こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
雇用契約書についてわからないことがあり、困っていませんか?
雇用契約は口頭でも成立し、雇用契約書の作成は法律上の義務ではありません。ただし、労働基準法第15条1項で雇用時に労働条件を書面で労働者に明示するべきとされていることへの対応や、労使間のトラブル防止の観点から、企業は雇用契約書を作成することが通常です。
しかし、一方で、雇用契約書の作成の不備によるトラブルも多いです。
例えば、以下のようなトラブルがあります。
事例1:
雇用契約書の記載の不備で未払い残業代約180万円の支払いを命じられた事案(大阪高等裁判所判決平成29年3月3日)
給与明細では固定残業手当の額を明記していたが、雇用契約書では単に「月給25万円 残業含む」とのみ記載していた事案について、裁判所は、労働契約時において、月給25万円の中に何時間分の固定残業手当が含まれているかが明確にされていなかったとして、固定残業手当について十分な合意があったとは認めず、残業代未払いと判断しました。
事例2:
雇用契約書の記載が無効とされた事案(徳島地方裁判所判決昭和45年3月31日)
雇用契約書では試用期間を1年と記載していたが、就業規則で試用期間を2ヶ月と定めていたことから、雇用契約書の試用期間についての記載が無効と判断されました。
事例3:
雇用契約書の不備により、従業員の転勤拒否を理由とする解雇が無効とされ、約290万円の支払いを命じられた事案(大阪地方裁判所判決平成28年2月25日)
求人票や就業規則では転勤に応じる必要があることを明記していましたが、雇用契約書に転勤についての記載がなかったことから、転勤拒否を理由とする懲戒解雇が無効と判断されました。
これらの例からもわかるように、雇用契約書を不備なく作成することは非常に重要です。
この記事では、雇用契約書の基本的なルールについて説明したうえで、このような労務トラブルを避け、不備のない雇用契約書を作成するための重要な注意点について解説します。この記事を最後まで読んでいただくことで正社員との間で雇用契約書を不備なく作成することが可能です。
それでは見ていきましょう。
厚生労働省の統計によると、全国の労働局が実施している民事上の個別労働紛争の相談件数は増え続けています(令和元年度は279,210件)。
▶参考情報:厚生労働省「令和元年度個別紛争解決制度の施行状況」
雇用契約書はこのような労使トラブルを防ぐ最初の一歩となるものであり、これまで作成していなかった会社も、トラブルが増えている近年の状況を踏まえて、早急に整備を進めることが必要です。ただし、一方で、公開されているテンプレートを安易にそのまま使用したことにより、雇用契約書に不備が生じて、ご紹介した3つの事例のようなトラブルが起きるケースも増えています。
雇用契約書の整備は、労務管理に精通した弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
▶【動画で解説】西川弁護士が「正社員の雇用契約書について5つの重要ポイント」について詳しく解説中!
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,雇用契約書とは?
雇用契約書とは、企業と従業員の間の雇用契約の内容を書面化したものです。就業規則や賃金規程が従業員の労働条件を集団的に規律するものであるのに対し、雇用契約書は個別の従業員ごとの労働条件を確認するものです。従業員を雇用する際に雇用契約書で労働条件をお互いに確認することは、労使間の紛争防止に役立ちます。
そして、雇用契約書は、自社の労務環境、就業環境にマッチしたものを作成する必要があります。自社の労務環境、就業環境にマッチしない雇用契約書は、かえって、労使紛争の原因になりかねません。
また、自社の就業規則や賃金規程との整合性を確認しながら作成することが重要です。
(1)雇用契約書の作成は義務ではない
雇用契約書の作成は義務ではなく、雇用契約書を作成せずに、例えば、「労働条件通知書」で対応している企業もあります。
労働基準法第15条1項は、雇用主に対し、従業員を雇用する際は、労働条件を書面で従業員に明示することを義務づけていますが、何らかの書面で明示すればよく、必ずしも雇用契約書である必要はありません。労働条件通知書で対応することも適法です。
労働条件通知書の書式は厚生労働省のダウンロードコーナーからもダウンロードすることが可能です。
労働条件通知書についても、雇用契約書と同様、自社の労務環境、就業環境にマッチしたものを作成すること、自社の就業規則や賃金規程との整合性を確認しながら作成することが重要です。自社の労務環境、就業環境にマッチしない労働条件通知書や就業規則や賃金規程と整合しない労働条件通知書は労使紛争の原因になりますので注意してください。
(2)労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書は、通常、従業員の署名、捺印がされず、記載された労働条件に基づき就業することを従業員が同意したことが明確になる書面とは言い難い面があります。
これに対して、雇用契約書は、従業員が署名、捺印するため、記載された労働条件に基づき就業することを従業員が同意したことが明確になります。
従業員との間で労働条件についてトラブルになることを避けるという観点からは、労働条件通知書ではなく、雇用契約書を作成することで対応することをおすすめします。
2,雇用契約書の法的効力
雇用契約書の法的効力について、重要なルールが、労働基準法第13条と労働契約法第13条です。
(1)雇用契約書と労働基準法の関係
労働基準法第13条は、労働基準法に違反する雇用契約は、その違反部分が無効となり、無効となった部分については、労働基準法に定められた基準が適用されることを定めています。
例えば、1日の所定労働時間は原則として1日8時間までです(労働基準法第32条2項)。仮に1日の所定労働時間を10時間と定めても、労働基準法に違反していますので、労働基準法の基準が適用されて、8時間が1日の所定労働時間になります。
▶参考情報:労働基準法違反については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(2)就業規則との優先関係について
