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解雇理由証明書とは?書き方や注意点を記載例付きで解説【サンプル付き】

解雇理由証明書とは?書き方や注意点を記載例付きで解説【サンプル付き】
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

解雇した従業員から解雇理由証明書の交付を求められて、その対応に困っていませんか。

解雇理由証明書とは、会社が従業員を解雇した時に交付するもので、解雇の理由を記載した書面のことをいいます。

解雇した時に必ず交付しないといけない、というものではなく、従業員から請求があった時のみ発行する書類です。発行する場面が限られているので、あまり馴染みのない書面かもしれません。

しかし、この解雇理由証明書は、実は作成に注意が必要な書類でもあります。解雇理由証明書の交付を求めてくる従業員は、解雇について一定の不満を持っている可能性が高く、紛争に発展するリスクが高いためです。

特に重要な注意点として、解雇理由証明書の記載が不十分になってしまうと、後日、従業員が解雇の効力を争う訴訟等を起こした場合に、事業主からの主張が制限されてしまい、本来主張すべきことが主張できなくなる危険があります。

また、解雇理由書証明書については、法律上記載のルールが定められており、これに違反すると労働基準法違反として事業者に罰則が科されることがあります。

この記事では、解雇理由証明書がどのようなものか、解雇理由証明書の記載事項等について説明します。

この記事を読んでいただければ、解雇理由の書き方や、作成する時にどのような点に気を付けるべきかがわかるはずです。

それでは見ていきましょう。

なお、解雇理由証明書をはじめとする解雇の全般的な基礎知識について知りたい方は、以下の記事で網羅的に解説していますので、ご参照ください。

 

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

解雇した従業員から解雇理由証明書を求められる場面は、解雇が紛争化する可能性が高い場面です。

解雇理由証明書は訴訟等でも重要な資料となります。自社の判断で対応して誤った対応にならないように、必ず企業側の立場で労働問題を取り扱う弁護士に事前にご相談ください。

筆者が代表をつとめる咲くやこの花法律事務所でも、従業員の解雇トラブルについて企業側の立場でのご相談を、企業の担当者、経営者からお受けしていますので、ぜひお問い合わせください。

咲くやこの花法律事務所の解雇トラブルに関する解決実績は以下をご参照ください。

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の解雇トラブルに関する解決実績はこちら

 

▼解雇理由証明書に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

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1,解雇理由証明書とは?

解雇理由証明書とは?

解雇理由証明書とは、会社が、解雇した従業員に対して発行する、解雇の理由を記載した書面のことをいいます。解雇理由証明書は労働基準法第22条によりその交付が義務付けられています。解雇した従業員に対して一律に交付する必要があるわけではなく、従業員から請求があった時に発行する必要があります。

解雇理由証明書は、従業員から請求された後、「遅滞なく交付しなければならない」とされています(労働基準法第22条)。交付しない場合は罰則の適用があります。

そして、解雇理由証明書は、後日、従業員が解雇について訴訟や労働審判を起こした際に重要な証拠資料となりますので、そのことも踏まえて、適切な記載をする必要があります。

以下で詳しく見ていきたいと思います。

 

2,解雇理由証明書の発行は事業主の法律上の義務

会社には、従業員からの求めに応じて、解雇理由証明書を交付することが法律で義務付けられています。

 

(1)条文の規定

解雇理由証明書の交付について規定した労働基準法第22条の内容は以下の通りです。

 

▶参考:労働基準法第22条の規定

①労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

② 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。

③ 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

④ 使用者は、あらかじめ第三者と謀り、労働者の就業を妨げることを目的として、労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関する通信をし、又は第一項及び第二項の証明書に秘密の記号を記入してはならない。

 

・参照元:「労働基準法第22条」の条文はこちら

 

