損害賠償とは?
労災における損害賠償とは、従業員が、業務を原因とした事故により負傷し、または業務が原因で病気になり、あるいは死亡した場合に、会社が負担する損害賠償責任です。
労災について会社に安全配慮義務違反が認められる場合には、会社は、労災保険からの補償とは別に、損害賠償責任を負担することが通常です。
ただし、通勤中の事故による労災や、業務に関する労災であっても会社が予見できないようなものについては、会社の安全配慮義務違反が認められず、会社は賠償責任を負いません。
安全配慮義務違反については詳しくは以下をご参照ください。
2,賠償金額の算定が可能になる時期について
賠償金額の算定にあたっては、おおまかにいうと「被害者の損害の額」から「被害者が労災から受けた支給額」を差し引く必要があります。
そのため、損害の額が確定し、労災からの支給内容が決まった段階で賠償金額を提示することが適切です。
具体的には以下の通りです。
(1)死亡災害の場合
業務による死亡災害については、労災認定がされて、遺族補償年金、葬祭料の支給が決まった段階で賠償金額を算定することが可能になります。
(2)病気やけがの場合
治療を要する病気やケガの労災については、ひととおりの治療を受け、後遺障害が残る場合は、労災で後遺障害の認定を受けることになります。
労災では後遺障害を重い障害から順に1級から14級の等級に分けて認定しています。
後遺障害の等級が決まれば、労災からの支給される障害補償年金、障害補償一時金の金額が決まります。その段階をまって、損害額を計算し、賠償金額を提示することが原則となります。
労災における後遺障害については、以下の記事で等級認定や金額、具体的な手続きなどについて解説していますのでご参照ください。
ただし、治療期間中に、従業員が生活に困らないように、休業補償の会社負担分の支払等は治療期間中から行っておくべきです。
労災の休業補償の会社負担分について詳しくは以下の記事をご覧下さい。
3,賠償金額の算定方法
労災における賠償金額の算定は、おおまかにいうと、「従業員に発生した損害の額」から、「従業員の過失や持病なども原因になっている場合はそれに応じた減額(過失相殺あるいは素因減額)」をし、そこから「労災保険からの給付分などを差し引く(損益相殺)」ことによって計算されます。
▶参考:賠償金額の計算式
損害額 - 従業員の責任部分に応じた減額分(過失相殺あるいは素因減額)- 損益相殺 = 会社の賠償額
以下ではこれらの項目について順に説明して行きたいと思います。
(1)損害額については逸失利益や慰謝料が主な部分となる
賠償金額を算定するためには、まず、従業員の「損害額」を計算する必要があります。
この「損害額」については、「逸失利益」、「慰謝料」、「治療関係費」、「休業損害」、「介護費用」などが含まれます。
1,逸失利益
「逸失利益」は「労災による病気や怪我の後遺症により従業員がいままでどおり働けなくなった」ことにより今後発生する損害を賠償の対象とするものです。
逸失利益は、労災による病気や怪我についてひととおりの治療を終えても後遺症が残り、労災保険において後遺障害の等級が認定された場合に賠償の対象となります。
この逸失利益は原則として次の計算式で計算します。
▶参考:逸失利益の計算式
「基礎年収」×「労働能力喪失率」×「就労可能年数に対応するライプニッツ係数」
▶参考情報:年収600万円の30歳の従業員が労災により片耳の聴力を失い、9級の後遺障害が認定された場合
たとえば、年収600万円の30歳の従業員が労災により片耳の聴力を失い、9級の後遺障害が認定された場合、標準的な計算方法では、労働能力喪失率は35パーセント、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数は22.167となります。
その場合、後遺障害逸失利益は、下記の計算により、「4655万0700円」と計算されます。
→ 計算式:600万円 × 0.35 × 22.167 = 46,550,700円
このように、後遺障害逸失利益は、「基礎年収」「労働能力喪失率」「労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の3つの数字の掛け算になりますので、以下ではこの3つを順番にご説明していきます。
1−1,基礎年収について
基礎年収は、後遺障害逸失利益を計算するにあたっての基礎となる本人の年収額です。原則として労災事故の前の年の源泉徴収票の金額が基礎年収となります。
1−2,労働能力喪失率について
労働能力喪失率は後遺障害によって、従来の労働能力をどのくらい失ったかをパーセンテージで表現したものです。
後遺障害の等級に応じて、標準的な労働能力喪失率が何%という基準が以下のように決められています。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 | 後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
第1級 | 100% | 第8級 | 45% |
第2級 | 100% | 第9級 | 35% |
第3級 | 100% | 第10級 | 27% |
第4級 | 92% | 第11級 | 20% |
第5級 | 79% | 第12級 | 14% |
第6級 | 67% | 第13級 | 9% |
第7級 | 56% | 第14級 | 5% |
1−3,就労可能年数に対応するライプニッツ係数について
「就労可能年数」とは後遺障害により労働能力にダメージを受ける期間のことです。
通常は従業員の治療が終わった時(正確には症状固定と診断されたとき)の年齢から67歳までになるまでの間の年数をいいます。
ただし、この年数をそのまま逸失利益の計算に使うのではなく、「ライプニッツ係数」という係数を用います。
▶参考情報:ライプニッツ係数とは?