労働契約法第13条は、就業規則に規定されている労働条件を下回る労働条件を雇用契約書で定めてもその部分は無効になり、無効となった部分については就業規則で定められた労働条件が適用されるとしています。
例えば、就業規則の一部にあたる賃金規程に、資格者に資格者手当を支払うことを定めている場合、雇用契約書で「試用期間中は資格者手当の対象外」と定めたとしても、それは就業規則の労働条件を下回るため無効となり、試用期間中も資格者手当を支払う必要があります(東京地方裁判所判決平成24年8月23日)。
(3)その他の関係する法律
雇用契約書については、上記のほか、労働契約法に以下の条文がおかれています。
●第3条1項 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
●第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
●第17条1項 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。
・参照元:「労働契約法」の条文はこちら
上記のうち、特に「3条1項」は、雇用契約の締結、変更の場面で労使対等の立場による合意が必要であることを示すものです。
雇用契約の締結や変更の場面では、労使間の力関係の差が契約内容に影響しがちですが、労使対等の立場による合意を常に意識する必要があります。
3,正社員の雇用契約書を作成する際の書き方と注意点5つ
ここまで雇用契約書の一般論をご説明してきました。
ここからは、これまでのご説明を踏まえて、「正社員の雇用契約書を作成する際の書き方でおさえておきたい注意点5つ」について見ていきたいと思います。
5つのポイントは以下の通りです。
- ポイント1:雇用契約書に必要な記載事項の項目を網羅する
- ポイント2:どの労働時間制を採用するかを検討する
- ポイント3:転勤の有無を明確にする
- ポイント4:人事異動、職種変更の有無を明確にする
- ポイント5:試用期間を明記する
以下で順番に詳しく見ていきますが、まずは、「正社員」の定義について確認しておきたいと思います。
「正社員」とは?定義を解説
1,正社員の定義
「正社員」とは、退職や解雇などの特別な事情がない限り、定年までフルタイムで雇用を継続する内容の雇用契約を企業と締結した従業員を指します。
正社員は、長期の雇用を前提に、企業内で育成され、キャリアをつむに従って賃金等も引き上げられることが通常です。
2,他の雇用形態との比較
従業員の雇用形態としては、「正社員」のほかに、「契約社員」や「パート社員」などがあります。
(1)「契約社員」
期間限定の雇用契約であり、定年までの雇用ではない点が、正社員と異なります。
(2)「パート社員」
「正社員」よりも所定労働時間が短い従業員であり、フルタイムの雇用ではない点が、正社員と異なります。
このように、「パート社員」や「契約社員」との違いの観点からみると、「正社員」がまさに企業の中心メンバーであることがわかります。「正社員」が、定年までの長期の雇用を前提としたフルタイムの従業員であることをおさえておきましょう。
それでは、正社員の雇用契約書を作成する際の書き方でおさえておきたい注意点5つについて、それぞれ以下で詳しく見ていきましょう。
ポイント1:
雇用契約書に必要な記載事項の項目を網羅する
正社員の雇用契約書を作成する際の書き方でおさえておきたい注意点の1つ目は「雇用契約書に必要な記載事項の項目を網羅する 」という点です。
正社員を雇用する際は、雇用条件に関し、法律で決められた項目を明示することが、労働基準法施行規則で義務付けられています。
そのうち、「書面で明示すること」が義務付けられている項目は以下の「14項目」です。
正社員を雇用する際に、書面で明示することが義務付けられている14項目
- (1)労働契約の期間
- (2)就業の場所
- (3)従事する業務の内容
- (4)始業時刻
- (5)終業時刻
- (6)所定労働時間を超える労働の有無
- (7)交替制勤務をさせる場合は交替期日あるいは交替順序等に関する事項
- (8)休憩時間
- (9)休日
- (10)休暇
- (11)賃金の決定・計算方法
- (12)賃金の支払方法
- (13)賃金の締切り・支払の時期に関する事項
- (14)退職に関する事項 ※解雇事由を含む
上記の14項目を網羅しておくことが、正社員の雇用契約書を作成するうえでの基本的なポイントになりますのでおさえておきましょう。
雇用契約書の記載事項については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
ポイント2:
どの労働時間制を採用するかを検討する
正社員の雇用契約書を作成する際の書き方でおさえておきたい注意点の2つ目は「どの労働時間制を採用するかを検討する」という点です。
「労働時間制」とは労働時間に関する制度のことです。
法律上、「通常の労働時間制」(原則的制度)のほか、「変則的な労働時間制」を採用できるケースがあり、どの労働時間制を採用するかは、雇用契約書を作成する際の重要なポイントです。
また、「ポイント1」の(4)で、ご説明した通り、雇用契約書には、「始業時刻・終業時刻」を記載する必要がありますが、始業時刻・終業時刻を決める上でも、「どの労働時間制を採用するか」を検討しておくことが必要です。
まずは、「通常の労働時間制」(原則的制度)の内容を確認し、その後、「変則的な労働時間制」の内容を見ていきましょう。
1,通常の労働時間制(原則的制度)について
労働基準法上、企業は、従業員の所定労働時間を「1日8時間以内、1週間40時間以内」で設定し、少なくとも「週1日以上の休日を与えなければならない」とされています。
「1日8時間労働、週休2日」がその典型です。
そして、実際の労働時間が、「1日8時間、1週間40時間」を超えるときは、それは「残業」になります。
残業が発生するときは、以下の2つの対応が必要です。
(1)36協定の締結
企業は、従業員を、「1日8時間、1週間40時間」を超えて就業させるときは、時間外労働・休日労働に関する労使協定を締結し、労働基準監督署に提出することが必要です。