(2)労働基準法第22条の解説

上記「労働基準法第22条」の条文のうち、第1項は、退職日以降に従業員から退職証明書の交付を請求された場合に事業主がこれに応じる義務があることを定めたものです。

これに対し、第2項が解雇理由証明書についての規定です。第2項は、事業者が解雇を予告した場合は、解雇の効力が発生して退職する以前であっても、従業員から解雇理由証明書の交付を請求された場合に、事業主はこれに応じなければならないことを定めています。

そして、第3項は、事業者が証明書を作成する際に従業員が請求しない項目について記載してはならないことを定めるものです。

さらに、第4項で、いわゆるブラックリストの禁止が定められています。例えば、労働組合への加入の有無について秘密の記号を解雇理由証明書に記入する行為はこれにより禁止されています。

 

(3)解雇理由証明書と退職証明書の違い

解雇理由証明書と退職証明書の違い

解雇理由を証明する書類には、解雇理由証明書と退職証明書の2種類があります。

労働基準法により解雇は30日前に予告することが原則ですが、解雇理由証明書は、解雇を予告した日から退職日までの間に、解雇した従業員に対して交付する書面です。

一方、退職証明書は、従業員が退職した日以降に、退職した従業員に対して交付するもので、退職の理由(解雇の場合は解雇理由)や在籍期間、在職中に担当した業務の種類、在職中の地位、賃金等を証明する書面です。

退職証明書は、退職が解雇によるものかどうかにかかわらず、請求された場合には交付する必要があります。

この点をまとめると以下の表のとおりです。

 

▶参考:解雇理由証明書と退職証明書の比較表

解雇理由証明書 退職証明書
条文 労働基準法第22条2項 労働基準法第22条1項
交付時期 解雇予告された日から退職の日までの間 従業員が退職した日以降
対象者 解雇した従業員が請求した場合 解雇かどうかにかかわらず、退職した従業員が請求した場合
証明事項 解雇の理由 ・在籍期間
・在職中に担当した業務の種類
・在職中の地位、賃金
・退職の理由(解雇の場合は解雇理由も含む)

 

解雇した従業員から解雇の理由について証明を求められた場合、解雇を予告した日から退職日までの間は「解雇理由証明書」、退職日以降は「退職証明書」を発行します。

 

(4)「出さないとどうなる?」交付しない場合の罰則

解雇理由証明書を請求されたにもかかわらず、事業者が発行しない場合、事業者は30万円以下の罰金を科される可能性があります(労働基準法第120条第1項)。

 

(5)解雇理由証明書を発行しなくてもよいケースとは?

以下のような場合は解雇理由証明書を発行する必要はありません。

 

1,従業員から請求されていない時

解雇理由証明書は、従業員から請求されて初めて発行する義務が生じます。そのため、従業員からの請求がなければ、交付する必要はありません。

 

2,解雇を予告した後に別の理由で退職した時

解雇予告期間が終了する前に、解雇以外の理由によって従業員が退職した場合は、解雇理由証明書を交付する必要はありません。この点は労働基準法第22条2項但書で定められています。

例えば、解雇を予告した後、従業員から退職の申し出があり、自己都合退職したようなケースです。

ただし、その場合も退職後に解雇理由の証明書の発行を求められた場合は、労働基準法第22条1項により、解雇理由を記載した退職証明書を交付することが必要です。

 

3,解雇してから2年以上経過した時

解雇理由を含む退職の証明書の請求権は2年で時効になるため、解雇した日から2年以上経過した場合は、発行する必要はありません。

 

3,解雇理由証明書を請求されたら交付はいつまでに必要?

解雇理由証明書は、従業員から請求があった場合に交付する書面であることをご説明しました。

それでは、従業員から交付を求められたらいつまでに発行すればよいのでしょうか。次に、解雇理由証明書の交付時期について解説します。

 

(1)請求後「遅滞なく」交付する必要がある

解雇理由証明書は、従業員から請求された後、「遅滞なく交付しなければならない」とされています(労働基準法第22条)。

これは本来、労働基準法第22条の証明書は、従業員が就職活動にあたり、前職での在籍期間や担当業務の内容、地位などを証明するためのものであり、交付が遅れた場合に従業員の転職を妨げる結果となる恐れがあることから、「遅滞なく」とされているものです。

