こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
労災が発生したとき、労災保険で何がどの程度補償されるのかがわからず困っていませんか?
会社で従業員の労災申請を代行する場合、状況に応じて適切な請求ができないと、従業員とトラブルになってしまうこともあります。どのような場合にどの給付を受けられるかなど、しっかり把握しておくことが重要です。
労災の補償とは、業務上の怪我や病気、または通勤中の怪我について、労災保険から給付を行う制度です。補償内容の主なものとして、治療費関連の療養補償給付、休業中に支給される休業補償給付、後遺障害が残った時に支給される障害補償給付、亡くなった時に支給される遺族補償給付や葬祭料等があります。
この記事では、労災の補償の内容や金額、補償を受けるための要件、補償をうけることができる期間等についてご説明します。
この記事を最後まで読んでいただくことで、労災保険で補償される内容や補償を受けることができる期間などについてしっかり理解していただくことができます。
最初に労災の補償制度をはじめとする労災(労働災害)に関する全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。
労災が発生して補償が必要となる場面は、会社と従業員との間でトラブルが発生しやすい場面の1つです。
会社には、従業員が適切に補償を受けられるように迅速かつ正確な対応が求められます。また、労災にあたるかどうかについて会社と従業員の意見が食い違うケースや、従業員が会社に対して損害賠償を求めるケースでは、早期に弁護士に相談したうえで正しい対応をしていくことが必要です。できるだけ早い段階でまず弁護士に相談していただくことをおすすめします。
労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安などは、以下の記事で解説していますので参考にご覧ください。
▶参考情報:労災に強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安
筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所も、企業側の立場で労災トラブルについてご相談をお受けしていますので、ご相談ください。
従業員から労災申請があった場合の会社の対応については以下もご覧ください。
▶参考情報:会社の対応はどうする?労災申請があった場合の注意点について
咲くやこの花法律事務所の労災トラブルに関する解決実績を以下で紹介していますのでご参照ください。
▼労災の補償に関して、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,労災の補償とは?種類と内容について
労災保険は業務に起因する怪我や病気、または通勤中の怪我について、必要な保険給付を行う制度です。労働者であれば、アルバイトやパートタイマー等の雇用形態に関わらず補償の対象となります。
労災からの補償内容のうち、主な7種類の補償について、それぞれの給付内容と特徴について解説します。
労災保険の全般的な知識をはじめ、各種補償の申請方法等については以下の記事をご覧ください。
(1)怪我や病気の治療についての補償「療養補償給付」
労災による怪我や病気で治療が必要になったときは、労災保険によって治療費が補償されます。治療費の他に、薬代や入院料、通院交通費など、治療のためにかかる費用が「療養補償給付」として支給されます。
療養補償給付には「療養の給付」と「療養の費用の支給」とがあります。
1,療養の給付とは?
「療養の給付」とは、労災病院や労災保険の指定医療機関や薬局で、被災労働者が無料で治療を受けたり薬剤を受け取ったりすることができる給付です(現物給付といいます)。
労災保険から医療機関に直接治療費等が支払われるので、労働者が窓口で医療費を支払う必要がありません。
2,療養の費用の支給とは?