この労使協定は、労働基準法36条で義務付けられていることから、「36協定」(サブロク協定)と呼ばれます。
▶参考情報:36協定について
過重労働に対する法律上の規制の1つに「36協定」制度があります。36協定が締結できない場合は、企業は従業員を残業させてはならないというのが法律のルールがあります。この「36協定の制度について」については、以下で詳しく解説していますので、合わせて確認しておきましょう。
(2)残業代の支払い
企業が所定労働時間を超えて、従業員を就業させるときは、残業代の支払いが必要です。
▶参考情報:残業代に関する労働基準法のルールなど基本的な知識について詳しく知りたい方は、以下をご参照ください。
以上が「通常の労働時間制」の内容です。
それでは次に、「変則的な労働時間制」について見ていきましょう。
2,変則的な労働時間制について
労働基準法で認められる「変則的な労働時間制6種類」。
- 1,専門業務型裁量労働制
- 2,管理監督者制度
- 3,事業場外のみなし労働時間制
- 4,特例措置対象事業場制度
- 5,変形労働時間制
- 6,フレックスタイム制
これらの6つの制度を、残業代の面からみると、6つのうち、「1,専門業務型裁量労働制」から「3,事業場外のみなし労働時間制」までの3つの制度は原則として残業代が発生しない制度となります。
一方、「4,特例措置対象事業場制度」から「6,フレックスタイム制」については、残業代は発生しますが、一部残業代の発生を減らすことができる可能性がある制度といえます。
以下では6つの制度について順番に、制度の概略や制度採用時のメリットとデメリットを説明していきたいと思います。
(1)専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、一部の専門的な職種について、実労働時間にかかわらず、あらかじめ決めた時間を労働したとみなす制度です。
専門業務型裁量労働制のメリット、デメリットは以下の通りです。
●メリット:
労使協定で「1日8時間労働したものとみなす」と定めておけば、実労働時間にかかわらず、残業代の支払いをする必要がありません。ただし、深夜割増賃金、休日割増賃金の支払いは必要です。
●デメリット:
厚生労働省が定める19の専門的な職種(システムコンサルタントやコピーライター、デザイン考案業務など)にしか採用できず、制度を採用できる場面がかなり限定されています。
専門業務型裁量労働制について、詳しくは以下をご参照ください。
(2)管理監督者制度
管理監督者制度は、一般の従業員を管理、監督する立場の管理職について残業代の支払い対象から除外する制度です。
管理監督者制度のメリット、デメリットは以下の通りです。
●メリット:
実労働時間にかかわらず、残業代の支払いをする必要がありません。ただし、深夜割増賃金の支払いは必要です。
●デメリット:
裁判所では、労務管理上の重要な権限があって、かつ経営方針に関与する立場にあり、出退勤の自由が認められ、相応の待遇を受けている従業員のみが、管理監督者と認められています。
そのため、必ずしも社内の管理職全員に適用できるわけではないという制約があります。また、会社内で管理監督者であるとして残業代を支給しない扱いをしていても、後日裁判所で、「管理監督者にはあたらない」と判断されて、残業代支払いを命じられる危険があります。
管理監督者制度と残業代については以下の「未払い残業代請求について」も合わせてご覧ください。
(3)事業場外のみなし労働時間制
事業場外のみなし労働時間制は、社外で働く従業員について、実際の就業時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定時間を働いたものとして賃金計算をすることを認める制度です。
事業場外のみなし労働時間制のメリット、デメリットは以下の通りです。
●メリット:
事業場外のみなし労働時間制を採用し、社外で働く従業員について「所定労働時間労働したものとみなす」旨を定めれば、実労働時間にかかわらず、原則として残業代の支払いをする必要がありません。
ただし、深夜割増賃金、休日割増賃金の支払いは必要です。
●デメリット:
事業場外のみなし労働時間制については、社外で業務に従事する従業員について、「会社による就業時間の管理が難しい場合」にのみ適用が認められています。
そして、「会社による就業時間の管理が難しい場合」にあたるかどうかは裁判所でかなり厳格に判断されており、必ずしも、社外で仕事をする従業員一般に適用できるわけではないという制約があります。
また、会社内で事業場外のみなし労働時間制を適用する扱いをしていても、後日裁判所で、「会社による就業時間の管理が難しい場合」には当たらないと判断されて、残業代支払いを命じられる危険があります。
このように、「(1)専門業務型裁量労働制」から「(3)事業場外のみなし労働時間制」は原則として残業代が発生しない制度ですが、いずれも適用できる場面が厳格に制限されていることに注意が必要です。
では、続いて、「(4)特例措置対象事業場制度」から「(6)フレックスタイム制」の制度についてご説明していきたいと思います。
「(4)特例措置対象事業場制度」から「(6)フレックスタイム制」は、残業代は発生するが、会社によっては残業代の発生対象時間を減らすことができる可能性がある制度です。
(4)特例措置対象事業場制度
特例措置対象事業場制度は、一定の条件を満たす小規模事業所については、従業員の就業時間が「1日8時間週44時間」を超える場合に限り残業代が発生するとする制度です。
通常の労働時間制では、1週間の労働時間が40時間を超えると残業代が発生しますが、従業員が10名未満の事業所で、対象業種(商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)に該当する場合は、特例措置対象事業場として、週44時間労働制が認められています。
例えば、小売店、美容院、病院、保育園などで利用することが可能です。
特例措置対象事業場制度のメリット、デメリットは以下の通りです。
●メリット:
従業員の就業時間が1日8時間週44時間を超えるまでは残業代が発生しません。
●デメリット:
従業員が10名未満の事業所で、対象業種(商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業)に該当する場合のみ、利用が可能です。