できるだけはやく、請求されたら2~3日中には交付できるとよいでしょう。

従業員が期限をつけて請求した場合は、事業主は可能な限り期限内に応じなければならないとされています。

 

(2)解雇理由証明書の請求期限

解雇理由証明書を請求できるのは、解雇予告された日から退職日までの間です。

退職日以降は、退職証明書として、解雇理由が記載された書面を請求することができます。解雇を予告せずに、解雇予告手当を支払うなどして即時解雇した後に、解雇理由についての証明書を請求された場合も、退職証明書として交付します。

そして、退職証明書の請求期限は解雇日から2年です。解雇から2年が経つと、時効によって退職証明書の請求権がなくなります(労働基準法第115条、平成11年3月31日基発第169号)。

なお、解雇予告や解雇予告手当については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

4,解雇理由証明書の書き方

次に解雇理由証明書に記載する内容や、作成時の注意点をご説明します。

 

(1)解雇理由証明書の記載事項

ここまでご説明した通り、解雇理由を証明する書類には、解雇予告期間中に発行する解雇理由証明書と、退職後に発行する退職証明書の2パターンあります。

それぞれの証明書に記載する内容は以下のとおりです。

 

1,解雇理由証明書として交付する場合の記載事項

 

  • 解雇を予告したこと
  • 解雇理由

 

2,退職証明書として交付する場合の記載事項

 

  • 使用期間(在籍期間)
  • 業務の種類
  • 事業における地位
  • 賃金
  • 退職事由(自己都合退職、退職勧奨、解雇、定年退職等)
  • 解雇の場合は解雇理由

 

(2)解雇理由証明書を作成するときの注意点

解雇理由証明書を請求する従業員は、解雇について不満を持っている可能性が高いため、解雇理由証明書の作成には慎重を期すべきです。

また、解雇理由証明書の記載方法については、労働基準法に規定がおかれているため、これに違反しないように注意することも重要です。

ここからは、解雇理由証明書を作成するときの注意点をご説明します。

 

注意点1:
従業員が請求した事項のみを記載する

解雇理由証明書には、従業員が証明を請求していない事項を記入してはならないとされています(労働基準法第22条3項)。

そのため、従業員から解雇理由についての証明の交付を求められた場合は、労働基準法22条に定められた証明事項のうち、どの項目についての証明を希望するのかを、まず確認することが必要です。

例えば、従業員が解雇された事実についてのみ証明を求めたときに、解雇理由を記載することは法令違反となります(平成11年1月29日基発第45号)。

 

注意点2:
就業規則の条文と具体的な事実を記載する

厚生労働省の通達により、解雇の理由については具体的に示す必要があるとされています(平成15年10月22日基発第1022001号)。

就業規則で定める解雇事由に該当したことを理由とする解雇の場合は、該当する就業規則の条項の内容と、その条項に該当する具体的な事実を記載する必要があります。

 

▶参考記載例:就業規則の解雇事由に該当したことを理由とする解雇の場合の例文

 

●悪い例

解雇理由:業務の指示・命令に対する違反

 

●良い例

解雇理由:就業規則第〇条〇項〇号の「(就業規則の条項の内容)」に該当したため
就業規則第〇条〇項〇号に該当する具体的な事実

・〇年〇月〇日に(具体的な問題行動の内容)を行ったこと
・〇年〇月〇日に(具体的な業務命令の内容)を命じたが従わず、業務に支障を生じさせたこと

 

注意点3:
解雇理由をすべて網羅して記載する

特に懲戒解雇のケースで解雇理由証明書に解雇理由を記載するときは、該当する解雇理由をすべて網羅して記載する必要があります。

これは、懲戒解雇の場合には、普通解雇の場合と異なり、「懲戒解雇の後に会社が別の解雇理由を付け足すことはできない」というルールがあるためです。

実際の裁判例においても、従業員を懲戒解雇した会社が解雇理由通知書に記載されていない解雇理由をあとから付け足して主張した事例において、会社はあとから付け足した解雇理由は懲戒解雇の理由にすることができないと判断されています(東京地方裁判所平成24年3月13日判決等)。