これに対し、「療養の費用の支給」は、労災指定外の医療機関や薬局等で治療を受けたときに、その費用を支給する現金給付です。
労働者が医療機関の窓口で治療費を一旦立て替えて支払い、後日、立替えた金額が労災保険から労働者に支給されるという流れになります。労働者が医療費を立て替えることなく治療を受けられますので、できるだけ労災病院や労災指定医療機関を受診すると良いでしょう。
労災病院、労災指定病院のメリットと手続き、支払い等については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
労災の療養補償給付については以下で解説していますのでご参照ください。
(2)休業中の補償「休業補償給付」
労災による怪我や病気が原因で仕事ができないときは、休業補償給付が支給されます。
休業補償給付の受給要件は、「労働者災害補償保険法第14条1項」に定められており、以下の3つです。
- 業務上の怪我や病気または通勤中の怪我により治療中であること
- その療養のために労働することができない期間が4日以上であること
- 労働できないために、会社から賃金を受けていないこと
労災の休業補償給付については以下の記事で詳しく説明していますので、こちらをご覧ください。
(3)後遺症が残ったときの補償「障害補償給付」
労災による怪我や病気の治ゆ後も一定以上の障害が残ったときは、その後遺障害の程度に応じて障害補償給付が支給されます。
「治ゆ」とは症状が完全に消失することではなく、これ以上治療を続けても症状が改善されない状態のことです。これを「症状固定」といいます。
障害補償給付には、毎年支給される「年金」と1回に限り支給される「一時金」があり、どちらが支給されるかは労働基準監督署長の認定する後遺障害等級によって以下のとおり決まっています。
障害等級第1級~第7級の場合
年金(障害補償年金、障害特別年金)と一時金(障害特別支給金)の両方が支給されます。
障害等級第8級~第14級の場合
一時金(障害補償一時金、障害特別支給金、障害特別一時金)のみの支給となります。
労災の後遺障害についての補償は以下で解説していますのでご参照ください。
(4)傷病が治ゆしないときの補償「傷病補償年金」
労災による怪我や病気で治療開始後1年6か月を経過しても、重い症状があり、治療を続ける必要があるときは、傷病補償年金が支給されます。
傷病補償年金の支給要件は以下の通りです。
傷病補償年金の支給要件
- 傷病が治ゆしていないこと
- その傷病による障害の程度が傷病等級表の傷病等級に該当すること
▶参考:傷病等級表(等級・給付内容・障害の状態について)
労働者災害補償保険法施行規則
別表第二 傷病等級表
傷病等級 | 給付の内容 | 障害の状態 |
第1級 | 当該障害の状態が継続 している期間1年につき 給付基礎日額の313日分 |
(1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に介護を要するもの (3) 両眼が失明しているもの (4) そしやく及び言語の機能を廃しているもの (5) 両上肢をひじ関節以上で失ったもの (6) 両上肢の用を全廃しているもの (7) 両下肢をひざ関節以上で失ったもの (8) 両下肢の用を全廃しているもの (9) 前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあ るもの |
第2級 | 同 277日分 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、随時介護を要するもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、随時介護を 要するもの (3) 両眼の視力が0.02以下になっているもの (4) 両上肢を腕関節以上で失ったもの (5) 両下肢を足関節以上で失ったもの (6) 前各号に定めるものと同程度以上の障害の状態にあ るもの |
第3級 | 同 245日分 | (1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を有し、常に 労務に服することができないもの (2) 胸腹部臓器の機能に著しい障害を有し、常に労務に 服することができないもの (3) 一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になっているもの (4) そしやく又は言語の機能を廃しているもの (5) 両手の手指の全部を失ったもの (6) 第1号及び第2号に定めるもののほか、常に労務に 服することができないものその他前各号に定めるもの と同程度以上の障害の状態にあるもの |
・引用元:厚生労働省「休業(補償)等給付 傷病(補償)等年金の請求手続」(pdf)の12ページ
傷病補償年金は、労働基準監督署長の職権によって支給・不支給決定がなされるため、他の保険給付のように請求手続きをする必要はありません。
ただし、治療を開始してから1年6か月を経過しても治ゆしないとき、受給者は「傷病の状態等に関する届(様式第16号の2)」を労働基準監督署長に提出しなければなりません。