(5)変形労働時間制
変形労働時間制は、1年あるいは1か月などあらかじめ定めた期間について、週あたりの平均労働時間が週40時間以内であれば、特定の日に8時間以上あるいは特定の週に40時間以上の就業になっていても残業代が発生しないようにできる制度です。
変形労働時間制のメリット、デメリットは以下の通りです。
●メリット:
変形労働時間制を採用することにより、会社によっては残業代の発生対象時間を減らすことができる可能性があります。
たとえば、週のうち「月・火・水」は1日7時間労働で対応可能だが、「木・金」は残業があるという場合に、「月・火・水」の就業時間が8時間に満たない1時間分、合計3時間を、「木・金」に回して、「木・金」の所定労働時間を9時間30分とすることができます。
このようにすれば、毎週3時間分、残業代を削減することができます。
●デメリット:
変形労働時間制は業種を問わず広く採用可能な制度ですが、労使協定や労働基準監督署への届出が必要になります。
(6)フレックスタイム制
フレックスタイム制は、始業時刻、終業時刻を一定のルールのもとに従業員が自由に決定することができる制度です。
フレックスタイム制のメリット、デメリットは以下の通りです。
●メリット:
フレックスタイム制を採用することにより、会社によっては残業代の発生対象時間を減らすことができる可能性があります。
通常の労働時間制では、1日9時間働いた場合、その時点で1時間分の残業代の発生が確定します。
これに対して、フレックスタイム制では、例えば1か月といった清算期間を設け、その清算期間全体を平均して1日8時間週40時間を超えて働いたときにはじめて残業代が発生します。
そのため、1日9時間働く日もあれば、7時間働く日もあるといった場合、1か月といった清算期間の単位で平均して1日8時間を超えていなければ残業代が発生しないことになります。
●デメリット:
始業時刻、終業時刻を各従業員が自由に決定するため、従業員のマネジメントが困難になったり、社内のコミュニケーションが希薄化するおそれがあります。
以上、「通常の労働時間制」と「6種類の変則的な労働時間制」についてご説明しました。
それぞれのメリット、デメリットを踏まえて、どの労働時間制を採用するかを検討したうえで、雇用契約を作成することが重要なポイントです。
ポイント3:
転勤の有無を明確にする
正社員の雇用契約書を作成する際の書き方でおさえておきたい注意の3つ目は「転勤の有無を明確にする」という点です。
「ポイント1:雇用契約書に必要な記載事項の項目を網羅する」の(2)でご説明したように、「就業の場所」は雇用契約で明示するべき項目の1つです。
そして、雇用契約の際に就業の場所の明示が義務付けられているのは、「就業の場所がどこか」が、従業員にとって重要な事柄であるためです。
特に、「転勤がある雇用契約か、転勤がない雇用契約なのか」は、従業員にとっても大きな違いであり、場合によっては、就職先を選ぶ際の重要な判断材料になり得ます。
そして、最近は、企業からの転勤命令に対して、従業員が転勤を拒否して、訴訟トラブルに発展するケースも増えており、会社が従業員に対して「3,200万円」を超える支払いを命じられた裁判例も出ています(東京高等裁判所判決平成12年11月29日)。
このような転勤をめぐるトラブルを防ぐために、転勤がある雇用契約の場合は、以下の2点に注意しておきましょう。
注意点1:
会社の転勤命令には従う必要があることを、雇用契約書にも明記する
就業規則に転勤に関する規定がある企業が多いと思いますが、トラブル防止のためには、雇用契約書にも「会社の転勤命令に従う必要があること」を明記しておくことが必要です。
できれば、「大阪、名古屋、その他現在の本支店所在地に限らず新設支店への転勤を命じることがあり、従業員はこれに従わなければならない」などと想定される転勤先を具体的に明記しておくことをおすすめします。
注意点2:
採用面接の際にも転勤があることの説明をする
転勤があることについては、雇用契約書に記載するだけでなく、採用面接の際も明確に説明をしておくことが、採用後の転勤トラブルの回避につながります。
採用面接の際には転勤があることを説明するのを忘れないようにしましょう。
また、面接担当者が「雇用契約書では転勤命令ありとなっているが、実際には転勤がないように配慮する」などと説明して、あとでトラブルになるケースがありますので、雇用契約書の内容と、採用面接時の説明にずれがないように、面接担当者に徹底しましょう。
このように、転勤については、雇用契約書でその有無を明確にし、採用面接の際も明確に説明することが、トラブル防止のための重要なポイントですので、おさえておきましょう。
転勤命令、人事異動トラブルを防ぐポイントについては、以下で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
ポイント4:
人事異動、職種変更の有無を明確にする
正社員の雇用契約書を作成する際の書き方でおさえておきたい注意の4つ目は「人事異動、職種変更の有無を明確にする」という点です。
「ポイント1:雇用契約書に必要な記載事項の項目を網羅する」の(3)でご説明したように、「従事する業務の内容」は雇用契約で明示するべき項目の1つです。
そして、どのような業務に従事するのかは、従業員にとって、給与や就業場所と同様に重要な項目です。
例えば、「営業職として採用した従業員が、成績が上がらないので、営業事務への異動を命じたところ、異動を拒否された」などというように、会社からの職種変更の命令に対して、従業員がこれを拒否して、訴訟トラブルになるケースも発生しています。
このような、人事異動、職種変更をめぐるトラブルの防止のために、正社員の雇用契約書で「従事する業務の内容」について記載するときは、以下の点を注意しておきましょう。
「様々な職種への配属がありうるのか、それとも特定の職種のみに配属される専門職なのかを、雇用契約書で明確にする。」
以下では、「様々な職種への配属がありうるケース」と「特定の職種のみに配属される専門職のケース」にわけて、注意すべきポイントをさらに詳しく見ていきたいと思います。
1,「様々な職種への配属がありうるケース」における雇用契約書の作成上の注意点