このように本来主張するべき解雇理由を主張できなくなることがないように、網羅的な記載が必要です。

懲戒解雇のルールについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

一方で、普通解雇の場合は、あとから解雇理由を追加して主張することも理論上は可能です。ただし、解雇理由証明書に記載していなかった解雇理由は、会社が重視していなかった(解雇理由として重要なものではなかった)とみなされ、解雇の有効性について争いになったときに、裁判所において、解雇理由として十分に考慮してもらえないリスクがあります。

そのため、普通解雇であっても、解雇理由証明書には、該当する解雇理由は網羅して記載することは重要です。
普通解雇のルールについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

5,解雇理由証明書のサンプル書式と記載例【厚生労働省ひな形ダウンロード付き】

解雇理由証明書に決まった書式はありませんが、厚生労働省や労働局のホームページからサンプルのひな形をダウンロードすることができます。

 

(1)厚生労働省の解雇理由証明書ひな形ダウンロード

厚生労働省の解雇理由証明書ひな形ダウンロード

厚生労働省が公開している解雇理由証明書のひな形は、以下よりWord形式のサンプルをダウンロードしていただけます。

 

 

(2)解雇理由証明書の記載例

上記の厚生労働省のひな形に実際に解雇理由等を書き込んだ記載例は以下のとおりです。

こちらも参考にしてください。

 

▶参考例:実際の解雇理由証明書の記載例

実際の解雇理由証明書の記載例

1.解雇理由証明書の記載例の説明

  • ①には、解雇した従業員の氏名を記入します
  • ②には、解雇予告をした年月日を記入します
  • ③には、解雇理由証明書の作成日を記入します
  • ④には、会社名、代表者氏名等を記入します
  • ⑤には、該当する解雇理由に〇をつけ、( )内に具体的な解雇の理由を記入します
  • 就業規則の解雇事由に該当したことによる解雇の場合は、就業規則の条文の記載も必要です

※枠内に書ききれない場合は、別紙に記載して添付しても構いません。

 

6,解雇理由証明書の使い道

従業員から解雇理由証明書の交付を求められた際に、解雇理由証明書を何に使うのか、なぜ必要なのか疑問に思う方も少なくないと思います。

解雇理由証明書は、離職票のように公的な手続きに必要となるものではありません。

それにもかかわらず、従業員が解雇理由証明書の交付を求めるのは、以下のような理由が考えられます。

 

  • 自分が解雇された理由を知りたい
  • 不当解雇として争うかどうかの検討材料にするため
  • 不当解雇の裁判や労働審判の証拠書類にするため

 

従業員が解雇について会社と争う場合、自分の解雇理由を確認することが最初のステップになります。

その上で、不当解雇として争うかどうか、どのような主張をするか等を検討します。

そのため、解雇理由証明書の交付を求めてきた時点で、従業員は、解雇に納得できないと感じている可能性が高いと言えるでしょう。

解雇した従業員から解雇理由証明書の発行を求められた時、会社としては、今後、解雇をめぐって従業員と争いになる可能性がある、ということを念頭に置いておく必要があります。

また、解雇理由証明書は、労働審判や裁判等で証拠として提出されるケースがあります。

解雇理由証明書を作成するときは、裁判等の証拠として提出される可能性を踏まえて作成することが重要です。

 

7,「解雇した従業員が解雇理由に納得できない場合」その後予想される展開

では、解雇した従業員から解雇理由証明書を求められた場合、その後の展開としてどのようなことが予想されるのでしょうか?