「傷病の状態等に関する届(様式第16号の2)」の書式は以下をご覧ください。
(5)介護が必要になったときの補償「介護補償給付」
障害補償年金または傷病補償年金の受給者のうち、障害等級・傷病等級が第1級もしくは第2級の「精神神経・胸腹部臓器の障害」に該当する受給者が、実際に介護を受けているときは介護補償給付が支給されます。
障害の状態に応じて下表のとおり「常時介護を要する状態」と「随時介護を要する状態」に区分され、補償内容が決まります。
▶参考:介護補償給付の補償内容について
該当する方の具体的な障害の状態 | |
常時介護 | ① 精神神経•胸腹部臓器に障害を残し、常時介護を要する状態に該当する (障害等級第1級3 • 4号、傷病等級第1級1• 2号)② •両眼が失明するとともに、障害または傷病等級第1級•第2級の障害を有する •両上肢および両下肢が亡失又は用廃の状態にあるなど①と同等度の介護を要する状態である |
随時介護 | ① 精神神経•胸腹部臓器に障害を残し、随時介護を要する状態に該当する (障害等級第2級2号の2 • 2号の3、傷病等級第2級1• 2号) ② 障害等級第1級または傷病等級第1級に該当し、常時介護を要する状態ではない |
・引用元:厚生労働省「介護(補償)等給付の請求手続」(pdf)の1ページ
なお、以下の場合は、その施設において十分な介護サービスが提供されていると考えられるため、介護補償給付は支給されません。
- 入院中の場合
- 介護老人保険施設・介護医療院・障害者支援施設に入所して生活介護を受けている場合
- 特別養護老人ホームまたは原子爆弾被爆者特別養護ホームに入所中の場合
(6)死亡したときの遺族に対する補償「遺族補償給付」
労働災害が原因で労働者が死亡したとき、遺族に対して遺族補償給付が支給されます。
遺族補償給付には、毎年支給がされる「遺族補償年金」と、1回に限り支給される「遺族補償一時金」の2種類があります。
1,遺族補償年金
遺族補償年金の受給資格を有するのは、被災労働者の死亡当時にその収入によって生計を維持していた「配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹」です。共稼ぎの場合も対象になります。
ただし妻以外の遺族には、年齢や一定の障害があることなどの条件があります。「一定の障害」とは障害等級第5級以上の身体障害をいいます。
受給資格者の内、以下のとおり定められた優先順位の最上位に該当する遺族が受給権者となり、遺族補償給付が支給されます(同順位に2人以上いる場合は支給額を等分します)。
▶参考:受給資格者の優先順位
- ① 妻または60歳以上か一定の障害がある夫
- ② 18歳までの子、または一定の障害がある子
- ③ 60歳以上か一定の障害がある父母
- ④ 18歳までの孫、または一定の障害がある孫
- ⑤ 60歳以上か一定の障害がある祖父母
- ⑥ 18歳までか、60歳以上または一定の障害がある兄弟姉妹
- ⑦ 55歳以上60歳未満の夫
- ⑧ 55歳以上60歳未満の父母
- ⑨ 55歳以上60歳未満の祖父母
- ⑩ 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
※なお、上記において「18歳まで」という点は、厳密には、18歳に達した後最初の3月31日を迎えたかどうかで判断されます。そのため、3月31日を迎えた後は18歳であってもこれには該当しません。
2,遺族補償一時金
遺族補償年金を受給できる遺族がいない次の場合には遺族補償一時金が支給されます。
- 被災労働者の死亡当時に、遺族補償年金の受給資格者がいない場合
- 遺族補償年金の受給権者が全員失権したときに、すでに支払われた年金等の合計額が給付基礎日額の1,000日分に満たない場合
遺族補償一時金の受給資格者とその優先順位は次のとおりです。このうち最先順位者が受給権者になります。
▶参考:受給資格者の優先順位
- ① 配偶者
- ② 被災労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
- ③ その他の子・父母・孫・祖父母
- ④ 兄弟姉妹
※②、③の中では子・父母・孫・祖父母の順で受給権者になります。
(7)死亡したときの葬儀費用についての補償「葬祭料・葬祭給付」
被災労働者が死亡したときに、葬儀を行う遺族等に対して葬祭料・葬祭給付が支給されます。
なお、受給権者は遺族に限られるのではなく、会社が社葬として葬儀を行った場合は、会社に対して葬祭料(葬祭給付)が支給されます。
▶参考:「障害補償年金、障害特別年金」「傷病補償年金」「遺族補償年金」などの労災年金の制度については、以下の記事で詳しく説明していますので、こちらをご覧ください。
2,休業補償給付には医師の証明が必要
労災の休業補償給付を請求するにあたっては、労災による怪我や病気の治療のために仕事ができない状態であったことについて、医師から証明を受ける必要があります。
休業補償給付の請求書に所定の欄がありますので、通院先の医療機関で記入を依頼しましょう。
労災から補償を受けるための各種必要書類の書き方等については、以下で解説していますのでご参照ください。
3,休業補償期間の途中で出勤した場合