「ライプニッツ係数」というのは従業員が将来の減収分まで含めて一度にまとまった金額を受けとることを考慮して、その利益を差し引いた数字です。
ライプニッツ係数は従業員の治療が終わった時(症状固定と診断されたとき)の年齢を基準に以下の通りになっています。
(注)以下は2020年4月以降に発生した労災に適用されるライプニッツ係数です。法改正により係数が変更になることがありますので注意してください。
▶参考:ライプニッツ係数一覧表
前記の説明は、従業員に後遺障害が残った場合の説明です。
これに対し、従業員が労災事故で亡くなった死亡事案でも逸失利益(=従業員が生存していれば仕事により得られたはずの収入)が賠償の対象となります。死亡事故の場合は、労働能力喪失率は100%になりますが、本人が生存していれば生活費にあてられたと予想できる部分を差し引くことができます。これを生活費控除率といい、30%から40%程度が差し引かれることが通常です。
2,慰謝料
労災による怪我や病気の慰謝料は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料に分かれ、その合計額として計算されます。
●「入通院慰謝料」
= 通院期間中や入院期間中の苦痛に対する賠償
●「後遺障害慰謝料」
= 通院期間終了後も後遺障害が残る場合の、後遺症に対する賠償
また、従業員が労災事故で亡くなった場合は、死亡に対する死亡慰謝料を算定する必要があります。
労災事故の慰謝料については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。
3,治療関係費
以下のような治療関連費も損害賠償請求の対象となります。
3−1,入院雑費
入院中の着替えなど様々な費用については個別に費用を合計するのではなく、1日あたり1500円を基準に賠償の対象とすることが原則です。
3−2,通院のための交通費
通院のための交通費も損害賠償の対象になります。
3−3,入通院付添費
医師から入通院について近親者による付き添うように指示があり、実際に付き添った場合は、入院について1日6000円、通院について1日3000円を基準に賠償の対象とされることが原則となります。
ただし、医師に付添を指示されるケースは最近では多くありません。
4,休業損害
従業員の休業により会社から給与、賞与等を支給されなかった場合は、それによる損害が損害賠償の対象となります。
5,介護費用
労災による病気やけがのために、介護が必要な状態になったときは、将来の介護費用が損害賠償の対象となります。
以上のような項目を合計することにより、従業員の「損害額」を計算することが必要です。
(2)過失相殺、素因減額
業務により病気になり、あるいは負傷し、若しくは死亡したことについて、従業員にも過失がある場合は、その過失の程度に応じた損害賠償額の減額が行われます。
これを過失相殺といい、民法第722条がその根拠規定になります。
過失相殺の例:
平成22年5月25日東京地方裁判所判決
プレス工場における指切断事故について会社の安全配慮義務違反だけでなく、会社から禁止されていた作業方法で作業を行っていた従業員の過失も原因となっているとして、65%の過失相殺をした事例
また、業務による病気や死亡について、業務だけではなく、従業員がもともともっていた私傷病や習慣等が原因となっている場合は、その点を考慮した損害賠償額の減額が行われます。
これを素因減額といいます。
素因減額の例:
平成24年3月7日東京地方裁判所判決
脳梗塞の発症について、長時間労働を放置した会社の安全配慮義務違反だけでなく、従業員の喫煙、飲酒の習慣が原因となっているとして、3割の素因減額をした事例
この過失相殺や素因減額をどの程度の割合で行うかによって、賠償額が大きく変わってきます。
過去の類似事案についての裁判例などを基準に判断していくことが必要です。
(3)損益相殺
従業員が労災保険や公的年金から受けた支給があるときは、会社はその分を従業員に対する損害賠償額から差し引くことができます。
これを損益相殺といいます。
主に以下の点が問題になります。
1,労災保険からの支給
従業員が労災保険からの支給を受けることができる場合、会社は従業員に対する損害賠償額から労災保険からの支給分の一部を差し引くことが認められています。
労災保険からの支給のうち、損害賠償額から差し引くことが認められているものと、認められていないものは以下の通りです。
労災給付の内容 | 損害賠償額から差し引くことが 認められているもの |
損害賠償額から差し引くことが 認められていないもの |