 

(1)ユニオンへの加入や労働審判、訴訟等

この点については、解雇が不当解雇であると主張して、金銭的な請求や解雇の撤回を求めてくることが予想されます。

具体的には以下のような展開です。

 

  • 労働者側弁護士に依頼して会社に対して解雇の撤回を求めたり、金銭的な請求をしてくる
  • 外部の労働組合(ユニオンや合同労組)に加入して、団体交渉を申し入れ、会社に対して解雇の撤回を求めたり、金銭的な請求をしてくる
  • 会社に対して労働審判や訴訟を起こして、解雇の撤回を求めたり、金銭的な請求をしてくる

 

なお、参考情報として、「解雇の撤回」についてや、「団体交渉とはどのようなものか」「労働審判を起こされた時の会社側の対応」、また「解雇の訴訟について勝てる会社と負ける会社の違い」などを以下で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

(2)不当解雇と判断されるとどうなるか?

裁判所で解雇が十分な理由のない不当解雇であると判断されてしまうと、解雇が無効であることになり、解雇後も従業員との雇用関係が継続し、事業主として賃金の支払義務を負うことになってしまいます。

また、解雇後賃金を払っていなかった期間について、解雇の時点にさかのぼって賃金を支払うことを余儀なくされることになります。これを「バックペイ」と言います。

これらの点は非常に大きな負担になることがありますので、決して安易に考えてはいけません。

どのような場合に不当解雇になるかについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

8,【トラブル回避法】エピソードの具体性と数に注意して書く

では、解雇理由証明書を交付した後に上記のように解雇をめぐってトラブルになることをできるだけ避けるためにはどうすればよいのでしょうか?

 

(1)労働者側弁護士や労働組合の担当者が読むことを意識する

1つのポイントは、解雇理由証明書を、従業員が解雇について相談する労働者側弁護士や外部の労働組合の担当者なども読む可能性が高いことを意識して作成することです。

労働者側弁護士や労働組合の担当者が読んだときに、事業主による解雇について十分な理由があることを理解できる書面にしておくことで、雇用の終了を争うことは困難であると理解してもらえるような内容を目指すべきでしょう。

労働者側弁護士や労働組合の担当者にそのように理解してもらうことができ、従業員に対し、雇用の終了を認める方向で説得してもらうことができれば、訴訟を回避することができる可能性が出てきます。

 

(2)エピソードの日時、内容を特定して記載する

では、労働者側弁護士や労働組合の担当者が読んだときに、解雇について十分な理由があることを理解できる書面にするためにはどうすればよいのでしょうか。

解雇が無効であるとして訴訟を起こされた場合に、事業者が抽象的に「ミスが多かった」とか「業務上の指示に従わなかった」といった主張をするだけでは裁判所に解雇の有効性を認めてもらえることはありません。

そのため、解雇理由証明書にこのような抽象的な内容のみを記載した場合、それを見る労働者側弁護士や組合担当者に雇用の終了を争う余地が十分にあるという印象を与えてしまいます。

つまり、「これなら勝てそうだ」という印象を与えてしまいます。

そうではなく、解雇の理由となる能力不足や業務命令違反等のエピソードについて日時と内容を具体的かつ緻密に特定して、解雇理由証明書に記述することにより、これを読む労働者側弁護士や組合担当者に雇用の終了を争うことは困難であるということを印象付けるべきでしょう。

それまでの指導の過程で作成された業務日報や指導記録などを見直したうえで、解雇の理由となる具体的なエピソードを整理して記載することが適切です。

 

(3)十分な数のエピソードを挙げる

重大な非違行為があるようなケースを除けば、解雇理由証明書に記載する解雇に関するエピソードは、1つ1つの具体性だけでなく、エピソードの数も重要です。

問題点についてのエピソードを十分な数あげることができない場合は、それを見る労働者側弁護士や組合担当者に雇用の終了を争う余地が十分にあるという印象を与えてしまいます。

過去の業務日報や指導記録を見返し、十分な分量のエピソードをあげることがベストです。

筆者が作成する場合、解雇理由証明書はA4用紙で相当量のページ数になることが通常です。

 