休業補償期間の途中で出勤した場合も、受給要件を満たしていれば休業補償給付が打ち切られることはありません。
休業補償給付の受給要件は、労災による怪我や病気の治療のために仕事ができず賃金を受け取っていないことです。
そのため、休業期間中に出勤しても出勤日以外の日については無給の状態が続いていれば、無給の日については休業補償給付を受け取ることができます。
4,労災で補償される金額
では、労災保険から補償される金額はどう決まるのでしょうか。
補償内容ごとに見ていきましょう。
(1)療養補償給付
療養補償給付では、治療費、入院料、通院交通費などが補償の対象となります。
療養補償給付の詳細は、以下の厚生労働省のパンフレットもご参照ください。
(2)休業補償給付
休業補償給付の支払を受ける労働者には休業特別支給金もあわせて支給されます。
それぞれの補償金額の計算式は以下のとおりです。
- 休業補償給付 = 給付基礎日額 ×(休業日数 – 3日)× 60%
- 休業特別支給金=給付基礎日額 ×(休業日数 – 3日)× 20%
つまり、労災の休業補償給付では給付基礎日額の約80%が支給されることになります。
給付基礎日額とは、原則として、労災事故の発生日または医師の診断によって疾病の発生が確定した日の直前3か月間に被災労働者に対して支払われた賃金の総額(賞与など臨時に支払われる賃金を除く)を、その期間の暦日数で割った1日あたりの賃金額です。
休業補償給付の計算方法については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
(3)障害補償給付
障害補償給付のうち、障害補償年金・障害補償一時金は前述の給付基礎日額をもとに補償額が決定します。
一方、障害特別年金・障害特別一時金は算定基礎日額をもとに補償額が決まります。
算定基礎日額とは、労災事故の発生日または医師の診断によって疾病の発生が確定した日の直前1年間に、被災労働者が受けた特別給与の総額を365で割った金額です。特別給与とは、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与などの賃金を指します。
また、障害特別支給金は等級によって定められた金額が支払われます。
具体的には下表のとおりです。
1,障害等級第1級~第7級の場合
年金(障害補償年金、障害特別年金)と一時金(障害特別支給金)の両方が支給されます。
障害補償年金及び障害特別年金は、表の金額が年額です。障害等級が変わらない限り、この年額を6等分した金額が2カ月に1回支給され続けます。
▶参考:後遺障害等級第1級から第7級の表
2,障害等級第8級~第14級の場合
一時金(障害補償一時金、障害特別支給金、障害特別一時金)のみの支給となります。
障害等級ごとの補償額は以下の通りです。
▶参考:後遺障害等級第8級から第14級の表
障害補償給付については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(4)傷病補償給付
傷病補償給付の補償額は、傷病等級に応じて下表のとおり決定されます。
傷病補償年金及び傷病特別年金は表の金額が年額になります。等級が変わらない限り、この年額を6等分した金額が2か月に1回支給されます。これに対し、傷病特別支給金は一時金であり、1回限りの支給です。
▶参考:傷病補償給付の等級と補償額
(5)介護補償給付
介護補償給付は月を単位として支給されます。
1か月当たりの補償額は下表のとおり定められています。
▶参考:介護補償給付の要件と補償額(常時介護と随時介護)
介護補償給付については厚生労働省の以下のパンフレットもご参照ください。
(6)遺族補償給付
遺族補償給付には遺族補償年金と遺族補償一時金があります。
1,遺族補償年金
遺族補償年金は遺族の数に応じて下表のとおり補償されます。
遺族とは、「①受給権者」及び「②受給権者と生計を同じくしている受給資格者」のことをいいます。
受給権者については、この記事の「(6)死亡したときの遺族に対する補償「遺族補償給付」」で説明していますので確認してください。
なお、受給権者が2人以上いる場合は、下表の金額を等分した額をそれぞれの受給権者が受け取ることになります。
▶参考:遺族補償年金の補償額
2,遺族補償一時金
被災労働者の死亡当時に遺族補償年金の受給資格者がいない場合は、遺族補償一時金の受給権者に下表の額が補償されます。
▶参考:遺族補償一時金の補償額
また、遺族補償年金の受給権者が全員失権したときに、すでに支払われた年金等の合計額が給付基礎日額の1,000日分に満たない場合は、遺族補償一時金の受給権者に下表の額が支給されます。
遺族補償給付については、厚生労働省の以下のパンフレットもご参照ください。
(7)葬祭料(葬祭給付)
葬祭料等の支給額は、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた金額です。
この額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は給付基礎日額の60日分が支給額となります。
労災保険から支給される金額については以下の記事でも解説していますのでご参照ください。
5,労災の補償期間はいつからいつまでか?