例えば、新卒者を正社員採用するケースでは、様々な職種への配属がありうることが一般的です。
このようなケースでは、「入社後最初に配置される職種」や「従業員の希望職種」に限らず、様々な職種への配属がありうることを雇用契約書にも明記しておくことがトラブル防止につながります。
人事異動をめぐるトラブルについては以下の記事で詳しくご説明していますので、あわせてご参照ください。
また、判例上、「事務系の職種から労務系職種への異動」あるいは「その逆の異動」については、「就業規則等に異動に関する規定があったとしても、企業が一方的に異動を命ずることはできない」とされています。
そのため、自社の職種として、事務系の職種と労務系の職種の両方があり、事務系の職種から労務系職種への異動、あるいはその逆の異動もありうるという場合は、雇用契約書にその点も含めて明記しておくことをおすすめします。
この点については、以下の「職種限定契約でない場合も職種変更には制約がある」で詳しく書きましたので、併せてご参照ください。
2,「特定の職種のみに配属される専門職のケース」における雇用契約書の作成上の注意点
過去に長期間特定の職種で働いてきた人を中途採用するケースや、特定の資格の有資格者であることに着目して採用したケースでは、特定の職種のみに配属される専門職として採用するケースも多いでしょう。
例えば、同業他社で営業経験が長い人を自社の営業職として中途採用するケースや、介護保険施設でケアマネージャーが必要になった場合に有資格者を採用するケースがこれにあたります。
このような場合は、営業職なら営業職以外の職種への配属は予定されていないことが多いですし、ケアマネージャーならケアマネージャー業務以外の職種への配属は予定されていないことが多いと思います。
そこで、特定の職種のみに限定して配属されることを雇用契約書に明記しておくことをおすすめします。
雇用契約書への記載をおすすめするのは、記載しておかなければ、万が一、その従業員が会社の期待する水準の仕事ができずに解雇等を検討する場合に支障が生じることがあるためです。
特定の職種のみに配属される専門職として採用したことが雇用契約書で明確になっていない場合、解雇の前に他の職種への配置転換をして他職種での雇用継続可能性を検討するステップを踏まなければ、「不当解雇」であると判断する判例が多くなっていますので、注意が必要です。
雇用契約書で特定の職種のみに配属される専門職であることを明記しておけば、このような事態にはなりません。
以上、「様々な職種への配属がありうるのか、それとも特定の職種のみに配属される専門職なのかを明確にする」ことが、雇用契約書の重要ポイントの1つとなりますのでおさえておきましょう。
ポイント5:
試用期間を明記する。
正社員の雇用契約書を作成する際の書き方でおさえておきたい注意の5つ目は「試用期間を明記する」という点です。
「試用期間」の制度は、新しく採用した従業員を一定期間実際に就労させて、従業員としての適格性を判断したうえで、本採用するかどうかを決める制度です。
実際に一緒に働いてみないと、従業員としての適格性を判断できないということも現実にありますので、雇用契約書には試用期間を明記して、試用期間の制度を設けておくことをおすすめします。
試用期間中も雇用契約が成立していますので、試用期間経過後に、本採用するかどうかを自由に決めることができるわけではなく、不当に本採用を拒否すれば不当解雇と判断されることはありえます。
しかし、試用期間経過後に本採用を拒否することは、試用期間を設けていない場合の通常の解雇と比べれば、判例上、正当な解雇と認めてもらうためのハードルが若干低くなっています(三菱樹脂事件最高裁判所判決)。
その意味でも、万が一、新しく採用した従業員に適性がないという場合に備え、試用期間を雇用契約書に定めておくほうがよいといえます。
試用期間中の解雇については、以下で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
1,試用期間の長さを決める際の注意点
試用期間の長さを決める際は、就業規則との整合性にも注意が必要です。
「(2)就業規則との優先関係について」でご説明した通り、就業規則に規定されている労働条件を下回る労働条件を雇用契約書で定めてもその部分は無効になるからです(労働契約法第13条)。
そのため、就業規則で試用期間の長さを定めているときは、雇用契約書でそれよりも長い試用期間を定めても無効になることに注意してください。
実際に、就業規則で試用期間を2ヶ月としているにもかかわらず、雇用契約書では試用期間を1年と記載した事例について、雇用契約書の試用期間についての記載が無効と判断した裁判例も存在します(徳島地方裁判所判決昭和45年3月31日)。
また、試用期間の長さについては、あまり長く設定しすぎると裁判所で試用期間の規定が無効と判断される危険があります。
「3か月から6か月程度」の期間にしておかれることをおすすめします。
4,雇用契約書についてのよくある質問
以下では雇用契約書に関連してよくいただく質問にもお答えしたいと思います。
(1)在宅勤務について
在宅勤務の従業員を採用する場合も、通常の雇用契約書のひな形を修正することで対応可能です。
就業の場所を「自宅 」と記載したうえで、労働時間をどのようにして把握するかを記載した雇用契約書を作成します。また、在宅勤務については、「ポイント2:どの労働時間制を採用するかを検討する」でご説明した「事業場外のみなし労働時間制」を適用することも検討に値します。
この点については、在宅勤務の就業規則に関する記事で詳しく解説していますので、こちらをご覧ください。
あわせて、在宅勤務特有の点として、以下の項目を記載する必要があります。
- 在宅勤務中の通信費等、発生する費用の負担についての項目
- 在宅勤務者にも出社を命じることがある場合はその内容や交通費の負担に関する項目
以上は、常時在宅勤務の従業員のケースですが、感染症対策や家庭の事情などで臨時的に在宅勤務になるにすぎないケースでは、そもそも就業の場所を「自宅」とした雇用契約書を作成すべきではなく、通常の雇用契約書を作成するべきです。そのうえで、在宅勤務については、在宅勤務の就業規則を作って対応しましょう。