(4)十分な指導を行ったことを記載する

もう1つのポイントは、十分な指導を行い、機会を与えたにもかかわらず、問題点が改善されなかったことを記載することです。

特に未経験者として採用した従業員についての能力不足を理由とする解雇事案では、事業主から十分な指導が行われた履歴がなければ、裁判所は解雇を有効とは認めません。

そのため、解雇理由証明書において、事業者からの指導の履歴について特に言及しなかった場合、それを見る労働者側弁護士や組合担当者に雇用の終了を争う余地があるという印象を与えてしまいます。

そこで、解雇理由証明書の解雇理由の記載においては、指導を十分に行ってきたことやこれ以上の指導を経ても改善が見込めなかったことがわかるように記述することを意識する必要があります。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

上記でご説明した点のほかに、そもそもどのような解雇理由であれば正当な解雇理由と認められるのかについて確認しておくことも必要です。

以下の記事では15個の解雇理由について、どのような場合に正当な解雇理由となるのかを解説していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:正当な解雇理由とは?15個の理由例ごとに解雇条件・解雇要件を解説

 

9,解雇通知書と解雇理由証明書の違い

解雇通知書と解雇理由証明書の違い

解雇理由証明書と混同されやすいものとして解雇通知書があります。

解雇通知書とは、事業者が従業員に対して解雇の意思表示のために交付する書面のことをいいます。

解雇通知書にも解雇理由を記載することが通常です。ただし、解雇の意思表示は口頭でも行うことができ、解雇通知書は、解雇理由証明書とは違い、発行が義務づけられている書面ではありません。また、解雇通知書は事業者の判断で作成する書面であるのに対し、解雇理由証明書は従業員から請求された際に作成する書面であるという違いがあります。

解雇通知書は、解雇予告通知書と呼ばれることもあります。

一般的に、「解雇通知書」は解雇の予告をせず解雇予告手当を支払って即時解雇の場合に交付する書面、「解雇予告通知書」は30日前に解雇の予告をした上で解雇する場合に交付する書面のことを指すことが多いです。

ただし、このような区別をせず、従業員へ解雇を通知する際に交付する書面をまとめて「解雇通知書」と呼んでいるケースもあります。

解雇通知書・解雇予告通知書については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

 

10,解雇理由証明書に関するよくある疑問

ここからは、解雇理由証明書に関するよくある疑問にお答えします。

 

(1)解雇理由証明書の交付を拒否することができるか?

解雇理由証明書の交付は拒否することはできません。

解雇理由証明書を出さない場合、労働基準法違反になり、罰則が適用されます。

 

▶参考情報:労働基準法違反については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

労働基準法違反とは?罰則や企業名公表制度について事例付きで解説

 

(2)離職票で代用することができるか?

解雇理由証明書や退職証明書を離職票で代用することはできません(平成11年3月31日基発第169号)。

離職票の正式名称は「雇用保険被保険者離職票」といい、主に失業手当の申請手続きで必要となる書類で、ハローワークへ提出する書類です。

用途が異なるため、従業員からの求めがあれば、離職票とは別に、解雇理由証明書や退職証明書を発行する必要があります。

 

(3)アルバイトやパートには交付しなくてもよいか?

解雇理由書は、正社員だけでなく、アルバイトやパート、有期雇用、契約社員等のすべての労働者について、請求があれば発行する必要があります。試用期間中に解雇した場合も同様です。

なお、派遣社員から解雇理由証明書の発行を求められた場合、解雇理由証明書を発行するのは派遣先の会社ではなく、派遣元の会社です。

 

(4)退職後に交付を求められたら応じる必要があるか?