治療中の給付 | 休業補償給付 傷病補償年金 |
休業特別支給金 傷病特別支給金、傷病特別年金 |
後遺障害が残った場合 | 障害補償年金 障害補償一時金 |
障害特別年金 障害特別一時金 障害特別支給金 |
介護を要する場合 | 介護補償給付 | |
死亡災害 | 遺族補償年金、遺族補償一時金 葬祭料 |
遺族特別年金、遺族特別一時金、 遺族特別支給金 |
労災からの給付の種類については、以下の記事をご参照ください。
前述した差し引くことが可能な給付についても、すでに支給された分と支給を受けることが確定した部分のみ差し引くことが認められており、未支給の将来分について差し引くことは認められていません。
ただし,障害補償年金や遺族補償年金の将来分については、支給が未確定であっても、労災保険法附則第64条により、会社は、前払一時金給付の最高限度額に相当する額の限度で損害賠償の支払を保留することができます。
保留期間中に労災からの支給がされた場合は、その支給額については会社は損害賠償責任を免れることができます。
2,厚生年金や国民年金、共済年金からの支給
障害が残った場合に支給される下記の障害年金のうち、すでに支給されたものについては、損害賠償額から差し引くことが認められています。
- 厚生年金から支給される障害厚生年金
- 国民年金から支給される障害基礎年金
障害厚生年金、障害基礎年金の支給要件や支給額については以下をご参照ください。
また、死亡災害の場合に支給される下記の遺族年金のうち、すでに支給されたものについても、損害賠償額から差し引くことが認められています。
- 厚生年金から支給される遺族厚生年金
- 国民年金から支給される遺族基礎年金
遺族厚生年金、遺族基礎年金の支給要件や支給額については以下をご参照ください。
3,健康保険の傷病手当金
従業員が休業中に健康保険の傷病手当金を受け取っている場合は、これを損害賠償額から差し引くことが認められています。
傷病手当金について以下をご参照ください。
4,賠償金額の相場と判例紹介
労災の賠償金額の計算方法については前述の通りで、特に逸失利益の部分は、年収や年齢によって大きく変わります。
ただ、損害額のだいたいの相場傾向としては以下のように言えます。
- 後遺障害14級:300万円程度
- 後遺障害12級:800万円~1000万円程度
- 後遺障害10級:1500万円~2000万円程度
ここから、さらに過失相殺や損益相殺をしたうえで賠償額を決めることになりますが、過失相殺や損益相殺の額は、個別事案によりばらばらなので、相場を示すことは困難です。
(1)判例での損害賠償額
参考までに、最近の判例での損害賠償額の例をみると以下のようなものがあります。
1,植物管理工事中の転落による四肢体幹機能障害(東京地方裁判所平成28年9月12日判決)
後遺障害1級認定、従業員過失0%として、賠償額約9000万円
2,過労死の事例(新潟地方裁判所平成24年12月6日判決 米八東日本事件)
過労死で労災認定、従業員過失3割として、賠償額約4000万円
3,過労による心臓機能障害、精神障害(神戸地方裁判所平成23年4月8日判決 新明和工業事件)
後遺障害9級認定、素因減額2割として、賠償額約2400万円
4,プレス工場における両手指切断事故(東京地方裁判所平成22年5月25日判決 程田製作所事件)
後遺障害6級、従業員過失6割5分として、賠償額約600万円
判例の中には、労災認定されている事案についても、事故の存在を認めなかったり、あるいは会社の安全配慮義務違反を否定するなどして、会社に対する賠償請求を認めなかった事例も相当数存在します。
5,労災の損害賠償請求の請求根拠
労災の損害賠償請求の際に請求根拠として最もよく主張されるのが、「安全配慮義務違反」です。
そのほかにも、「使用者責任」、「工作物責任」などが主張されるケースがあります。
(1)安全配慮義務違反を理由とする請求
安全配慮義務とは、企業が労働者に対して負担する「労働者が安全と健康を確保しつつ就業するために必要な配慮をする義務」をいい、労働契約法第5条や労働安全衛生法第3条に根拠規定があります。
▶参考情報:「労働契約法第5条」の条文はこちら
▶参考情報:「労働安全衛生法第3条」の条文はこちら
労災で従業員が病気やケガになり、あるいは死亡した場合、多くのケースで、企業の安全配慮義務違反が認められ、それが損害賠償の請求根拠となります。
(2)使用者責任に基づく請求
民法第715条は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と定めており、これを使用者責任といいます。