臨時的に在宅勤務になるにすぎないケースにまで、就業の場所を「自宅」とする雇用契約書を作成してしまうと、在宅勤務が必要なくなっても、会社の意向に反して在宅勤務を継続したいと主張されて、労務管理に支障が生じることがありますので注意してください。
(2)管理監督者の雇用契約書
労働基準法は、第41条で、「管理若しくは監督の地位になる者」(いわゆる「管理監督者」)については、時間外割増賃金、休日割増賃金の対象としないことを定めています。
この管理監督者の雇用契約書も、通常の雇用契約書のひな形を修正することで対応可能です。
ただし、管理監督者の雇用契約書を作成する際は、裁判所は、管理職であれば法律上の管理監督者に該当すると判断しているわけではなく、「経営者と一体的な地位にある管理職」についてのみ、管理監督者と判断していることに注意する必要があります。
この点を踏まえると、まず、雇用契約書に「従事する業務の内容」として、管理監督者にふさわしい労務管理上の重要な権限をもち、かつ、経営方針の決定に関与する業務であることがわかるように記載する必要があります。
裁判所は、労務管理上の重要な権限をもち、また、経営方針の決定に関与し、経営者と一体的な地位にある従業員のみ、法律上の管理監督者にあたるとしているからです。
次に、始業時刻、就業時刻、休憩時間等については、本人の裁量に委ねる旨を記載するべきです。例えば「始業午前9時、終業午後6時を基本とし、労働者の決定に委ねる」などと記載することになります。
裁判所は、法律上の管理監督者にあたるかどうかの判断にあたって、始業時刻、就業時刻、休憩時間等が本人の裁量にゆだねられていたかどうかも重視しているためです。
また、賃金については、管理監督者であることから、時間外割増賃金、休日割増賃金は支給しないことを記載してください。
▶参考情報:割増賃金について詳しくは、以下の記事で解説していますのであわせてご参照ください。
会社としては管理監督者として扱っていても、裁判所で管理監督者と認められずに、残業代の支払いを命じられてしまうという事例は非常に多いです。
どのような場合に管理監督者に該当するかの判断の基準については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
(3)雇用契約書に捺印する印鑑やサインについて
雇用契約書に捺印する印鑑は、実印でなくてもかまいません。また、従業員本人のサインがあればよく、捺印は必須ではありません。
捺印する場合、会社側は会社認印、従業員側も自分の認印を捺印することが通常です。ただし、シャチハタは大量に製造されて誰でも購入が可能であり、本人が雇用契約書に同意したことの証明になりづらいため、避けるのが原則です。
(4)住所について
雇用契約書の署名欄に、住所を記載することは必須とはいえません。本人のサイン又は捺印があれば、住所の記載がなくても、従業員本人が承諾したことが明確になるからです。
もし、住所を記載する場合は、住民票上の住所を記載すべきです。
(5)雇用契約書の割印
割印は、契約書が後で相手によって偽造されることを防ぐために、自社と相手方の契約書にまたがるように捺印します。
割印は特に偽装を防ぐ必要が高い場合にのみ捺印することが通常です。割印がなくても契約は成立しますし、割印がなくても、契約書として不備があるわけではありません。
雇用契約書については割印まで押さないのが通常だと思いますが、もちろん押してもかまいません。
(6)雇用契約書の電子化について
最近では雇用契約書の電子化に取り組む会社もあります。
以前は、雇用契約書を電子化しても、労働基準法第15条で、労働条件について書面の交付による明示が義務づけられていたため、別途、労働条件通知書を紙媒体で交付しなければならないという問題がありました。
しかし、平成31年4月に、労働基準法施行規則が改正され、従業員の希望があることを条件に、労働条件の通知も電子メール等で行うことが可能になり、この問題が解決されました(労働基準法施行規則5条4項)。
社内で紙の雇用契約書の保管が難しい場合や、リモートワークなどの事情で紙媒体での雇用契約書の取り交わしに郵送の手間がかかる場合は、雇用契約書の電子化も検討に値します。
労働条件の通知について電子メール等での通知を認めた労働基準法施行規則の改正については以下をご参照ください。
(7)雇用契約書作成のタイミング
雇用契約書の作成のタイミングについてご質問いただくこともあります。
労働基準法第15条は、労働条件についての書面での明示を義務付けていますが、これは、内定の段階で明示しなければならないと解釈されていることが一般的です。
そのため、従業員に内定を出す段階で、雇用契約書を提示し、内容を確認してもらい、内定と同時に雇用契約書を作成することがベストです。
このように採用の段階で雇用契約書の内容を確認してもらい、内容を承諾した応募者にのみ、内定を出すことで、雇用契約書の内容について後になって従業員から承諾できないと言われてトラブルになることを防ぐこともできます。
この雇用契約書の作成が遅れると、トラブルの可能性が高まります。
例えば、入社日になってはじめて雇用契約書を提示した場合、従業員の立場からすると思っていた内容と違ったということになる可能性があり、それをきっかけにトラブルになってしまう危険があります。
(8)雇用契約書原本の保管期間
雇用契約書は、従業員の在職中はもちろん、退職後も5年間は保管することが必要です(労働基準法第109条、労働基準法施行規則第56条)。
(9)雇用契約書に違反した場合
雇用契約書に会社が違反する場合には、「雇用契約書に記載のあるとおりの賃金を支払わない」、「雇用契約書に記載されている業務内容とは別の業務に就かせる」等のケースがあげられます。
こういった会社側の契約違反に対しては、従業員は、雇用契約書の内容通り賃金を支払うように求めたり、契約違反により発生した損害の賠償を会社に求めることが可能です。また、ただちに退職することも可能です(労働基準法第15条2項)。
これに対して、雇用契約書に従業員が違反して、例えば無断で欠勤したり、遅刻を繰り返す、あるいは雇用契約書に定められた業務を行うだけの能力がないといったケースもあります。
このような従業員側の雇用契約違反は、解雇理由になるかどうかの問題になりますが、日本では解雇は容易には認められず、不当解雇として後日訴えられるケースも多いので、慎重に検討することが必要です。