退職後であっても、従業員から請求があった場合は、解雇理由を証明する書面を交付する必要があります。

ただし、解雇理由の証明を請求できるのは、解雇日から2年です。2年を経過してから請求された場合は、発行を拒否しても差支えありません。

 

(5)従業員から「納得できない」と主張された場合の対応

会社と従業員の間で解雇の理由について見解の相違がある場合、会社として認識している解雇理由を証明書に記載し交付すれば、基本的には、労働基準法で定められている交付義務を果たしたことになります(平成11年3月31日基発第169号)。

ただし、記載された内容が虚偽だった場合は、交付義務を果たしたことにはならないので注意が必要です。

例えば、証明書に記載した内容が本人に伝えた解雇理由と異なるものだったケース等がこれにあたります。

 

11,【補足】労働者側の立場からのよくある疑問

ここからは、労働者の方向けに、解雇理由証明書に関するよくある疑問について解説します。

 

(1)解雇理由証明書をもらえない場合の対応

会社が解雇理由証明書を発行してくれない時にできる対処法を3つご紹介します。

 

1,書面で請求する

口頭で解雇理由証明書を請求して発行を拒否された場合は、再度、書面で請求することをおすすめします。

書面で請求するのは、会社に対して解雇理由証明書を請求したということを形に残しておくためです。

口頭のやりとりは、言った言わないの問題になりがちです。そのようなトラブルを避けるためにも、書面でやり取りを残しておくことは重要です。

書面でやり取りを残しておけば、後に労働審判や裁判等の手続き等において、会社が解雇理由証明書の発行を拒否したことを示す証拠として提出することもできます。

 

2,労働基準監督署へ相談する

労働基準監督署は、企業が労働基準法を守って営業しているかを監督する機関です。

正当な理由がないのに解雇理由証明書の発行を拒否することは、労働基準法違反になるので、労働基準監督署から会社に対して是正勧告等をしてもらえる可能性があります。

 

3,弁護士へ相談する

自分で会社と交渉することに負担を感じる場合や、不当解雇として会社と争うことを考えている場合は、弁護士へ相談することも方法の一つです。

弁護士へ依頼すると、弁護士が会社とのやり取りの窓口になってくれるので、精神的な負担を軽減することができます。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

咲くやこの花法律事務所では個人の方からの相談には対応しておりません。

事業者としては、解雇理由証明書の交付は拒否せず、必ず事前に弁護士に相談したうえで早急に、かつ十分なものを作成するようにしてください。

 

(2)解雇理由証明書が虚偽だと感じた場合の対応

解雇理由証明書に書かれた解雇理由があらかじめ伝えられていた内容と異なる場合や、嘘の理由が書かれていた場合は、会社に訂正を求めることができます。

解雇理由証明書に虚偽の内容を記載した場合は、会社は労働基準法で定められた交付義務を果たしたことにはなりません。

会社が訂正に応じない場合は、労働基準監督署や弁護士への相談も検討しましょう。

 

(3)ハローワークとの関係

解雇理由証明書は、基本的には、ハローワークとの関係で提出を求められることはありません。

雇用保険の失業給付の手続き等のハローワークの手続きで必要になるのは離職票です。

 

12,解雇トラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績

ここまで解雇理由証明書について解説いたしました。

筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では、解雇に関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。

咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますので、解雇のトラブルでお困りの際は、ご参照ください。

 

成績・協調性に問題がある従業員を解雇したところ、従業員側弁護士から不当解雇の主張があったが、交渉により金銭支払いなしで退職による解決をした事例

解雇した従業員から不当解雇であるとして労働審判を起こされ、1か月分の給与相当額の金銭支払いで解決をした事例

元従業員からの解雇予告手当、残業代の請求訴訟について全面勝訴した事案

 

13,解雇理由証明書に関して弁護士に相談したい方はこちら(法人専用)

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による、解雇に関するトラブルについての企業向けサポート内容についてご説明したいと思います。

 

(1)解雇理由証明書作成のご相談

解雇理由証明書の作成に不備があると、後日、解雇について訴訟等に発展してしまったときに、会社からの主張に制約が生じてしまうことになります。

また、解雇理由証明書の書き方を工夫することによって、解雇に十分な理由があることを明確にし、解雇の効力をめぐって訴訟が起こされることを回避できることがあることも前述したとおりです。

解雇理由証明書の不備により、企業として後日、不利益を受けることは少なくありませんので、弁護士に相談したうえで作成していただくことをおすすめします。

 