労災保険による補償期間は、保険給付の種類ごとに異なります。
ここでは各保険給付がいつからいつまで支給されるのかを順番に見ていきましょう。
(1)療養補償給付
療養補償給付は傷病が治ゆ(症状固定)するまで補償が継続します。
一旦治ゆした後に傷病が再発したと認められる場合は、再び療養補償給付が支給されます。
再発による療養補償給付が認められるための要件は次の3つです。
- 再発した傷病と当初の労災による傷病との間に医学上の因果関係が認められること
- 症状固定時よりも明らかに症状が悪化していること
- 治療によって、症状の改善が期待できると医学的に認められること
なお、骨折部に金属プレートやボルトを挿入して症状固定した後に、このプレートやボルトを再手術で取り除く場合も「再発」として扱われます。よってこの場合も療養補償給付が支給されます。
(2)休業補償給付
休業補償給付は以下の3つの支給要件を満たす限り、休業4日目から期限なく補償されます。
- 業務上の怪我や病気または通勤中の怪我により治療中であること
- その療養のために労働ができない期間が4日以上であること
- 労働できないために、会社から賃金を受けていないこと
ただし、療養開始後1年6か月経過した時点で傷病等級第1級から第3級に該当する程度の障害がある場合は、休業補償給付から傷病補償年金に切り替わることになります。
休業補償給付の補償の期間については以下の記事で詳しく説明していますので、ご覧ください。
(3)障害補償年金
障害補償年金は、症状固定(治ゆ)となって障害等級第1級から第7級に認定されたとき、症状固定日の翌月分から補償されます。
被災した労働者が存命で、障害等級第1級から第7級に該当する状態である限り、原則として打ち切られることはありません。
(4)傷病補償年金
傷病補償年金は、支給要件に該当すると認定されたときに、その翌月から補償されます。要件を満たしている限り支給が続きます。
なお、傷病補償年金は治療中に支給される年金です。傷病が治ゆ(症状固定)して傷病補償年金の支給要件を満たさなくなったとき、後遺障害が認定されると障害補償給付が支給されることになります。
また、治療を続けているうちに障害の程度が軽くなり、傷病等級に該当しなくなったときも傷病補償年金の支給要件を満たさなくなります。この場合、まだ傷病が治ゆしておらず休業しているときは、休業補償給付が支給されます。
(5)介護補償給付
介護補償給付は、一定の障害の状態にあり現に介護を受けている等の支給要件を満たしているとき、介護開始日の翌月から介護を受けている限り補償されます。
介護が必要な状態でも、病院に入院したり介護施設に入所したりすると要件を満たさなくなるため補償は終了します。
(6)遺族補償年金
遺族補償年金は、被災した労働者が死亡した日の翌月から、受給権者が受給資格を失うまで補償されます。
受給資格を失うのは具体的に次のようなときです。
- 受給権者が死亡したとき
- 受給権者が配偶者である場合、再婚したとき(事実婚も含む)
- 受給権者が若年の子や孫、兄弟姉妹である場合、18歳に達する日以後の最初の3月31日を経過したとき
- 受給権者が一定の障害を有する者である場合、障害等級5級に該当しなくなったとき
受給権者が失権したときに他に受給資格を有する遺族がいる場合は、そのうち最も順位の高い受給資格者が新たな受給権者となって年金を受け取ることになります(これを転給といいます)。
受給資格者が一人もいなくなると、遺族補償年金の支給は終了します。
6,アスベスト被害についての労災の補償
中皮腫など石綿との関連が明らかな疾病を発症し、それが石綿(アスベスト)を取り扱う業務に従事していたことが原因の業務上疾病であると認められた場合には、労災保険の補償対象となります。
労災による他の疾病と同様に、療養補償給付や休業補償給付を受けることができます。また、本人が亡くなった場合は遺族が遺族補償給付を受けることができます。
石綿(アスベスト)との関連が明らかな疾病は次の5つです。
- 石綿肺
- 中皮腫
- 肺がん
- 良性石綿胸水
- びまん性胸膜肥厚
石綿を取り扱う作業とは、石綿の吹き付けや石綿を含む建物の解体、石綿を含む製品の製造加工などです。石綿粉じんにさらされる作業(ばく露作業といいます)全般が該当します。
なお、労働者本人が亡くなり、その遺族が労災保険の遺族補償給付の請求権を時効(5年)により既に失っている場合は、労災保険給付を受けることはできません。
その場合、石綿健康被害救済制度による特別遺族給付金を受けられることがあります。
詳しくは以下をご覧ください。
▶参考情報:厚生労働省「石綿による疾病の労災認定」(pdf)
7,新型コロナウイルス感染症についての労災の補償
新型コロナウイルス感染症に業務によって感染した場合、労災補償給付の対象となります。症状が持続し(罹患後症状があり)、療養等が必要と認められる場合も保険給付の対象です。
具体的に、対象となるのは以下の場合です。
(1)業務によって新型コロナウィルスに感染した際の労災補償の対象になる場合
- ① 感染経路が業務によることが明らかな場合
- ② 感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した蓋然性が強い場合
感染リスクが高い業務とは、複数の感染者が確認された労働環境下での業務や顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下の業務を指します。
また、医師・看護師や介護の業務に従事する労働者については、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として労災補償の対象となります。
詳しくは、厚生労働省ホームページの「Q&A」も参考にご覧ください。
8,労災補償の範囲は?腰痛、過労死、うつ病などは労災になるのか?