解雇については、以下の記事などで詳しく解説していますので参照してください。
(10)雇用契約書の労働条件が現実と違う場合
雇用契約書等で明示された労働条件が、事実と違う場合、従業員は「即時に労働契約を解除することができる」とされています(労働基準法第15条2項)。
つまり、すぐに退職することが可能です。また、会社に対する損害賠償請求も可能です。
(11)雇用契約書未提出のまま退職した場合
従業員が雇用契約書を提出しないまま退職してしまうというケースもあります。
会社から従業員に雇用契約書を提示したのに対し、従業員がその内容を承諾せずに退職してしまったのであれば、そもそも雇用契約の内容について十分な合意ができていなかった、つまり、雇用契約が成立していなかったと考えるほかないでしょう。
このような場合には、契約が成立していない以上、従業員に対して、出勤を督促したり、損害賠償請求等をすることはできません。
このようなトラブルを避けるためには、採用のタイミングで雇用契約書を提示して、その内容を確認してもらったうえで、採用を決めることが必要です。
一方、会社から従業員に雇用契約書を提示したのに対し、従業員もその内容で承諾していたという場合は、雇用契約書がまだ提出されていなくても、従業員の承諾があった時点で、雇用契約は成立していると考えることができます。
それにもかかわらず、従業員が会社の定める手続を踏まずに突然退職したのであれば、会社は従業員に対して損害賠償を請求することも理論上は可能です。
但し、民法627条1項により正社員については2週間前に申し出ればいつでも退職可能とされているため、損害賠償が認められるとしても、わずかな額になることが通常です。
福岡地方裁判所判決平成30年9月14日は、トラック運転手がトラック内に退職する旨の書き置きを残して失踪した事案について、会社から運転手に対する損害賠償請求を認めています。
5,雇用契約書がない場合の問題点は「もらえないこと」についての不安、不満
労働基準法が、雇用主に対し、従業員採用に当たり労働条件を明示することを義務付けているのは、雇用主に、賃金や就業時間等の重要な労働条件を明確にさせることを通じて、労働者を保護するためです。
このように、雇用契約書は、労働者保護の意味合いが強い書面であり、雇用契約書をもらえないことに対して、不安、不満を感じる従業員は少なくありません。
会社側から見た場合、雇用契約書を作成しないことの最大のデメリットは、従業員の間に、雇用契約書をもらえないことによる、不満、不安、不信が広がってしまうという点にあるといえるでしょう。
雇用契約書がない場合の会社のリスクやデメリットについては以下の記事や動画で詳しく解説していますので、ご参照ください。
▶参考動画:「雇用契約書がないとどうなる?デメリットを弁護士が詳しく解説【前編】」を公開中!
6,雇用契約書の内容に変更があった場合の注意点
いったん作成した雇用契約書の内容に変更が生じるケースもあります。
例えば、勤務時間や賃金を変更するケース、勤務地や業務内容を変更するケース、正社員の契約を契約社員に変更するケースなどです。
雇用契約書の内容を変更する場合は、会社と従業員の双方の合意が必要です。「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」とした労働契約法第8条が適用されます。
ただし、賃金を減額したり、正社員の契約を契約社員に変更するなど、従業員にとって不利益な方向に雇用契約書の内容を変更するケースについては、変更について書面での合意があったとしても、「従業員の自由な意思に基づく承諾」がなかったとして、合意の効力を否定する裁判例が増えています。
このような傾向から、雇用契約書の変更は、トラブルも多く注意が必要な場面です。以下で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。
7,雇用契約書(正社員)の雛形テンプレートのダウンロードはこちら
以下で、正社員の雇用契約書のテンプレート書式を掲載しますので、雛形をダウンロードしてご利用ください。
▶参考:正社員の雇用契約書のテンプレート書式の雛形ダウンロード
注意)なお、この記事では触れませんでしたが、正社員の賃金の記載について「固定残業代制度」を設ける場合は、この点についても雇用契約書の記載の仕方に注意が必要です。
これについては、以下の「固定残業代に関する雇用契約書の作成についての注意点」で詳しく解説していますので、ご確認ください。
8,契約社員、パート社員(アルバイト)の雇用契約書の作成方法について
また、補足としてここでは正社員以外の「契約社員」や「パート社員(アルバイト)」の雇用契約書について少しご説明しておきます。
契約社員、パート社員(アルバイト)については、正社員の雇用契約書とは別の注意が必要です。
(1)相談窓口など4つの項目の明示が必要
雇用する労働者が契約社員またはパート社員である場合、正社員に対して書面で明示が義務付けられている14項目に加えて、以下の4項目も、原則として書面で明示することが義務づけられています(パートタイム有期雇用労働法6条1項 、パートタイム有期雇用労働法施行規則2条1項 )。
- 退職金の有無
- 昇給の有無
- 賞与支給の有無
- 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
そのため、契約社員やパート社員の雇用契約書を作成するときは、これらの項目も盛り込んでおくべきです。
(2)「契約社員の雇用契約書の作成方法」と「パート社員(アルバイト)の雇用契約書の作成方法」について
契約社員、パート社員の雇用契約書には、記載事項の点以外にも、正社員の雇用契約書の作成方法と別の注意点があります。以下で詳しく解説していますので、契約社員を採用する際やパート社員を採用する際に、必ずチェックしておいてください。
1,契約社員の雇用契約書について
・契約社員の雇用契約書を作成する際の5つの重要ルール【雛形ダウンロード付】
2,パート社員(アルバイト)の雇用契約書について
・パート社員の雇用契約書を作成する際の重要ポイント【雛形ダウンロード付】
▶参考情報:西川弁護士が「パート社員の雇用契約書!重要ポイント」について弁護士が詳しく解説中!