解雇トラブルに精通した弁護士への相談費用

  • 30分5000円+税(顧問契約ご利用の場合は無料)

 

(2)解雇後のトラブルに関する交渉、裁判対応、団体交渉対応のご相談

咲くやこの花法律事務所では、解雇後に従業員とトラブルになってしまった場合の交渉や、裁判を起こされた場合の対応についても多くの実績があります。

解雇が裁判所で不当解雇と判断されてしまうと、1000万円を超える金銭支払いを命じられるケースも少なくありません。

解雇トラブルの対応には専門的な知識、ノウハウが不可欠ですので、解雇問題に精通した咲くやこの花法律事務所におまかせください。

 

解雇トラブルに精通した弁護士への相談費用

  • 30分5000円+税(顧問契約ご利用の場合は無料)

 

(3)顧問弁護士サービスについてのご相談

咲くやこの花法律事務所では、解雇トラブルの予防や対応の分野にとどまらず、企業の労務管理全般の整備を支援するために、顧問弁護士サービスで多くの企業をサポートしてきた実績があります。
トラブル発生時に場当たり的に対応するのではなく、日ごろから継続的に労務管理の整備を少しづつ進めていくことが、トラブルに強い企業を作るための近道です。

日ごろから顧問弁護士の助言を受けながら、労務管理の改善を進めていきましょう。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下をご参照ください。

 

 

14,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

解雇など問題社員トラブルに関するご相談は、下記から気軽にお問い合わせください。今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

15,労働問題に関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)

問題社員トラブルなど労働問題に関するお役立ち情報について、「咲くや企業法務.NET通信」のメルマガ配信や「咲くや企業法務.TV」のYouTubeチャンネルの方でも配信しております。

 

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16,【関連情報】解雇に関するお役立ち記事一覧

この記事では、「解雇理由証明書とは?書き方や注意点を記載例付きで解説【サンプル付き】」について、わかりやすく解説いたしました。

解雇については、実際に従業員を辞めさせたい場面になった際は、解雇ができるかどうかの判断をはじめ、初動からの正しい対応方法など全般的に理解しておく必要があります。

そのため、他にも解雇に関する基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大な解雇トラブルに発展してしまいます。

以下ではこの記事に関連する解雇のお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

解雇の基礎知識関連のお役立ち記事一覧

正当な解雇理由とは?15個の理由例ごとに解雇条件・解雇要件を解説

解雇制限とは?法律上のルールについて詳しく解説します

労働基準法による解雇のルールとは?条文や解雇が認められる理由を解説

解雇の種類にはどんなものがある?わかりやすい解説

整理解雇とは?企業の弁護士がわかりやすく解説

諭旨解雇(諭旨退職)とは?わかりやすく解説

正社員を解雇するには?条件や雇用継続が難しい場合の対応方法を解説

契約社員を解雇するには?絶対におさえておくべき重要な注意点

中途採用の従業員を解雇する場合の重要な注意点3つ

派遣社員の解雇についてわかりやすく徹底解説

試用期間中の解雇についておさえておくべき注意点を解説

うつ病の従業員を解雇する際に必ずさえておくべき注意点4つ

能力不足の従業員を解雇する前に確認しておきたいチェックポイント!

【要注意!】勤務態度が悪い従業員を解雇する場合の重要な注意点

パワハラ(パワーハラスメント)を理由とする解雇の手順と注意点

セクハラ(セクシャルハラスメント)をした社員の解雇の手順と注意点

 

解雇方法関連のお役立ち記事一覧

問題社員の円満な解雇方法を弁護士が解説

従業員を即日解雇する場合に会社が必ずおさえておくべき注意点

 

解雇後の手続き関連のお役立ち記事一覧

従業員解雇後の離職票、社会保険等の手続きを解説

 

注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

 

記事更新日:2024年2月14日
記事作成弁護士:西川 暢春

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    発売日:2023年11月19日
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    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
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    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
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