業務中の自動車事故や、労災事故の中には、重機使用中の操作ミス、クレーン操作のミス、作業手順を守らなかったことによる事故など、他の従業員の過失で起こるものがあります。
このような他の従業員の過失による事故については、民法第715条により、会社も責任を負うことが定められており、使用者責任が損害賠償請求の根拠とされることがあります。
使用者責任について詳しくは、以下の解説記事を参考にご覧ください。
(3)工作物責任に基づく請求
民法第717条は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」と定めており、これを工作物責任と呼びます。
「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的に設置されたものを指し、擁壁や足場、建物内の設備などを含ます。
そのため、工事現場での土砂の崩落、擁壁の崩壊、足場の倒壊、ビル内でのエレベーターの事故による怪我や死亡などでは、この工作物責任が企業に対する損害賠償の請求根拠とされることがあります。
(4)元請業者に対する損害賠償請求
労災の損害賠償請求は、労災にあった従業員の直接の雇用主に対してだけでなく、労災にあった従業員の雇用主の元請業者に対して行われることがあります。
その主な法律上の根拠としては以下のものがあります。
1,安全配慮義務違反
判例上、元請業者が下請業者の従業員に対して安全配慮義務を負うケースがあることが認められています。
例えば、最高裁判所平成3年4月11日判決(三菱重工事件最高裁判決)では、「事実上、注文者から、作業につき、場所、設備・機械等の提供を受け、指揮監督を受ける等に至る場合」には、元請業者が下請業者従業員に対する安全保証義務を負うとしています。
これらの判例上認められる安全配慮義務を根拠に、下請業者の従業員の労災について元請業者に対する損害賠償請求が行われることがあります。
2,使用者責任
民法第715条は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。
これを使用者責任といいます。
元請業者従業員による重機使用中の操作ミス、クレーン操作のミス、作業手順を守らなかったことによる事故などにより負傷した下請業者の従業員は、この使用者責任を根拠に、元請業者に対して損害賠償を請求することができます。
3,工作物責任
民法第717条は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」と定めており、これを工作物責任と呼びます。
「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的に設置されたものを指し、擁壁や足場などを含ます。
そのため、元請業者が管理する工事現場での土砂の崩落、擁壁の崩壊、足場の倒壊などによる怪我や死亡などでは、この工作物責任が元請業者に対する損害賠償の請求根拠とされることがあります。
6,消滅時効について
民法第724条の2により、人の生命又は身体の侵害による 損害賠償請求権は、原則として5年で消滅時効にかかります。
このことは、請求根拠が、安全配慮義務違反であっても、使用者責任あるいは工作物責任であっても同じです。
ただし、2020年3月以前の労災については、改正前の民法が適用され、消滅時効期間は安全配慮義務違反を理由とする請求については10年、使用者責任、工作物責任を理由とする請求については3年です。
7,労災の損害賠償請求訴訟と立証責任
安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求訴訟では、従業員側が、「会社の安全配慮義務違反の事実」と、「病気やケガあるいは死亡と安全配慮義務違反の因果関係」について立証責任を負います。
使用者責任を理由とする損害賠償請求訴訟では、従業員側が「加害従業員の過失」と「病気やケガあるいは死亡との因果関係」について立証責任を負います。
工作物責任を理由とする損害賠償請求訴訟では、「土地の工作物に瑕疵があったこと」と「病気やケガあるいは死亡との因果関係」について立証責任を負います。
8,労災給付・遺族年金との調整・支給停止について
労災による病気や怪我、死亡について従業員が企業から損害賠償を受けた時は、最大で9年間、従業員に対する労災からの支給が停止されることがあります。
これを支給調整と言います。
(1)病気や怪我の場合