労働者の傷病や死亡が労災保険の補償対象となるかどうかについては、「業務遂行性」と「業務起因性」によって判断されます。
「業務遂行性」とは事故が業務中に起こったかどうか、「業務起因性」とはその災害が事業主の支配ないし管理下にあることによる危険が現実化したものかどうかを判断する要件です。
この両方を満たしている場合に、労災に認定されます。
また、腰痛や長時間労働による過労死、うつ病などについても、要件を満たしていれば労災の補償対象となります。
以下の記事で腰痛、過労死、うつ病などの認定基準について詳しく説明していますのでご覧ください。
9,労災の補償に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)
最後に、労災分野についての、咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご説明します。
なお、咲くやこの花法律事務所は、企業側の立場でのみご相談をお受けしており、一般の従業員からのご相談はお受けしておりません。
(1)労災請求についての企業側の対応のご相談
労災が発生して、従業員が労災保険から補償を受けようとするときは、会社は被災した従業員が適切に労災から補償を受けられるよう助力することが義務付けられています(労災保険法施行規則23条1項)。
また、従業員が労災申請を希望していても会社としては労災でないと考えるケースでは、会社の見解を労働基準監督署に適切に伝え、誤った労災認定がされないようにする必要があります。
さらに、業務による怪我や病気については、労災保険からの補償とは別に、従業員から会社に対する損害賠償請求、慰謝料請求がされることが通常です。その場合、会社側としては適切な反論を加えていくことが必要になります。
このように、労災の問題は労使トラブルに発展しやすく、適切な対応が必要です。
自己流で誤った対応をすると、トラブルがより拡大したり、自社に不利益な対応をしてしまい後でリカバリーすることが困難になることが少なくありません。トラブルを未然に防ぐためには、できるだけ早い段階で弁護士に相談して、正しい対応方法を確認しておくことが必要です。
咲くやこの花法律事務所では、労災について企業側の立場から以下のようなご相談をお受けしています。
- 従業員からの労災申請への対応方法のご相談
- 労災保険給付の請求手続きについてのご相談
- 会社としては労災と考えていないのに従業員から労災申請を求められた場合の対応に関するご相談
- 労働基準監督署による調査への対応に関するご相談
- 労災に関する従業員からの損害賠償請求に関するご相談
労災トラブルに精通した弁護士がご相談にあたります。
咲くやこの花法律事務所の労災対応に精通した弁護士へのご相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
なお、労働基準監督署による調査への対応、従業員からの損害賠償請求への対応については、それぞれ以下の記事をご参照ください。
▶参考情報:労災で労基署からの聞き取り調査!何を聞かれるのか?
▶参考情報:労災の損害賠償請求の算定方法をわかりやすく解説!
(2)顧問弁護士契約
咲くやこの花法律事務所では、労災トラブルをはじめとする、労務トラブルを日ごろから弁護士に相談するための、顧問弁護士サービスを事業者向けに提供して、多くの事業者をサポートしてきました。
顧問弁護士サービスを利用することで、問題が小さいうちから気軽に相談することができ、問題の適切かつ迅速な解決につながります。また、日ごろから労務管理の改善を進め、トラブルに強い会社をつくることに取り組むことができます。咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスは以下をご参照ください。
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
労災保険の補償についてなど労働問題に関するご相談は、下記から気軽にお問い合わせください。弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
10,【関連情報】労災に関するお役立ち関連記事
この記事では、「労災の補償制度とは?補償内容や金額、支払われる期間を詳しく解説」についてご紹介しました。労災に関しては、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ対応方法を誤ってしまいます。
そのため、以下ではこの記事に関連する労災のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・労災事故とは?業務中・通勤中の事例を交えてわかりやすく解説
・労災が発生した際の報告義務のまとめ。遅滞なく届出が必要な場合とは?
・パワハラで労災は認定される?会社の対応と精神疾患の認定基準を解説
・労災隠しとは?罰則の内容や発覚する理由などを事例付きで解説
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記事更新日:2024年11月13日
記事作成弁護士:西川暢春
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