(3)契約社員の雇用契約書を作成する際に必ずおさえておきたい注意点
- 1,所定労働時間は1日8時間以内かつ週40時間以内が原則。
- 2,雇用契約書の内容は就業規則の労働条件を下回ってはならない。
- 3,5年で無期契約に転換できる5年ルールに注意!
- 4,同一労働同一賃金ルールに注意!
- 5,労働条件の明示義務のルールによる法定の記載事項に注意!
契約社員の雇用契約書を作成する際は、この5つの注意点をおさえておく必要があります。
次に、パート社員(アルバイト)の雇用契約書についてご説明いたします。
(4)パート社員(アルバイト)の雇用契約書を作成する際に必ずおさえておきたい注意点
- 1,パート社員(アルバイト)の雇用契約書に記載する必要がある項目を網羅する
- 2,無期の雇用契約か有期の雇用契約かを決める
- 3,賃金の決め方については、就業規則、同一労働同一賃金ルール、最低賃金法に注意!
- 4,始業時刻・終業時刻の記載についての注意点
パート社員の雇用契約についても、この4つの注意点をおさえておく必要があります。
それぞれの雇用形態で雇用契約書の作成方法とおさえておくべき注意点はかわりますので、自社で人材を採用する際は注意しておきましょう。
9,雇用契約書に関して弁護士に相談したい方はこちら
雇用契約書の作成やリーガルチェックについては、咲くやこの花法律事務所の「労務管理の相談」のご相談の中でも大変多くなっています。
実際の相談については、トラブルが発生する前に正しい対策をしておく「予防法務」のひとつとして、数々の実績ある労働問題に強い弁護士が雇用契約書関連のご相談を担当しています。
具体的な、咲くやこの花法律事務所における雇用契約書に関するサポート内容とおおまかな費用の目安は以下の通りです。
(1)具体的な社内事情にあわせた雇用契約書の作成
今回の記事に、雇用契約書の一般的なひながたをアップロードしていますが、実際の雇用契約書の作成にあたっては、具体的な勤務体系や仕事の内容、賃金体系を考慮したうえで、それらを踏まえた内容で作成することが必要です。
咲くやこの花法律事務所においては、労務問題に精通した実績豊富な弁護士が、各企業の具体的な事情に適合する雇用契約書の作成を行っております。
咲くやこの花法律事務所の契約書に強い弁護士による雇用契約書作成の弁護士費用例
●初回ご相談料/30分5000円(税別)
●雇用契約書作成費用/3万円(税別)〜
(2)自社で作成した雇用契約書のリーガルチェック
咲くやこの花法律事務所では、すでに自社で雇用契約書を作成されている企業のために、作成された内容について弁護士がリーガルチェックを行うサービスも行っております。
労務トラブル防止のための基本的な書類である雇用契約書について、弁護士のチェックを受けることは、労務に関する法的な整備をすすめるうえで必要不可欠です。
咲くやこの花法律事務所の契約書に強い弁護士による雇用契約書のリーガルチェックの弁護士費用例
●初回ご相談料/30分5000円(税別)
●雇用契約書のリーガルチェック費用/2万円(税別)~
「正しい雇用契約書になっているか不安」、「今、雇用契約書を作成しようとしている」など、雇用契約書に関するお困りごとがありましたら、トラブルが発生する前に早めに「咲くやこの花法律事務所」までご相談下さい。
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
10,【関連情報】雇用契約書に関するお役立ち記事一覧
今回の記事では、「雇用契約書とは?正社員用の書き方など作成方法について」をテンプレート(ひな形)ダウンロード付きでご説明しました。
今回ご紹介した記事のように、正社員を雇用する際は雇用契約書を締結しますが、その際、この記事でも解説したように、「就業規則との整合性」などにも注意する必要があります。そのため、以下では、就業規則のお役立ち情報についてもまとめておきますので、必ず合わせてご覧ください。
・就業規則について!義務や作成方法・注意点などを弁護士が解説
・就業規則の変更手続きと不利益変更や同意書取得に関する注意点
実際に正社員の従業員を雇用されている会社では、自社にあった最適な雇用契約書を作成しておく必要があります。そのため、雇用契約書を整備しておくことはもちろん、万が一「労務トラブル」などが発生した際は、スピード相談が早期解決の重要なポイントです。
雇用契約書の作成や変更については、「労働問題に強い弁護士」に相談するのはもちろん、普段から自社の労務環境の整備を行っておくために「労働問題に強い顧問弁護士」にすぐに相談できる体制にもしておきましょう。
顧問弁護士の役割や必要性、相場などの費用感については、以下の記事をご参照ください。
また、労働問題に強い「咲くやこの花法律事務所」の顧問弁護士サービスの内容については、以下をご参照ください。
▶【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら
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注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年5月9日
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