業務に起因する病気や怪我の場合に支給される休業補償給付、傷病補償年金、障害補償給付、介護補償給付は、企業から逸失利益についての損害賠償を受けた場合は、最大で9年間支給が停止されます。
また、通勤による怪我の場合に支給される休業給付、傷病年金、障害給付、介護給付は、事故の相手方等から逸失利益について損害賠償を受けた場合は、最大で9年間支給が停止されます。
(2)死亡災害の場合
業務に起因する死亡の場合に支給される遺族補償年金は、企業から逸失利益についての損害賠償を受けた場合は、最大で9年間支給が停止されます。
また、通勤中の事故による死亡の場合に支給される遺族年金も、事故の相手方等から逸失利益について損害賠償を受けた場合は、最大で9年間支給が停止されます。
支給調整については通達により具体的な基準が設けられていますので以下をご参照ください。
9,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます。」
最後に、咲くやこの花法律事務所の企業向けのサポート内容についてご説明したいと思います。
(1)従業員からの損害賠償請求への対応
咲くやこの花法律事務所では、労災が発生した場面での従業員からの損害賠償請求に関する交渉、訴訟についてもご相談をお受けしています。
労災の交渉、訴訟においては、その対応の仕方によって、賠償が必要になる額も大きく変わってきます。会社側の主張を十分反映し、適正な賠償額で解決することが必要です。
労災に関する損害賠償請求の対応に精通した弁護士がご相談をお受けし、対応します。
咲くやこの花法律事務所の労災対応に精通した弁護士へのご相談費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
(2)従業員からの労災主張に対する対応のご相談
従業員から労災の主張が出てきたときは、初動の段階で会社として正しく対応することが必要です。
従業員の主張が会社の事実認識と違っていたり、過大主張であるといった場合には、要所要所で会社側の主張を適切に反映させていく工夫が必要です。
特に、従業員から求められる「事業主証明」について適切に対応することや、「事業主の意見申出」制度(労災保険法施行規則23条の2)を利用して労災認定について会社側の主張を反映させていくことが重要なポイントです。
咲くやこの花法律事務所では以下のようなご相談を企業からお受けしています。
- 労災申請書類の記載方法に関するご相談
- 従業員からの主張への対応方法についてのご相談
- 労働基準監督署からの事情聴取に関するご相談
咲くやこの花法律事務所の労災対応に精通した弁護士へのご相談費用
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(3)労災事故発生時の対応のご相談
労災事故が発生したときも、初動の段階で会社として正しく対応することが最も重要です。
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- 労災申請書類の記載方法に関するご相談
- 従業員からの主張への対応方法についてのご相談
- 労働基準監督署や警察による事情聴取に関するご相談
- 労働基準監督署からの指導や是正勧告に関するご相談
- 労働安全衛生法違反や業務上過失致死の疑いを指摘された場合のご相談
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12,労災に関するお役立ち関連記事
この記事では、「労災の損害賠償請求の算定方法について」をわかりやすく解説いたしました。労災に関しては、その他にも知っておくべき情報が多数あり、正しく知識を理解しておかねければ対応方法を誤ってしまいます。
そのため、以下ではこの記事に関連する労災のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・労災事故とは?業務中・通勤中の事例を交えてわかりやすく解説
・労災の申請の方法とは?手続きの流れについてわかりやすく解説
・労災の必要書類とは?書き方や提出先についてわかりやすく解説
・会社の対応はどうする?労災申請があった場合の注意点について
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・ぎっくり腰は労災にならない?仕事で発症した腰痛の労災認定について
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記事作成弁護士:西川暢春
記事更新日:202e年5月23日